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2007年2月 5日 (月)

きびしい掟の匂い

今日はまぐまぐから各週でお届けしているぷろこんエッセイからの転載です。

ぷろこんエッセイ 121号 きびしい掟の匂い


ただ一つだけ、きびしいおきてはあった。だれひとり、ほかのうさぎはどこへ
行ったかとたずねてはならない、そして『どこへ?』ときくものはだまらせなくては
ならぬ、というおきてだ。『どこへ?』と、きくだけでも、まったくわるいことだが、
わなのことをあからさまに口にするのは--これはもうがまんならないことだった。
そんなことをするうさぎは、ひっかいて殺しただろう。

ウォーター・シップダウンのうさぎたち』 リチャード・アダムス(神宮輝夫訳)

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企業を揺るがす不祥事が多い。

不二家に限らず、食品製造業や販売業におけるモラル低下の事件が報道され
ている。大手ゼネコンの談合宣言がまたしても嘘だったのが発覚して、地検に
よる家宅捜査もあった。不正処理と粉飾決算で日興コーディアルグループの
事件も連日報道されている。いずれも今日に始まったことではない。

新聞のコラムは30年前の記事を引いて、「これは最近の記事ではなく、昭和○
年の記事である、企業の体質改善は進んでいないということか」と締めくくられる
くらいだから、嘘や汚れた仕事はいつの時代でもある。人間一人ひとりは悪では
ないのに、、集団になると悪の部分が出て、無責任構造が作られるという論調も、
今日に始まったことではない。

だが過去50年ぐらいのスパンで見ると、不祥事の性質が変わってきたように
思える。

不二家の事件で気になるのは「工場丸ごと甘くしたルールがまかり通ってきた」
という点であった。日興コーディアルの場合は、「不正な利益水増し」を業績低下
隠すために組織ぐるみで実施したとされている。ゼネコンの談合は「ほんとうに
嘘はつきません」という嘘であったが、こうでもしないと呉越同舟でみんなつぶれる
という危機感からやりました、という開き直りもかいま見える。

枝葉を落として言えば、昔の不祥事は、企業や事業の成長のためには目をつむ
らなくてはならない、といういわば成長への企業戦士の契りであった。ところが、
昨今の不祥事は、モラルが惰性的に低下し、あるいは事業が不振ゆえの窮余
の策というエレジーが漂っている。至る処でタガがゆるんでいる。

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冒頭に引用したのは、名作『ウォーターシップダウンのうさぎたち』からのエピソ
ードである。そのあらましは次のとおり。

 1

自分たちの住みかが壊滅するという危険を感じて、村から飛び出して旅をする
うさぎたちが、あるうさぎの集落にたどりついた。旅に疲れたうさぎたちを優しく
もてなしてくれた。ところがどこかおかしい雰囲気がある。どのうさぎも健康で、
まるまる太って毛並みもいい。いたちなどの外敵から守られる立派で、広大な
穴住居に住んでいる。旅するうさぎには不自由ない暮らしのように見えたが、
実は人間たちの食用うさぎとして囲い込まれるように暮らしていたのだった。
穴のまわりにはうさぎ捕獲の罠が仕掛けられていて、一匹一匹と人間の必要
なとき捕獲される。

集落の長のうさぎたちはもちろん、そこに住むうさぎたちの大半はそのことを
知っている。だが、たかが一匹ずつ、運の悪いうさぎが犠牲になるだけなので、
そのことを「口に出してはいけない」という掟があったのだ。黙っていれば、集落
全体は維持できる。それが「何かおかしいな」という匂いの源泉であった。

このエピソードはいろいろな読み方ができる。「本音を言えるか、言えないか」
「言えたとしても、聞く耳をもってくれないこともある」と読めるし、「組織は一定の
犠牲者の上に成り立つ」ことは「正しいこと」であり「運命を受け入れよう」とも
読めなくはない。流行りの格差社会という観点から、「落伍者が出るのは当たり
前」でもあり、「出るなら最小限の犠牲にとどめる」「それが社会だ、大人なん
だから理解しろよ」と読めなくもない。

だがまっすぐに読めば、匂いを感知する感受性を失わず、おかしいと感じたら、
適切な行動をとりなさい、であろう。ウォーターシップダウンの旅するうさぎたち
は、この場合、脱兎のごとく逃げ出したのであった。

本音が隠される組織は、ある種の匂いがする。いろいろなところにその兆候が
でる。社員の顔つき、机の配置、組織図と現実の乖離、幹部の話しぷり、受付嬢
や応接室の絵画からも匂ってくることがある。ところが、どんな匂いでも慣れる
ものなので、社内では呼吸はできるのである。少なくともあるときまでは。

