ポイント・ウォーズ 3.ポイントからターゲット・マーケティング?
今週の勝手にアドバイス 旬ネタのテーマはポイント。
昨日のブログ「ポイントか割引かクーポンか、それが問題だ」では、NTTドコモはポイント引当金を積み増したくないという理由で、マクドナルドと提携して「刹那な割引」であるトルカ(電子クーポン)と連携させる、ということを書いた。これは正しい読みだとは思うが、ドコモが引当金という消極的な理由だけで提携したとは考えられない。もっと積極的なねらいがあるはずだ。
マーケティングとは、ターゲットをねらうことに始まり、ターゲットがねらわれたことで満足する。これが美しいマーケティングである。ポイント・プログラムとは、その美しい道に乗っているのだろうか?
そこで今日は、トルカという一見してポイントとは異なる販促手段から、ポイントプログラムの利点・欠点を観る。今週の旬ネタ3回目では、「ポイントからターゲット・マーケティング」という公式を疑ってみたい。
【勝手にアドバイス 旬ネタ ポイント・ウォーズ 3.ポイントからターゲット・マーケティング?】
まず、NTTドコモのトルカで何ができるかみてみよう。
「トルカ」とはおサイフケータイで取得できる電子カードのこと。
トルカは、レストランカードやクーポン券など、これまでは店頭で紙媒体として配布されていたカードなどをケータイに取り込むことができるサービスです。取得した情報はケータイ内のフォルダに格納され、ケータイ上でカンタンに検索・ソートなどの管理ができます。
引用元 http://www.nttdocomo.co.jp/service/osaifu/toruca/index.html
イタリアンレストラン・ボーノボーノで10%のクーポン(トルカ)を取得ができる。また画像広告の配信で「入荷しました!」「おすすめ!」をプッシュ配信もできる。トルカの取得はお店などでできるので、特定エリアでの配信や、時間帯別の配信などが可能である。タクシーでも配信されて販促手段として普及しつつある。
このトルカは携帯内でカテゴリ別に保存管理などができる。いつか使うだろうという、気軽な気持ちでピッとやって保存しておくことができるのだ。しかも友達同士で交換もできる(903i/703iシリーズ以降のおサイフケータイ)。
トルカのサービス提供は「アサヒビールの直営店(生ビール1杯)」「アパホテル(チェックアウト延長)」「アルゼ(アミューズメント1,000円分)」「カレッタ汐留(割引)」「キッコーマン(速攻レシピ)」「タワーレコード(セール情報)」「JAL日本航空(割引)」など、もりだくさんである。
問題はトルカを使うときは「お店で電子クーポンを見せるだけ」というところ。ぐるなびのクーポンと一緒で、プリントアウトする(住所や氏名はほとんどの人が書かない)のと本質的に変わらない。見せるだけだとチェックアウトをされたという情報は、その携帯の持ち主を特定できない。
【そこでidとの提携】
「iD(アイディ)」は、おサイフケータイをかざすだけでショッピングやキャッシングができるクレジットサービスです。クレジットだからチャージ(入金)の必要がなく、より便利にケータイひとつでショッピングができます。ご利用いただくには「iD」に対応したクレジットカードサービスへのご加入が必要となります。
http://www.nttdocomo.co.jp/service/osaifu/id/index.html
ロゴ。
これはいわゆるおサイフケータイを用いた電子マネーサービス。差別化はトルカと同時に用いてもらうことで、誰がいつ何にいくら消費したことがわかること。それも特定の広告や電子クーポンという特定日時の販売促進からいつ消費したかがわかる。あるいは消費しなかったこともわかる。そして、その理由もわかる(なぜならその人はその販促やそのクーポンには興味がないからだ)。
販促と消費を結んだ消費者データを入手できること、しかも携帯電話という個人情報(性別・年齢・居住地・携帯消費履歴等)が併せて分析できる。マーケターにはなんて素敵な仕組みだろうか。
余談だが、ここまでの追跡&分析ことができそうなのに、なぜ世論はプライバシー侵害を訴えないのだろうか?それも不思議だ(ICタグではプライバシー侵害が相当に議論されているというのに)。
【結局ポイントプログラムで何をしたいのか?】
多くのポイント・プログラムがターゲット・マーケティングになっていないのは、「何をしたいのか」が明瞭でないからである。ポイント・プログラムの目的をパターン別に観てみよう。
①ポイントで割引を先に持ち越したい
この効用は顧客の自社・自店からの離反を防ぎ、自社にとっては割引原価を延べ払い、ないし使われなかったらチャラにできるという利点がある。
