MNP/孫氏の戦略 【5.民の扇動: MNP以外の争点へ(音声定額、通話品質、コンテンツ)】
『MNP/孫子の戦略』の5回目は、「5.民の扇動: MNP以外の争点へ(音声定額、通話品質、コンテンツ)」をテーマにしたい。
孫子の戦略には『戦争とは敵をだます行為である』とある。現代のそれはマーケティング上の戦争であるので敵をだますというより、出し抜くことが必要である。もちろん自社の従業員や顧客をだますこともできない。自社の戦略と商品情報、サービス精神をきちんと伝えることが必要である。
【兵站こそ生命線】
孫子曰く。『巧みに軍を運用する者は、民衆に二度も軍役を課したりせず、食糧を三度も前線に補給したりはしない。戦費は国内で調達するが、食糧は敵に求める。このようにするから、兵糧も十分まかなえるのである』
引用元 http://maneuver.s16.xrea.com/cn/sonshi.html
ソフトバンクに死角があるとすれば、孫氏から最前線まで、タテに伸びきった兵站にある。孫子曰く『兵站(今風ならロジスティクス)こそ生命線』であるが、前線の部隊(販売店)に満足な説明力も与えないまま、戦略的に予想外の発車をした料金プランに現場が追いつかず、システムも追いつかず、疲れきっているという話もある。MNP開始後最初の土日は、販売店員は長時間の労働を強いられランチも満足に食べる時間もなく、たいへんだったという。ソフトバンクの販売店の方々、ご苦労さま。
何かとマスコミに登場した六本木店。
契約変更端末ジニーのシステム障害のおかげで、お客さんが減って現場はほっと一息がつけたという笑えない話もある。次の波は年末である。従業員は2度はだませない。今度はきちんとした説明をして、お客様を笑顔で迎えてもらいたいものである。
逆に言えば、DoCoMo、特にauの『顧客満足度No.1』戦略が、ソフトバンクのそれと対照的である、というイメージ付けができれば差別化になる。「やっぱりauに入ってよかった」と言わせるのは店頭のコミュニケーションだから。
【ケータイ民族の優先順位】
お客さまへの対応が、ソフトバンクのシステム障害で軽視されるの中で始まったMNP/番号ポータビリティ。そっちが話題になり、報道もお客様のニーズ/嗜好の変化については軽視している。何が携帯電話を乗り換えるほんとうの争点なのか?語られているようで語られていない。
もっとも最近わたしが目にした携帯電話の利用動向に関する調査は、「家族割引と年間契約割引の契約は約7割~携帯電話の料金に関する調査」である。
テーマは「携帯電話の料金に関する調査」であり、月額料金や通話料金に関する意識を探るというもの。調査対象者は18歳~50代の携帯電話ユーザー300人。この調査のポイントは次の通り。
1)回答者の月額料金は「3,000円以上5,000円未満」で31.0%(93人)、次いで「5,000円以上8,000円未満」、この2つの価格帯の合計で6割。
2)料金オプションでは、「家族割引」で72.3%(217人)、次いで「年間契約割引」で71.0%(213人)。上位2つのオプションで7割となった。
3)よく電話をかける通話先の種類を尋ねる質問では、「同じ携帯電話会社の携帯電話」が78.0%(234人)、次いで「異なる携帯電話会社の携帯電話」が56.7%(170人)で、携帯電話同士の通話が上位を占めた。
こんなものかしら。
この料金調査からみえてくるのは、同じ携帯会社にかけたいという人が多いこと、割引には敏感であることである。現実にはケータイはまだ「(さまざまな機能を駆使する)携帯ギア」ではなく、まだ「携帯電話」が主流という事実である。同じ携帯電話会社同士のかけ放題/定額プランは価値があると見られている。料金をめぐる意識はだいたいこんなところだろう。
【ケータイ民族の心を動かす‘森’戦略】
ケータイ民族のニーズはおおむね次の三つに集約されると思う。それは「お得」「便利」「カッコイイ」である。
「お得」は料金プラン、「便利」はコンテンツや機能、「カッコイイ」はデザインやキャラクター・イメージである。現時点では、民の心の中では、だいたいこの順序になっている。そのどこに重心をおくか携帯各社の戦略であるが、DoCoMo、auはフルラインであるので、三番手のソフトバンクやPHSのウィルコム、携帯新規参入会社がどう資源を割り付けるかが大切なポイントである。
シェークスピアの『マクベス』には、マクベスに「バーナムの森が動く」と言わしめた挿話がある。数が劣勢であるはずの敵が、兵士に木々の小枝を持たせて行軍し、実際の数以上の兵力を錯視させたという挿話。
ソフトバンクは大手2社に相対的に少ない経営資源で、お得・便利・カッコイイの三拍子にすべて応えるように見せる必要がある。いわば従業員に木の枝を持たせて「森が動いている」かのように見せること、これが民を煽動する戦略である。
孫氏は今のところ「お得」の森を「予想外割」という大風で揺らし森が動くように見せた。見事であった。ただDoCoMoやマスメディアは動いたが、お客まではまだ動いていない。次のステップは「便利」となるが、MySpaceとの提携が目玉である。SNSや動画を含んだ定額パッケージをどう打ち出してくるか。これが次の森を動かす方針であろう。 マードック氏と孫氏。myペース?記者会見。
「カッコイイ」に関しては、木を森に見せかけるイリュージョンでは無理である。カッコイイ=ブランド構築だからである。何年もかかって構築するものである。ソフトバンクないし孫氏のアグレッシブなイメージと、キャメロン・ディアスの可愛いイメージがかけ離れてしまうのが、今後の課題として残された。
さらに問題になりそうなのは、従業員が枝を持ってくれるかどうか、携帯のサプライヤーやコンテンツ・パートナーが「枝を見て森が動く」「森が動きそうだ」と見てくれるかどうか。金融機関もそれを注視している。年末商戦そして3月の転入出シーズンの商戦の成否は森を動かせるかにかかっている。
【ホームアンテナという植樹】
都心はともかく、地方ではまだまだ携帯はつながりにくいエリアがたくさん残されている。それをゲリラ的に解消する策として『ソフトバンク「携帯」ホームアンテナ無償配布 圏外解消へ“奇策”』もまた痛快な一手である。
予想外割でまぎれてしまったニュースだったが、屋内で携帯電話がつながりにくい利用者に、屋内用・屋外用のホームアンテナを無償配布するというサービス。yahooBBのときのADSL無償配布をほうふつさせた。あの奇策で一気に利用者を獲得したことは記憶に新しい。
ウィルコムのレンタル品ですが似たような品でしょ。
携帯のホームアンテナをお宅やオフィスに配布することは、あったらいいがなくてもいいので、効果のほどはどうかわからない。2万円/台プラス設置費用がかかるが、基地局投資を「まばらに」にできるとも思えないない。だが地方ユーザーには朗報であるし、またしても奇策!である。
家々にホームアンテナを植樹するという、森に近づく一歩である。かなりオープン系の香りのする戦術。わたしはこのアイデアにも起業家の打ち手ての戦略性を感じて感銘した。
今日は以上です。今週のテーマには力が入りましたし、考えることがおもしろかった。明日は今週分のまとめをしつつ携帯合戦の行方を想定してみます。孫氏の戦略というテーマとはずれるのですが、おもしろいテーマである「デザイン・ケータイ」について次のエッセイで書いてみたい。次週もご訪問頂ければ幸いです。
ではまた明日。Click on tomorrow!
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