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2007年1月 4日 (木)

SAKURAの春 プロローグ 4

2007年1月1日から1月5日までの【勝手にアドバイス:旬ネタ】は、新春特別
企画として、ある飲食店舗の建て直し物語をお届けします。今日はその4回目。

 
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わたしと後藤は帰途の車の中で無言だった。いつもうるさいと思っている低年式
フィアットのエンジン音が大きいのが、かえって救いになった。なぜなら騒音を
理由に、ふたりとも口を開かなくて済むからだった。

後藤のKOTOを偵察しようという発案はよかったかもしれない。だが偵察して
わかったことは、心の底では不安に思っていたことをズバリと指摘され、なお
頭を抱えなくてはならなくなっただけだった。

 規模の小さいSAKURAを作っただけではダメでしょう・・・・

まったくその通りなのだろう。KOTOの出店の影響というよりも、KOTOと
SAKURAが比較され、良くも悪くもSAKURAが日本の家庭料理であるのが
目立ってしまった。堀田店長が言うように、SAKURAのお客はもっと安くて「庶民
の味」のラーメン店や、回転寿司チェーンに流れているのだろう。

ちょうどフィアットはフードコートのあるショッピングセンターの前を信号待ちに
かかった。ここにだってアジア食がたくさんある。チャイニーズ、タイ料理、
インド料理、日本の弁当のお持ち帰りのデリカテッセンもある。わざわざ
SAKURAに来る理由はないのかもしれない。フィアットのアイドリング音が
急に高まったような気がした。

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SAKURA2号店にもどった。ディナーの準備にかからなくてはならないが、もや
もやは晴れなかった。堀田店長のことばが頭をめぐっていた。
 
 お客さまの心を感じ取る・・・・
 お客さんの近いところで商売を考える・・・・
 商売よりも伝道・・・・
 日本食を敬遠されるお客さまも大切に・・・・

照明を落としたSAKURAの店の中はだがまだ外は明るい。窓ガラスからは平行
四辺形にゆがんだ残照が差しこんでいる。思い出したのはことばだけでは
なかった。
 
 琴の音色のBGM・・・・
 高級な店舗だがGoo' Day!と声がかかる気さくな雰囲気・・・
 ひざまずくウェイトレス、ヤル気のある従業員・・・・
 日本でも滅多に味わえない加減のお茶・・・

Mr.Tにせよ、わたしにせよ、後藤にせよ、しょせんは風来坊なのだ。KOTOの
ような組織で営業をしているわけじゃない。最初から勝ち目なぞない。だが
このままでは・・・。

  J0399700  if you enlarge this, happy new year!

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その夜もお客はまばらだった。わたしは堀田店長が話したこと(どんなお客
さまがどんな料理を注文するのかわかりますか?)を思い出して、お客さん
の様子を見て書き留めることにした。一組はオーストラリアン同士のカップル
で、始めて見る客だろう。すき焼きセットを二人前に、刺身の盛りあわせと
いう、日本人から見るとちょっと違和感のある注文だった。

あとはときどき来る日本人駐在員のグループ、日本人家族連れ、現地の
中国人の家族・・・・。今日も全卓が埋まらない1回転で終わりだ。

「いくらお客さんに話を聞けって言われても」 ぼんやりしていたわたしに
後藤が声をかけた。「突然、ウチのお店いかがですか?美味しくないです
か?なんて聞いたら不安だよね。もう来てくれなくなるかもしれない」
「それはそうだな。せっかく食事しているところに『アンケートお願いします』
てわけにもいかない」
「日本のお店でもよく『ご意見お願いします』ってありますよね。あれはよっ
ぽどアタマにきたときしか書かないですよ。店長出て来い!て」
「そう言って出てくる店長が、あの拳のやたら強い空手バカだとしたら?」
われわれは寂しく笑いあった。

どうやってお客さんの立場に立てと言うのだろう。ぼんやりと店の中を見て
いると、台湾人の麗朱がやはりぼんやりと立っていた。手持ちぶさたも仕方
ない。KOTOのウェイトレス恵子を思い出して、こっちには望むべくもない
ものかと思わざるをえなかった。と考えたところで、ひとつひらめいた。

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「後藤、彼女たちには家族がいるよな」
「彼女たちって・・・麗朱やワンダのこと?」
「うん」
「麗朱には移住してきた台湾人の家族がいまして、一度遊びに行ったことが
あるから知ってるんですよ。ワンダは一人住まいかもしれないけど、家族は
どこかにいるでしょう」

麗朱は父親の事業を手伝いながら、SAKURAにも働きに来ている。ワンダは
日本語科の学生であり、日本語と日本文化を勉強しているアルバイトだ。
「どうせこれ以上お客も来ない。早仕舞いにして、キッチンを掃除しちゃおう。
ここまでくれば、いっそ状況をみんなに知ってもらって、アイデアがあれば
何でも欲しい」

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「みんなに相談したいことがある」 

みんなと言っても後藤、麗朱、ワンダとわたしの4人だけだ。麗朱の妹の麗貴
は今日はお休みだし、Mr.Tの奥さんも今日はいないのが好都合だった。
「昨日Mr.Tが来た。何のために来たか。みんなはこの店の売上状況はだい
たいわかるな」 3人がうなづいた。
「期限は言われなかったが、このままではこの店を閉じると言われた」
麗朱もワンダも、半ば驚き、半ば来るものが来たという表情だった。

「お客さんが少ない。売上が上がらない。仕入費用さえまかなえていない。
商売だからそれは当たり前だ。君らは他に仕事を探せば済むかもしれない」
ワンダはシュワっと空手の真似をしながら言った。「お前をブチのめす」
みんな笑った。「殺される前に逃げるよ。だが他に働き口もないだろうから、
日本に帰ることになる。できれば帰りたくないんだ」 

「そこで、ブチのめされる前に、できるだけのことをしてみたいんだ。今日、
ある人に相談をした。その人が言うには『まずお客の話を聞け』という。だが
お客さんにはなかなか聞けない。それで思いついたんだが、ワンダと麗朱の
家族や知人をこの店に呼べないだろうか?」
「なるほど、それでこのお店の意見をもらうんですね?」後藤が言った。
「そうだ。みんなからもぜひ意見はもらいたい。わたしも考える。だが客観
的に話してくれそうな人から聞くのが一番じゃないだろうか?」

「わかったわ。賛成です」 流暢だがどこか中国なまりのある麗朱が言った。
「実はね、麗貴とも『つぶれちゃうかもね』とは言ってたよ。だからママとパパ、
来てもらうよ。話してもらうよ」
「ワンダは?」
「OK。私は両親が近くに居ないので、友達でよければ来てもらえるでしょう」
「ありがとう。開催日なのだが、開店中に来てもらってもいいが、お話も聞き
にくいので、店の休業日に来てもらうことは可能だろうか? だとすると、みんな
には働いてもらわなくちゃならないが・・・」
「つぶれちゃうとコバヤシさん、大変だからがんばります」 麗朱が言って
くれた。ワンダはニコリとして日本語で言った。「コバヤシさん、正直に言って
いただき、どうもありがとう。これ、よかったと思う」

「ありがとう。もちろん全部、店のおごりだ」 意外なほどみんなが店のこと
を考えていたのだと思った。意外でもあり、嬉しかった。

J0399632  桜木花道、ですね。

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今日は以上です。ではまた明日。Click on tomorrow!

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