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2007年1月 3日 (水)

SAKURAの春 プロローグ 3

2007年1月1日から1月5日までの【勝手にアドバイス:旬ネタ】は、新春特別
企画
として、ある飲食店舗の建て直し物語をお届けします。今日はその3回目

        @@@@@@@@@@@@@@@@@@

わたしがお茶の具合に感心している一方で、若い後藤はまっすぐだった。
「お店の格も違うし、調査が目的だから、SAKURAは商売敵にならない、そう
いうわけですか?」 

堀田は微笑んで「そうではありません。失礼に聞こえたなら申し訳ありません。
KOTOはこうありたい、という考えを説明させていただきました」 堀田はわたし
の方を向いた。「コバヤシさん、KOTOの第一印象はいかがでしたか?」
「お店の格はウチとは違うなと思いました」 わたしは正直に答えた。

「内装は立派だし、メニューも豊富です。味も食材もまったく日本の味です
よね。BGMも落ち着く。日本庭園も見事です。SAKURAとは・・・」
「SAKURAとはウェイトレスがまるで違う」 後藤が口をはさんだ。
わたしもうなずいた。とてもはきはきしている。それに、席に着く前にあちこち
から『いらっしゃいませ!』って声が掛かることも、ウチにはまるで無いことだ
と思った。 

「なるほど。わかりました、彼女を呼んでみましょう。・・・恵子さん、ちょっと」
恵子と呼ばれたウェイトレスが微笑みながらやってきた。「こちらはコバヤシさん、
あなた自身のことをちょっとお話してあげてください」
彼女は腰をかがめてフロアに膝を付けて話し出した。

「わたしは3ヶ月前まで日本の会社でOLをしていました。料理が趣味で毎週2回
料理教室に通い、和食や日本酒のソムリエの勉強もしていました。そのうちに、
どうしてもフードビジネスに関わりたいと思いがつのりました。その時、こちらの
会社で現地従業員の募集広告を拝見しました」
「日本で雇われてこっちに来たの?」わたしは興味をそそられた。

「そうです。ワーキング・ホリデーを利用して語学学校や大学に通いながら、
現地の和食レストランで働くという雇用契約です。日本で飲食業に従事すると、
ただウェイトレスをするか、調理をするかで、店舗経営を総合的に勉強しにくい
のです。こちらですと現地の大学のエクステンション(公開講座)で、経理やレス
トラン経営まで学べます。日本にいてはできない一石二鳥だと思って応募しま
した」
「なるほど」 ワーキング・ホリディで居ついてしまったわたしも風来坊なら、
後藤も風来坊だ。同じワーキング・ホリデイでも、そもそも意欲も資質も違うと
いうことか。わたしはお尻がむずむずした。

「日本にいるよりも海外の日本食レストランで和食店の調理や経営が学べる。
妙な感じもしますが、ヤル気のある人にチャンスを与えると、こうして生き生きと
働いてもらえます。店舗のメニューやサービスもみんなで話し合って改善して
います。彼女たちが成長することもこのお店の使命なんです」と堀田が言った。

  J0403209

わたしはSAKURA2号店の台湾人とオーストラリアンのウェイトレスを思い浮か
べた。彼女たちにひざまずくという習慣はないし、たとえあったとしても、きっと
しないだろう。それにお客さんが来なければ来ないで、何も感じていないのだろう。

「この店で採用しているのは日本から来て頂き、身元保証する日本人だけでは
ありません。現地の日本文化や日本食に興味を持つ人も採用しています。
現地の人から見る日本食を知るためには、これも必要なことです。ありがとう、
恵子さん」 堀田はウェイトレスを去らせた。

        @@@@@@@@@@@@@@@@@@

「私がSAKURAを見て思ったのは、別に日本食でなくてもいいのではないか、
ということです」 堀田は続けた。
「どういうことでしょうか」
「偶然、あなたを雇った人が日本人で、あなたたちが日本人で、自分たちに
扱えそうな商売が日本食だった、率直に言うとそう思いました」

