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2007年1月31日 (水)

SAKURAの春 桜のつぼみ 3 バラマンディの切り身

勝手にアドバイスは、いつもと趣向を変えて、店舗建て直しのフィクショナルな
物語の続編を書いています。今日はその3回目です。なんとか第三コーナーを
曲がりました。金曜日までお付き合いいただければ幸いです。

SAKURAの春 桜のつぼみ 3 バラマンディの切り身 @@@@@@@

Mr.Tのような圧倒的な独裁者が弱音を吐くことを目の当たりにしたわたしは、
これまで以上に「なんとかこの店を建て直さなくてはならない」と思うようになって
いった。恐怖ゆえにそうするのではない。ブリスベンに滞在し続けるためだけに
そうするのでもない。Mr.Tの悔しい思いに応えるためにも、みんなの力でこの店
を何とかしたい、素直にそう思えてきた。

そういう気持ちが従業員にも広がってきたからだろうか。とり立ててメニューも
設備も何も変えていないのに、ここ2、3日は少しずつだがお客さんが増えている。
従業員がヤル気になると、お店の表情が良くなって、お客さんも入りやすくなる
なんて法則でもあるのだろうか。ワンダも麗朱も前よりもきびきび働いてくれて
いる。上の者が胸を開いて正直になり、危機感を持たせるだけで、従業員には
変化が生まれる。

だが危機感から発生するヤル気は、最初の内はプラスの変化であるが、その
ままずるずると状況が好転しなければ、すぐに、急速に、しぼんでいくものである。
そう考えると一刻の猶予もないと思われた。

そんなことをアパートのベッドに寝そべりながらぼんやりと考えていたら、そろ
そろ9時30分になっていた。お店は休日なのだが、SAKURA本店のシェフのひとり
が体の具合が悪いとかで、替わりに本店の応援に行かなければならない。
わたしはそそくさと出勤の支度をして、車のキーをつかんだ。

だが今日は休日だ。年寄りのフィアットには休みが必要だ。休ませてやろう。
車の鍵は机の上に放り、わたしはアパートの前の通りを下り、バスでダウン
タウンまで行くことにした。

  J0386740  

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

SAKURA本店の入口は、すでにシャッター開けられ、扉には昨夜からのClosed
の札があった。2階にある店舗まで薄暗い階段を駆け上がると、階段脇の小さな
事務室の半開きの扉から明かりが漏れていた。奥にはMr,Tがいた。あいさつを
して調理着に着替えた。厨房ではすでにKIMさんは仕込みを始めていた。鳥の
唐揚や照り焼きのために冷凍のホールチキンをさばいていた。

「コンニチハ!コバヤシさん!」 インドネシア系のチャイニーズのKIMさんは
後藤にも負けないくらい地黒の肌をしている。小柄な彼だが仕事は俊敏で
そつなくこなす。もう4年以上、SAKURAにいるはずだが、どうも和食の味覚だけ
には素材によって、ときどき自信が無いようで、「コレドオデスカ」と小皿を差し
出してくる。酸っぱい味に弱いのである。だがKIMさんとは良いコンビが組めた。
二人だけで、どんなに急なお客さんにも、宴会にも対応ができるという自信が
あった。

それが今やわたしは店長として別の店舗の数字に責任がある。KIMさんがうら
やましくて、ぼやきたくもなった。

「おはよう!」 と調理場に入ってきたのはMr.Tの奥さん、ミセスTである。
「おはようございます」とわたし。「Goo’ day!」とKIMさん。
「コバヤシさん、今日はこっちでたっぷり気分転換してね。でもあっちのお店から
貧乏神だけは連れてこないでちょうだい」

ミセスTはいつものようにぴしゃりと言った。空手家の奥さんだから言葉尻にも
チョップが効くのだろうか。格闘家が美人好みなのか、美人が格闘家を好きに
なるのか、おそらく両方ともに真実なのだろう。美人は美人だ。黒くウェーブの
かかった髪、やけに紅い唇が顔の輪郭もひきしめてはいる。それがかえって
年齢をわかりやすくしているのはマイナスだが。

