公立美術館に求められること
先日ふと「絵を買いたい」と思った。それはある美術品販売サイトから配信してもらっているメールマガジンの中に、ひと目惚れした絵があったからだ。「生の絵」を自分で買ったことがないので、数万円とはいえドキドキした。数日考えてよし買おうと思ったら、すでに売約済み(!)だった。残念。いずれ自分ギフトでこの作家の絵を買うぞと誓った。
そんなわたしが気になったのは、財政破綻した夕張市の市立美術館閉館のニュースだった。市が倒産なのだから美術どころではない。だが夕張市だけではなく公立の美術館では、館の存続や運営をめぐって窮状にあるところが多い。日曜の今日は公立美術館について考えてみたい。
心配される収蔵品の行く末 北海道夕張市(毎日新聞より)
【勝手にアドバイス Vol.104 公立美術館に求められること 】
夕張市立美術館は79年2月に開館。道内の市立美術館の中では網走に次いで2番目に古い。北炭社員の傍ら夕張を描き続けた一水展会員の故畠山哲雄画伯(1926-1999年)の油絵、スケッチ画など約450点のほか、市内の絵画サークルの炭鉱絵画、彫像など600点余りの計約1000点を所蔵している。(記事より)
だが年間25万円の入館料収入に対して、施設維持費だけで250万円が必要な赤字施設。収蔵絵画の扱いは、市の計画では空調を止めた倉庫保管にするというので、寒暖の差で絵画が傷むことは必死。北海道内の美術家や書家らから、施設の存続を求めて署名も集まっている。
【公立美術館の収益率は低い】
全国平均で収益率(歳出に対する歳入の比率)が18.7%、収益率が10%に満たない館が3割を超えるという、日本の公立美術館の現状(『産経新聞』東京版 2004年3月28日付)。
全国平均で運営経費の8割を自治体が赤字を補てんしている。もちろん美術館に限らず、公立施設は博物館や音楽ホール、公営住宅な病院なども赤字が一般的である。水道、バス、病院など自治体が別の組織で運営する地方公営企業法における事業では、「他会計繰入」という聞きなれない会計費目で赤字を補てんしている。それはもちろんすべて税金である。
【収入よりもバランスシートが問題】
経営改善には二つの方策しかない。ひとつはコスト削減。もうひとつは収入のアップである。
コスト削減は、指定管理者制度という民間委託やNPOへの委託など、官から切り離して運営コストを削減しようというもの。もちろんムダなコストは下げなくてはならないが、公立美術館だってすでにボランティアの手を借りるなど、かなりコスト削減はしている。
目先の損益(観覧者)やキャッシュフローも大切だが、入館料で黒字にならないのは明白であり、むしろ赤字運営が前提の施設である。バランスシートとして美術館を見れば、借入金が過多で資本が無いのに(簿価の)資産ばかりが肥大している。結局はだれかがバランスシートの右側を負担しなくてならない。目先の会計だけを考えて民間委託をするのでは、いずれは夕張のように美術品が傷むだけである。
【企画展依存という問題】
収入アップにも課題はたくさんある。たとえば「美術展といえば企画展」というイメージを美術ファンに植えつけてきた業界体質は罪が重い。常設展は美術展ではないのだろうか?
もちろんコアな美術ファンではない、多くの人の来館は大切である。だが企画展ばかりでは美術ファンがいびつになる一方である。スーパーや百貨店が安売りに走り過ぎて、バーゲンハンターしか呼べなくて経営が傾いたことを思い出させる。さらにイベント業者提案の企画展にだけ依存するのは、自前に運営力が無いという問題も突きつける。
【運営側のがんばりもほしい】
日常の運営面でも改善すべきポイントがある。たとえば開館時間。2007年1月21日に乃木坂にオープンする国立新美術館、週日18時に閉館(ただしイベントのある金曜は20時)。ターゲットは有閑シロガネーゼだけではないだろう。わたしのような会社勤め人だって行きたい。せめて19時、できれば毎日20時まで開館してもらえるといいのだが。
設計 黒川紀章氏
ずいぶん前のデータだが(今もあまり変わりあるまい)、17時46分という数値がある。東京都内に立地する美術館(30施設)の閉館時間の平均値だそうだ。娯楽施設なのだからもう少しがんばってほしい。
【ひとりの美術ファンから勝手にアドバイス】
①公立美術館には大儀が必要
「ウチの市にもひとつぐらい美術館を」という甘さが破綻につながる。行政が市民に対して、ウチの市町で美術館が必要な「大儀」を説明し尽つくしてこそ、税金で維持しうるのである。コスト削減だけのための民間委託は本末転倒であり、運営に自治体が主体性を持てないなら閉鎖やむなし、だと思う。
②公立美術館は美術の公教育の場
たいていは開館にあたり、「○○市ならでは・・・」という美術分野やアーティスト選定、その地域資源とのマッチングなどコンセプトを考える。だが自治体が手がけるべき根本は公教育だと思う。美術を通じた教育の場づくり。子どもから大人まで、鑑賞・批評から描くことまで、美術教育に努めてほしい。地域バリューをあげる上でも効用があるはず。
③大儀、公教育、その上でコスト削減や支援策を考える
企業メセナや美術ファンドなど、最近は支援策はさまざま存在する。だが大儀を煮詰めて、基本的な方針を決めた上で、運営方法や組織改善である。その逆はない。
ホテルオークラが毎年主催する「アートコレクション展」(美術展示会チャリティ)
今日は以上です。ではまた明日。Click on tomorrow!
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