わたしは唾を飲み込んだ。カンフーブームが去り、空手道場経営が傾いて、
Mr.Tが『じゃあ日本食でもやるか』とつぶやいた様子を想像した。わたしは
レストランの開業に立ち会っていないが、Mr.Tは空手の弟子のひとりだった
レストラン経営者の店で半年ほど修行を積み、あまり流行っていなかった
シーフード料理店を居抜きで買い取った。ちょうどヘルシー料理ブームが
起きたころで、日本食=ヘルシーというイメージに乗れたが、メニューその
ものは「すき焼き」「天麩羅」「ソバ」という、あれもこれも置いてあるだけの、
日本で言えば田舎の街道沿いのファミリーレストランにすぎない。

「SAKURAの業績は不振ですか?」堀田は訊いた。
わたしと後藤は目をあわさなかったが、心の中では同じものを見ていた。
「お察しの通りです」 わたしは正直に答えた。「何とかしたいんです」

        @@@@@@@@@@@@@@@@@@

堀田が言った。「ではいくつか質問しますが、答えて頂けますか?」
わたしは、こんな光景をMr.Tに見られたらそれこそ顔面がへこんでいると
思いながらも、ハイと答えていた。

「2号店のお客さまはどんな割合ですか?」
「厨房からとレジで見ているかぎりですが、昼間は駐在員やその家族、
だいたい日本人が半分くらい、あとは韓国人などアジア系とオージーが
まばらに」
「ボクの感覚だと日本人が7割。ランチには駐在員はほとんど来なくなった
から、奥さん連中がほとんどじゃないですかね」後藤は反論した。
「おやおや、基本的なところでもう意見が違う。記録は取っていないので
すね?」 わたしと後藤は首を横に振るだけだった。
「記録はこれから取るとして、開店当初のねらいと実際のお客さまの構成
はだいたい予想通りだった?」

  J0402435

2号店を出そうというのはそもそもはMr.Tの発案だったが、出すと決めて
からはわたしも店舗物件やメニュー、内装にも意見を出したし、店長を
まかされることになって現地に根が張れると思うと有頂天になった。
日系企業も多数が進出しているエリアで、幹線沿いの立地で家賃がそこ
そこなら、そうは苦労はしないだろうぐらいにしか考えていなかった。調査
という調査はしなかったといってもいいだろう。

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「日本人に受け入れられる味を出せば、だんだん現地のお客さんも増えて
くると考えてました」
「味には自信があると?」
「ええ、海外で食べられる日本食としてはレベルは高いと思います。チャイ
ニーズ・ジャパニーズのラーメン店とも変な寿司バーよりずっと日本の味
です。正直、現地人のお客が増えないないのは仕方ないとしても、日本
人のお客さんも減ってきたのは、なぜかわからないんです」
「ではひとつ聞きますが、調味料や下味を作る材料の仕入はどうされて
いますか?」
そう聞かれて、わたしは低コストを理由にチャイニーズ・マーケットで、
現地に材料をコスト優先で仕入れている自分の姿を思いだして赤面した。
現地の昆布、現地の塩、現地のソース・・・。少しずつ日本のものとは
違うが、原価も下げなくてはならないのだから。

「メニューはどのようにして決めたのですか?」
「・・・それは、SAKURAのメニューから人気のある、料金的に高すぎない
ものをもってきました」
「従業員はどのように選びましたか?」
特に理由はなかった。SAKURA1号店で働く人の知人の台湾人姉妹と、
日本語の勉強中の学生をウェイトレスに仕立てあげたのだった。

「規模の小さいSAKURAを作っただけではダメでしょう」

        @@@@@@@@@@@@@@@@@@

今日は以上です。放浪者のコバヤシが海外でビジネスを創造しなおす
物語のプロローグ
、今週5回に分けて書いています。今日で3回目、お付き
合いいだだきありがとうございます。あととりあえず2回、よろしくお願い
します。ではまた明日。Click on tomorrow!

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