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2007年1月 2日 (火)

SAKURAの春 プロローグ 2

2007年1月1日から1月5日までの【勝手にアドバイス:旬ネタ】は、新春特別
企画として、ある飲食店舗の建て直し物語をお届けします。実体験に
基づくとはいえ、物語づくりですので、最後までおもしろく語れるかどうか。
新鮮な気持ちでチャレンジしております。今日はその2回目。

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エンジン音がボディよりも大きい、わたしの低年式のフィアットで、KOTOの
駐車場に入ると、お昼をかなり過ぎてもまだ7~8台の車があった。ほとんどが
高年式の高級車である。日本車もあるが、オーストラリアの輸入関税の関係
もあり、欧米メーカー製が多い。

KOTOの入口のドアを開けると、出迎えてくれたのは、小柄な日本人の
ウェイトレスであった。大輪の花柄の着物姿でにこやかに微笑みかけてくれた。
「Good Afternoon! いらっしゃいませ。日本人のお客様ですね?」

外はとても暑いが、中はエアコンが効いてひんやりとしている。そして着物の
日本人女性の笑顔と、きびきびとした応対。ひさしぶりにほっとした感じがした。

店のあちこちから「Good Afternoon!」「いらっしゃいませ!」という声が
掛けられた。オーストラリアらしく「Goo' Day」という言葉も聞こえた。立ち働く
ウェイトレスたちからと、カウンター席の向こうに立つ板前さん、現地人の調理
人からだ。だいたい80席ほどお店である。流行っているからなのか、テーブル
に較べて従業員の数が多いようだ。

ランチももう終わりの頃に行くと、たいていはどこのお店でも素っ気無かったり、
あからさまに嫌な顔をされて「○時までです」と言われることもある。だがここ
では威勢の良い、明るい声掛けで迎えられた。こうしてにこやかに声をかけて
くれると、とても気持ちが良い。

案内された通路から聞こえてきたBGMは、「古都」ではなく「琴」の音色だった。
着物のウェイトレスに、一面ガラス張りに庭が見渡せる窓際の席に案内された。
ガラスの向こうには鯉が泳ぐ小さな池と、芝生の庭と石が置かれた、箱庭的な
日本庭園の情緒がある。

  A061158s0_1  大山忠作画伯

「KOTOにようこそいらっしゃいました」 ウェイトレスは笑顔でそういうと、ランチ
メニューの説明をして「お決まりになりました頃伺いにまいります」ときびきびと
した口調で下がった。

わたしと後藤はメニューをあれこれ見定め、ページをめくり、料理や飲料を
覚えようとして、覚えきれないほどの豊富さに舌を巻いた。しばらくすると、
スーツを着た日本人男性がやってきた。

「いらっしゃいませ。店長の堀田です」

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われわれはウェイトレスにひとり12ドル50セントのランチを注文すると、
KOTOの店長に向き合った。堀田と自称した男は、すらりとした背丈だが
俊敏な物腰を感じさせた。年は35歳ぐらいで、飲食店の店長というよりも、
世界を又に駆ける商社マンという雰囲気があった。「お話をさせていただい
てもいいですか?」

後藤の方を見てから、わたしはうなずいた。
「われわれの顔をすでに知っているんですね」わたしは言った。
「ええ。この店を出す前に、二度ほど2号店に伺いました。もちろんクィーン
通りの本店にも行きました」
「やっぱり調査はされるものなんですね」
堀田は笑顔をつくり「いや調査というよりご挨拶のようなものですね。あの
ロブスターの刺身はプリプリしていてとても美味しかったですよ」

わたしと後藤は目を合わせて忍び笑いをした。生きている体長40センチの
ロブスターの甲羅を力づくではぎ、胴体を真っ二つに切るシェフのKIMさんの
無慈悲な包丁さばきを思い出したからだ。伊勢海老よりは淡白な味わいで、
果たしてあのメニューが日本的といえるかどうか怪しいが、ブツ切りの大海老
のSashimiは人気メニューである。

「よくご来店していただきました。若い人が地球の反対側の地で冒険している
と聞いて、ずっとすごいなと思っていたんです。とても勇気がある」
わたしはそれが皮肉なのか本音なのか測りかねた。思い切って言った。
「今日は、KOTOを見にきました」 SAKURAを何とかしなければ、クビと顔面
が危ない、とは言えない。
後藤はもっと率直だった。「・・・というか、KOTOがなぜ流行るのか知りたい
と思ってきました」