空手道場経営が一時傾いたとはいえ、生活には苦労をしていない。だがここは
日本から遠く離れた地である。ミセスTは南半球の日本料理店の調理場で料理
をする運命を楽しんでいるのか、あるいは悲しんでいるのか、きっと本心は自分
の夫にも告げたことはないのではないかと思った。

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

「さあて、今日のランチ。何にしようかしら」とミセスTはステンレスのフリーザー
の扉をパタンパタンと開けたり閉じたりで、「KIM、バラマンディあったかしら?」
KIMさんは自らフリーザーを開けて、ごそごそと中から白身魚の切り身をいくつ
か手に取った。

「いくつある?KIMさん。今日のランチにできないかしら」 バラマンディという
オーストラリアの北部で獲れる大きな魚は、そのサイズに似合わずあんがい
繊細な味がする。フリッタには最適なのだ。この手の魚は切り身にして、アラ
カルトの素材としてラップにくるんで冷凍しておくのだ。

「20枚ぐらいね。ちょっと足りないけど、もっと注文がきたら、そこから鱈や
チキンに変えちゃいましょう。今日はバラマンディのフリッタに、サラダ、おひたし
に、お味噌汁に・・・・・これで文句無いでしょう、駐在員さんには。涙ものね」

日替わりランチはほとんどが日本人駐在員向けのメニューである。ミセスTは
料理も上手であるが家庭料理の延長線上の腕前でしかない。ミセスらしく
冷蔵庫を開けて、今日は何にしようかしらの鼻が実によく効く。市場の閉鎖で
何も仕入ができなかった日には、ランチはオムライスになったことがあった。
ところがそれが大好評だった。オーストラリアまで来て日本のオムライスを
食べれるなんて、と涙ものであった。単純と言えば単純だが、ニーズがある
ものは、どんなものでも、たいてい単純な構造をしているものだ。

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出典: http://image.blog.livedoor.jp/tako_chuou/imgs/d/1/d11b0938.jpg

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

わたしは調理台にラップに巻かれて無造作にころがった、解凍をじっと待って
いるバラマンディの切り身をながめていた。その時だった。背中がぞくっとして、
あるアイデアがひらめいたのは。

そうだ、バラマンディでいいんだ。途中からチキンでもいいし、鱈でもいい。
ニッポンの味を伝えるには、このやりかたがあったではないか!わたしの中
でそのアイデアが、掃除機に吸い込まれるチリのようにひとつになっていった。

ミセスTがフリーザーを開けて「何かないかな」のランチは、日本人に日本の
味を日替わりで提供して喜ばれている。素材は計画的なときもあるが、その
日その場で決まっているものもある。亜熱帯のオーストラリアには四季は
ないが、日本人に染み付いた四季折々の食材、季節ごとの料理が人気が
ある。だからちょっとした工夫でも、日本を忍ばせる調理や素材があれば、
喜ばれる。

だがほとんどのオーストラリア人は日本の四季も食材も食べ方もわからない。
先日のお客さまインタビューでもあったが、日本食は「SHIKII GA TAKAI
(敷居が高い)」のだ。料金だけでなくて、お箸や作法も敷居が高いのだ。
気取りのないオージー・スタイルにあわせて、日本料理を気取りなく食べ
させるというのはどうだろうか?オージーもヘルシーな日本食を手軽に、
もっと食べたいと思っているはずなのだ。

わたしのひらめきとは、日本を感じさせる四季のメニューや素材を、毎日あれ
これとメニューを変えて、ブッフェスタイルつまり食べ放題スタイルで提供する、
日本で言うバイキング・スタイルだ。自分の好みで好きなだけとってもらう。
日本食はこうして食べるものだという押し付けはしない。本物の日本レストラン
としての味や内容は落とさず、いろいろな食材を食べていただくことで、日本食
ファンをつくることにまず専念にしたらどうだろうか。

まず「SKIIを低くする」ことから始めよう。明日、みんなでじっくり考えてみよう。

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出典: http://pds.exblog.jp/pds/1/200509/15/54/b0058454_15473567.jpg

SAKURAの春 桜のつぼみ 3 @@@@@@@@@@@@@@@@ 終わり。

今日は以上です。お読みいただきありがとうございました。Good Day Mate!

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