言い換えれば、先に現金割引してしまうとつきあいがなくなるという不安と、当面の資金繰りをよくする一方、使われなかったら儲けになる。お客様にとっては、いつか(通って貯まれば)割引になるが、一定ポイントに達しなければ使わないのでムダになる(店の得になる)。
顧客志向とは言いにくいので、そこを見透かされて効果が出ない。目下のところ赤字なら、思い切って中止も検討すべき。
②ポイントとは事業アライアンスを実現する企業通貨である
自社・自店だけでなく多くの仲間と共同で、同じ制度を運用することで「あそこでも貯まる・ここでも貯まる」。古くからある商店街スタンプカードの発想が原点である。これには二つのパターンがある。
強者連合により、囲い込みを強固つくり、他社に勝つ
弱者連合により囲い込みをつくり、強者に負けない
この二つのパターンともに顧客視点が感じられず、自社都合が優先されているのはさておき、サークル内での個別の企業はその強さ・弱さで、容赦ないしっぺ返しもある(つまりポイント引当金を積む必要があること)。グレシャムではないが、通貨はいつでも強い者に流れるのであるので。
③ポイント=仮説検証の顧客ファンづくりツール
わたしは、やはり原点はここにおくべきだと信じている。顧客との関係性を濃くする、顧客を知り、何が欲しいか知り、商品やサービスを改善するツールとする。どうしたら喜んでもらえるか、来ていただけるか。それを考えること。恋人を想うのとまったく同じである。
仮説検証といえばイトーヨーカ堂である。ちょうど、今日、元イトーヨーカ堂に勤めていた青年Uと喋っていた。イトーヨーカ堂では新人研修から仮説検証、つまり今日はこういうものが売れる、売れたら評価、売れなかったら反省という繰り返しをするという。店長会議では売上が下がった店長に対して、データをベースにどんな仮説を立てたか、なぜその仮説が効かなかったのか、どうすればいいのか、徹底的に絞るという。
小売業に限らず、仮説検証という思考はほとんどの企業ではなされていないのが実情である。POSデータだって(まったくと言っていいほど)使われていない。ICタグになって情報量が増えても同じであろう。
【ライフスタイル分析こそ王道】
多くの企業が大同連携して「ポイントが移行できます、だからお得です」という連呼をされても、すべての企業にメリットがなく、すべての顧客にとっても必ずしもメリットではない、これは明白である。
他社とアライアンスをする場合で効果が出るのは、当たり前だが、アライアンスで内部競合が起きずに、内部競走が起きる場合である。東京メトロのTo me CARDのようなビジネスモデルならそれが可能である。その駅周辺のお店を組織化してエリア制覇をねらうポイントプログラムとする。ポイントと電子クーポンの販促を共通化するならば、エリア全体での集客力が高まる。
あるいはHondaやToyotaのような自動車会社がガソリン、自動車用品、自動車保険、車検、駐車場・・・など自動車がらみでポイント連携する。それだけではおもしろくないので、車種別にライフスタイル分析ができるように提携先を変えてもいいだろう。
ToyotaのbBのような個性的なクルマなら、ファッション、時計、アクセ、香水、音楽、エステ・・・など、乗り手のライフスタイルを丸ごとポイント化するような事業提携を導入する。ターゲット層が望む(であろう)特定のファッション・ブランドやライフスタイル・ブランドと連携するのである。それを「id」+「トルカ」のようなツールでで実施すれば、次のマイナーチェンジへのヒントだけでなく、そのターゲット層向けの商品開発にも役立つのではないだろうか。
【マス・店舗・eの違い】
薄利多売でやっているマックの原田社長は、最初は電子マネー導入の申し出を断った。『うちは薄利多売だから赤字になる』と言ったという。システムの利用ロイヤルティの支払いが利益を悪化させるからだ。
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/33366.html
だがそれを思い直したのは、ここで損しようが損しまいがいずれキャッシュアウトの電子化は不可避である。ならばドコモに学ぼうと思ったのと、それに加えて低年齢&低所得ばかり相手にはできない、もっと店舗別・時間帯別・ライフスタイル別の分析が必要だと考えたからであろう。
これもそれも仮説検証である。どこの企業も、慣れるまで最初は苦しいかも知れないが、時間をかけて仮説検証を企業体質に刷り込むしかない。いかなる事業でもいかなる業務でも、仮説が商売開発を改善する第一歩だから。
今日は以上です。ではまた明日。Click on tomorrow!
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