堀田は代わる代わるわたしと後藤の顔を見た。彼の目の奥からは、わかりま
すよ、ということばが聞こえてくるようだった。

ちょうどわたしと後藤のランチが運ばれてきて、一皿ずつ目の前に並べられた。
海老と野菜の天麩羅、お刺身の小鉢、お吸い物、突き出し、そしてご飯という
典型的ともいえる日本食三昧のセットである。添えられた割り箸の包みには
「チョップスティックの使い方」が英語で書かれている。箸置きは琴のかたちを
デザインしたものだ。

「どうぞ召し上がってください。せっかくの機会ですから率直にお話しましょう」
堀田は自分にお茶を持たせるように伝えた。ウェイトレスはお盆に茶托と牡丹
が染付けされた湯呑みから日本茶をすすった。

「SAKURAさんのお店の感想の前に、お二人から見てSAKURAさんの敵、
つまりこの店についてお話ししましょう」

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「実のところ、SAKURAさんとKOTOは敵(かたき)同士ではないのです」

こんなに客を盗んでおきながらしゃあしゃあと言うもんだ、とわたしは心の中
でつぶやいた。そのつぶやきを逃さなかったかのように堀田が言葉を接いだ。

「結果としてKOTOの方にお客さまが流れていることは事実でしょう。しかし、
KOTOはおふたりもご存知の日本の飲料・食品メーカーの子会社が海外で
出店する飲食店の一事業です。オーストラリア出店はこれが2店舗目で、
ようやく土地勘やノウハウも付いてきました。

事業の目的は、お分かりいただけると思いますが、親会社の事業の推進、
ビールやリキュールなどの海外での拡販です。日本のビールやお酒を、正しい
呑み方で、正しい日本料理と共に食べていただく。日本料理の普及のために
開いています」

後藤がお吸い物をすすりながら言った。
「ここいらには、みょうちきりんな日本食も多いですからね」
「甘~いビーフボウル、うどんに刺身を載せる海鮮うどん丼、照り焼きチキン
のお重・・・」 堀田がそういうと、三人で笑った。

「いまだにあれが日本食だと思っている人もいます。少しずつ日本食が伝わって
きたとはいえ、まだきちんと伝わったわけではありません。正確に伝わらないと
いうことは食品を輸出するわれわれの会社には阻害要因になります。だから
KOTOのねらいのひとつは、日本食を伝道することです。高級とイメージされる
日本食レストランにやって来る現地のお客さまの多くは、さまざまな分野の
リーダークラスの方々です。彼らから正しく日本食を広める、彼らのステータス
にあった格の店舗をつくる。それに相応した味とメニュー、サービスを提供する」

結局はビジネス優先、資本力にモノを言わせるということなのか。地球の裏側
にまで来ても、日本のビジネスに追われるとは。わたしの曇り顔にかわまず、
堀田は続けた。

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「もうひとつは逆に、現地の食スタイルと融合した日本食のスタイルを研究する
ことです。現地のお客さまがどういう食べ方で日本食を食べると幸せなのか、
日本食の何が好まれ、何が好まれないか、現実にお顔を拝見しながらデータ
を蓄積しているわけです。常連のお客様にはメニューや飲みものについて、
お話を伺う場ももうけます。むしろこっちがメインの仕事になります」

「現地のリサーチですか?」 
「リサーチというより、お客さまのお考えを感じ取る、というのが正確ですね。
メニュー、サービス、雰囲気・・・など季節ごとにお客様を招いて、座談会も
開きます。改善点を伺って調理や食材、サービスに反映させます。もちろん
本社にもリポートもあげます」
「では店舗は儲からなくてもいいのですか?」 
「極端に言えばそうです。儲けなくてもいい。だが赤字も失敗も許されません。
当社の社長の食に対する思いいれからとはいえ、やはり商売ですから」

「これは当社の社長の口ぐせですが『お客さんの近いところで商売を考えな
さい』といつも言うのです。商売はお客さんの表情がすべてだ、と。お店に
来て頂くお客さまだけでなく、取引先の社員もその家族も大切にしろ、日本食
を敬遠するお客さまも大切にしろ、そういう方々の心を知りなさい、表情の
くもりを読み取りなさい。そこに殻を破るヒントがあると。そのために出店して
いると言ってもいいでしょう」

二人ともが食事を済ましたとき、ぴたりのタイミングで、例の日本人ウェイトレス
がお茶を運んできた。お茶を茶托に載せて丁寧に置くと下がった。わたしは
お茶を一口すすり、熱すぎもなく温すぎもない頃合いに感心した。

        @@@@@@@@@@@@@@@@@@

今日は以上です。コバヤシと後藤の二人が自分たちのビジネスを創造しなおす
物語のプロローグ、今週5回に分けて書いています。今日まで2回、お付き合い
いだだきありがとうございます。ではまた明日。Click on tomorrow!

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