MNP/孫氏の戦略 【6.漁夫の利:出だしの混乱は「想定の範囲内」、漁夫の利をねらうPHS陣営】
『MNP/孫子の戦略』の6回目は、これまでの5回分のまとめをかねて『6.漁夫の利: 出だしの混乱は「想定の範囲内」、漁夫の利をねらうPHS陣営』をテーマにしたい。
書いてきたポイントを10個にまとめてみよう。
1.MNP制度による顧客流動化:最近は500万人で推移しており、これを600~700万人にとどめるとDoCoMo、auの勝利、1000万人まで流動化できればソフトバンクの勝利。
2.予想外割の奇襲に対して、DoCoMo陣営は殴ってきた相手に対して「卑怯じゃないか!」と吼えた。au陣営は事実を伝えるという大人の対応をした。
3.予想外割は景表法違反を問われる可能性があるが、戦略的な効果は法違反のマイナスをはるかに超え、孫子の戦略「敵を驕りたかぶらせる」という定石を打った孫氏に分があった。
4.目玉として登場した「ゴールドプラン」は、実は利益源となる仕組みが盛り込まれている(くせものであり、決して安くない)。ここに顧客を呼び込むことがソフトバンクの増収となる。ゆえに「0円」予想外割の広告宣伝は奇襲というよりも、それしかない選択肢だった。
5.インセンティブ制度を破壊することはDoCoMoとauの利益の源泉を断ち切るだけでなく、「ケータイ業界おかしいよ」をアピールし、ソフトバンクの割賦販売を正当化するねらいがある。
6.その背景には、携帯機器メーカーからソフトバンクへの携帯の卸価格がDoCoMoやauより高い(推定)という事情があり、その不利を逆手に取る戦略である。
7.ソフトバンクの全面広告はインパクトがあったが、本来訴求したいイメージ(キャメロン・ディアスが使うようなスマートな携帯)とアグレッシブなソフトバンク戦略イメージ(よくも悪くもソフトバンクのNo.1戦略)が混在して、ブランド・イメージ確立の障害になる可能性がある。
8.携帯のコンテンツの主流は「メディア型のコンテンツ提供サービス」から、SNSやブログに代表される「オープン型のコンテンツ創造支援サービス」に移ってゆく。その布石をauもソフトバンクも打ってきたが、世界最大手との提携と、日本二番手との提携という差異がある。
9.ケータイ民族のニーズはおおむね「お得」「便利」「カッコイイ」の三つのニーズに集約され、ソフトバンクは「お得」「便利」で優位なポジションに立つ戦略を打ってきた。
10.MNP緒戦の1週間の成果は「au 10万2000件増」「DoCoMo 7万3000件減」「ソフトバンク 2万3900台減」と想定の範囲内。ソフトバンクは草刈場となることを防いだ。
【10のポイントを概観して】
せんじつめれば、業界の秩序を守りたいか、壊したいかがDoCoMo・au陣営とソフトバンク陣営の価値観の違いとなって現れた。攻守をめぐる人の血は争えないものである。ただ率直な疑問は、DoCoMoが守りに入るのはわかるが、auまで大人を装っていていいのだろうか?という点であった。
KDDという通信キャリアを出発点とするauは、そのビジネス・ネーミングの変更、デザインケータイの導入など、マーケティング力は素晴らしい。だが総合力のあるDoCoMoやコンテンツに強みのあるソフトバンクに比べて、イメージ戦略だけでは時代遅れになる可能性さえある。「カッコイイ」路線だけで対抗できるのだろうか?市場の争点が変われば、草刈場になるのはauなのではないだろうか。そんな疑問ももった。
Web1.0から2.0への移行については、携帯では多くのユーザーが「それ何?」というレベルである。だが、携帯をネット経由のリモートコントロール・デバイスと考えれば、すでにいくつかの2.0的なサービスもある。大量の広告を打ち出しているNavitimeもある意味2.0の要素がある。iPodのようにPCと携帯を連動させるいうシステムを想定すれば、もっとたくさんのアプリケーションが開発できるはずだ。
【漁夫の利をねらうウィルコム】
孫氏の戦略を軸にMNP商戦が動く前に、ウィルコム間の通話かけ放題の定額プランをPHS間にまで拡大するサービスでのろしを上げた。しかしPHS間といっても、他のPHSはほぼDoCoMoしかなく、それも全国で57万9300件に過ぎないので、サービスアップと言えるか疑問である。
それよりも注目は新オプションプラン「070以外もお得な通話パック」である。「ウィルコム定額プラン」にプラスして、月額1050円を支払うことで、最大1,260円分の無料通話が可能。固定電話なら最大60分、携帯電話なら最大48分、アメリカへの通話なら最大40分。これはお得だと思う。データ定額1050円(10万パケット)を足すと合計5000円になるが、携帯各社より実質的に安いはずだ。「ウィルコムはおトクのことを真剣に考えています」という説明は妥当である。
そのウィルコムの2006年10月末現在の契約者数は425万5,400件。前月(9月)にくらべて37,700件の純増。8月末は約7万件増、7月末は11万件、6月末は6万件とずっと伸びている。10月のMNPで成長が鈍化したが、ほんとうに料金面からのおトクはウィルコムだという認識が広がり、「PHSって悪くない」というイメージも構築されつつある。
またPHSの特徴=音声が良質という利点がある。携帯各社の基地局設置はマクロセル方式と呼ばれ、大出力の基地をエリアにひとつ設置するもの。これだと同時通話ユーザー数が増えると、通話品質を落として音声サービスを提供する。これに対してウィルコムはマイクロセル方式という出力の小さい基地局をエリア内にたくさん置く方式である。ひとつの基地局の回線がいっぱいになったら、すぐ隣の基地局で受信できるため音声品質を維持できる。
ちゃんとやってます。
こうしたまじめな取り組みも評価されてきた。お得を追求するならPHSだろう。
【携帯は成熟商品か、成長商品か】
だが携帯電話ってお得だけじゃないだろう?携帯のことをいろいろ考えていると、まだ疑問がわいてくる。携帯電話機は9800万人に普及した成熟商品なのか?それとも発展途上の成長商品なのか?
どちらもYesなのである。携帯を通信ギアとしてみると、通話・電子メール・Cメールという成熟しつつある技術で成立している。しかしそこに動画や放送、音楽という通信素材を付加すると、まだ技術革新の余地がたくさんのこされているし、携帯電話機というカテゴリーの説明文があいまいになる。
いっそ携帯を「マネー・ギア」「コンテンツ・ギア」「デザイン・ギア」として捉えればいいのだろう。マネー・ギアはオサイフ機能、認証機能、ショッピング機能、さらに法人の商売上の機能が満載。コンテンツ・ギアは、キーボード付きの大画面ケータイで、ネットとの相性に優れる。デザイン・ギアとは、機能としては音楽や画像通信をベースにしつつも機能優先ではなく、持っていることがスタイルであるような商品カテゴリーとなる。
だがケータイ民族のニーズ(「お得」「便利」「カッコイイ」)は、一人のユーザーの中で混在しているので、ならばいっそのことメモリーカード方式で、仕事時間中は「お得」、アフター5は「便利」に変換できるように、コンテンツや個人情報の入れ替え機能が普及するかもしれない。そうなれば会社用の携帯と個人携帯を持ち歩かなくて済む。
このような路線で可能性を考えると携帯電話はまだまだ成長商品である。「デザインケータイ」という切り口については、13日のエッセイで書きたいと思います。
infobar錦鯉のプロトタイプ。
今週の『MNP/孫氏の戦略』にお付き合いいただきありがとうございました。今日は以上です。ではまた明日。
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