言葉の恋人
今日はぷろこんエッセイ(現役コンサルタントによるワイルド・コンサルティング・
エッセイ)として発行しているメルマガからの転載です。
http://www.mag2.com/m/0000096057.htm
言葉の恋人
夏怒涛ひとりでゆけるところまで
俳句は覚えやすくて、口ずさめるものだからこそ、つねに心の隅に置くことが
できて、自分を見失わないための拠り所になると思います。これは自作の句
ですが、自分に自信を失いそうになったときには、「夏怒涛ひとりでゆける
ところまで」という句を口ずさんで自分を鼓舞しています。すると、「できる
ところまでやろう」と前向きになれる。おまじないみたいなものかもしれません。
そのように誰かの心の支えになれる句を詠みたいな、と心から思いますね。
渋谷文化PROJECT
川柳と浮世絵で楽しむ江戸散歩 大高翔さん(俳人)
http://www.shibuyabunka.com/culture.php?id=21&admin=check
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コンサルタントとは「言葉の商売」か、「数字の商売」か。
タイプによって人それぞれだろうし、所属するコンサル組織によっても違うだろう。
業界言語と技術言語で情報システムを商売にするコンサルタントもいるから、
この商売の武器はいわゆる「言葉」と「数字言語」「情報言語」のみっつのタイプ
がある。
わたしどもは数字もつくらせて頂くが、数字を実行するのはクライアントである。
システム導入もして頂くが、それを使って入力するのはクライアントである。
クライアントの社員ひとりひとりに動いてもらう源には、クライアントの経営者の
言葉や、わたしたちのささやかな言葉の支援があると思っている。
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ところが経営者や外部コンサルタントの言葉なぞ足元に及ばない言葉がある。
SFAというシステムツールがある。セールス・フォース・オートメーションの略で、
営業支援システムと呼ばれることが多い。商談の進捗を管理して、営業担当の
行動や案件評価、実績管理をするのが目的のツールである。
このツールは、全国に散らばる営業担当の情報共有にも役立つし、管理上もち
ろん必要なものであるが、どうも営業担当には評判がよろしくない。いわく、書く
ことが面倒、書いても上司からレスポンスがない、はなはだしきは書くと営業先を
盗まれる、などの声も聞こえる。あるクライアントでもそんな状況があった。
そのクライアントのYさんとういう営業マネージャのところでは、比較的部下が良く
レポートをしている。やはりツールの使用は管理職の管理スタイル次第なんで
すね、とお話をしていたら、そのマネージャがこう言った。
「書くようにはなってきたのですが、まだ『オレはこうやった』ということばかりを
書くのが多くて困ってるんです」
「でもそういう記録を書くのがこのツールの目的ではないですか」とわたし。
「それもあるんですが、欲しいのは顧客の言葉なんです。顧客がどう言ったか、
生のままそれを書けと言ってるんですが、オレは何やった、ばかり書いてくる」
すべては顧客の言葉から始まる。顧客との最初の3分間に耳を澄ませば、課題
がぎっしり要約されているのである。それを記録せずに何を記録するのか?
長話をして1時間居座ったことが勲章だろうか?失注した言い訳より、失注した
ときの顧客の生の言葉こそ重要なのである。
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生の言葉への感度を高めるために、どうしたらよいだろうか?
わたしの仕事では、言葉はなるべくシンプルに短く、だれにも理解しやすい
ものであるべきである。そしてできればクライアントには膝打ちされるか、書き
とめられるか、できれば胸を痛めるきっかけにもなってほしい。
話し方の技術、書き方の技術、聴き方の技術、そういうテクニックも学ぶ必要は
ある。だがありのままを観て、ありのまま伝えることを研ぎ澄ますには、俳句が
いいという人がいた。俳句はたったの17文字の短い形式の詩に、見える世界を、
ありのままに伝える作業である。詠み手の気持ちをたったの17文字で伝える、
その凝縮する思考が、言葉の感度を高めるというのだ。
ベストセラー『サラダ記念日』の俵万智さんの後継者とも言われる、才能あふ
れる俳人が大高翔さん。これまでに瑞々しい句集が2つ出され、今春に3つ目を
出版されるのだが、わたしが気になっている俳人である。
彼女の俳句を引用しつつ、生の言葉の感度を高める上での俳句の効用を、
次の3つの句から考えてみたい。
大高さん。
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①ありのままの日常に、非日常を観る。
通学路凶器のように曼珠沙華
句集『ひとりの聖域』
大高さんが10代の時の句だから「通学路」という日常がある。そこに真っ赤に
燃えるほど赤い曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が、どこかの家の壁の向こうから
ヌッとのぞいていたのでだろう。尖ったかたち。それを「凶器」という表現を
するところが凄い言葉感覚である。
日常的な光景は、気をつけていないとそのまま通り過ぎてしまう。だが、そこに
非日常的な光景が重なりあっているかもしれない。いつしか、非日常的な光景
が日常的になっていることもある。そういうことに気づく感性を持ち続けることが
課題観察の第一歩であろう。
②言葉の持つイメージをつかむ。
くちづけのあとの真っ赤なトマト切る
句集『17文字の孤独』
くちづけという紅さの感覚と、真っ赤なトマトのシンクロが鮮やかな句。しかも
「トマト切る」というあの、名残りのある、柔らかい感覚がくちづけをイメージ
させる。くちづけも好きだが、色彩感覚が好きな句である。
文章術の本には、たいてい「読み手に画像をイメージさせるように書け」と
いうくだりがある。読み手の心の中に、絵が展開するような表現ができれば
理解は促進される。クライアントがよく口にする言葉には、さまざまな背景や
固有のイメージがあるはずだ。それをつかまえて、資料やプレゼンテーション
にきちんと反映させれば、何がしかを共有することもできる。
③口ずさめる言葉をつくる。
夏怒涛ひとりでゆけるところまで
冒頭に引用したこの句を詠むと、大高さんならずとも元気が出る。
ちょっと疲れたり寝不足の朝に、よ~し!iPodから1曲を選んで、今日一日
がんばろう!という「決め曲」があるだろう。決め曲の替わりに、決め俳句を
くちずさんで元気にゆこう!そんな精神安定の効用が俳句にはあることに、
この大高さんの句で気づかされた。
覚え切れない社訓を唱和して覚えるのも大切だが、自分を奮い立たせる一句、
自分を落ち着かせる一句を心の中で唱和するのもいい。クライアントに唱和
されるプレゼンテーションの一節や、報告書のくだりがあれば、そのプロジェ
クトは成功である。そういう言葉が無ければ、だいたい失敗である。
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顧客のありのままを見つめ、顧客の言葉でそれを表現し、口ずさめる改革の
キーワードをつくる。
かつてチョコレート会社に「お口の恋人」という傑作コピーがあったが、「言葉
の恋人」といえるほどに口ずさめる決め言葉を心に持っていると、クライアント
と対峙するときも、プレゼンテーションのときも、心に余裕がもてるのではない
だろうか。
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