個人としてなら、匂いに感づいて耐えられなくなれば脱兎のスタコラサッサが
できる。だが企業組織は、社会責任上そうはしにくい。だから組織的に不正を
阻む仕組み、つまり内部通報など企業活動の牽制制度が整備されてきた。
そこもタガがゆるんでいる。

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不二家の不祥事がらみでの報道で、現在の管理体制では工場がISO認定を
受けられないので、操業が開始できないとされた。一見まともな論調だが、ちょっと
待てよ。では今日までの不二家のISO9001認定はどうなっていたんだろう?
日本適合性認定協会(ISOの認定機関)で調べると次のとおりである。

登録日 2006-06-09
有効期限 2009-06-08
登録範囲
1.営業支店からの依頼に基づく、チョコレート・焼菓子・キャンディの設計及び製造
2.小売部門からの依頼に基づく、缶デザート・アイスの製造 

今回の不祥事の発覚後に「登録は認められない」はもちろんとして、では前の認定
分はどうなるのだろうか?「書類上の認定だから」「チェック項目がなかった」という
開き直りをされても困るが、これでは企業活動への牽制制度は、事後的にしか働き
にくいと言われても仕方がない。

企業分解となった雪印乳業では、HACCP(Hazard Analysis and Critical
Control Point)という食品安全管理手法も導入していたが、それも機能しなかった。
耐震偽装の建築基準法にしてもまさにそうだし、粉飾会計における会計監査も
同じである。企業牽制制度は一罰百戒にはなるが、予防的に機能させるためには、
組織内に「匂いをかぎつける」執念を持続する人が必要がある。

これもまた、自社を慮る企業戦士の役割であった。

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コンサル業のはしくれとして、「匂いを感知する感受性の不足」と「予防的に働きに
くい企業牽制」に関して、つくづく思うことが二つある。

1.企業戦士が少なくなった。
2.事業停滞意識がきっかけになる。

ちょっと前までなら、「企業のためにがんばる」、もっと前(戦後から高度成長まで)
なら「国づくりのためにがんばる」という「プロジェクトX」が成立していた。ところが
終身雇用も年功序列も消滅し、長く企業に勤めるより自分のためにがんばる人ばか
りになった。

それは悪いばかりとも言えないし、社会ニーズを無視して自社ニーズをゴリ押しする
企業戦士は不要である。だが事業改善のコンサルティングの仕事では、身を粉にして、
事業改善に取り組んでくれる役回りの人が必要なのである。そういう人がめっきり
少なくなった。われわれコンサルタントにはゆゆしき大問題なのである。  

NHKの『プロジェクトX』がネタ切れで制作中止になったと言われたのは、皮肉な
巡り合わせである。

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2について、どの不祥事も根っこには「事業が思わしくない」意識や状況がある。

不二家では過去三期売上高は低落、前期は赤字決算である。13年前の売上高
と比較すれば35%も縮小している。ゼネコンは構造不況でありながら業界再編が
起こらない。自動車業界でのリコール問題も、縮小する国内市場にあって(多すぎる
企業数を)再編することを怠ったのが遠因と言えなくもない。

企業や事業の成長が止まり、成長曲線のてっぺんに達したとき、すでに不祥事へ
向かうほころびがあるということだろう。だからほんらいの意味での不祥事予防は
事業成長を継続させることである。その余裕の上で企業牽制制度の整備であろう。

企業や事業の成長が止まり、成長曲線のてっぺんに達したとき、すでに不祥事へ
向かうほころびがある。だからほんらいの意味での不祥事予防は事業成長を継続
させることである。その余裕の上でこそ、企業牽制制度が機能する。

わたしもクライアントにそういう支援ができてこそ、やりがいを感じる。

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『ウォーターシップダウンのうさぎたち』で描かれた「きびしいおきて」をもつ、
本音を隠す「匂いのする」うさぎの集落のその後は、どうなったのであろうか?

実はまだ全部を読み切っていないので、著者のリチャード・アダムス氏がそれに
触れているかどうか、答えを書けない(笑)。

だが間違いなく言えるのは、コンサルティングの仕事をこの集落でやっても
なかなかうまくゆかない。本音を話さないという「きびしい掟」の風土の組織に、
情報共有が大切です!と言っても通じるわけがないのだから。

2  これから下巻(笑)

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http://www.mag2.com/m/0000096057.html

お読みいただきどうもありがとうございました。

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