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2007年2月 2日 (金)

SAKURAの春 桜のつぼみ 5 開花前夜

勝手にアドバイスは、いつもと趣向を変えて、店舗建て直しのフィクショナルな
物語の続編を書いています。今日はその5回目で堂々の?最終回。なんとか
最後までたどりつけました。励ましていただいた方々、どうもありがとう!

SAKURAの春 桜のつぼみ 5 開花前夜 @@@@@@@@@@@@

わたしは、ブュフェ・ランチの一週間のメニューサイクルやテーブルのレイアウト
案を後藤らにまとめるように告げると、ショッピングモールの駐車場に向かった。

ブリスベンのあるクィーンズランド州は、別名サンシャイン・ステートと呼ばれる。
特に日中はそれが痛いほど体にしみる。駐車場のフィアットも同じだ。フードで
目玉焼きが焼けるほど熱せられている年老いたエンジンに、イグニッションを
回すのは気が引けた。だがわたしがキーを回すと、まるでお尻をたたかれるの
を予期していたかのように、じつに滑らかにエンジンを轟かせてくれた。普段は
真昼間に走ると水温計がぐっと上昇し、オーバーヒート気味になるのだが、今日
は走り出してもゲージは一定を保っている。静かに燃えてくれている。人馬一体
とはまさにこのことであろうか。行く先はKOTOである。

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KOTOの駐車場に元気な老馬を停め、夕方まで「Closed」という札のかかる扉
を開けた。照明が落ちて薄暗い店内だった。わたしの声が店内に吸い込まれた。
「こんにちは、Good Afternoon!」

すると、お待ちください!と奥から声が聞こえ、やがてダンボールの箱をかかえた
堀田店長が現れた。すみません、とわたしは駆け寄ってそのダンボール箱を
支えた。
「ざっと20個ぐらいかな。ウチでも行事とかケータリングにしか使わないから、
しばらく使ってくださって結構ですよ」 KOTOの堀田店長が言った。幕の内弁当
用の容器なのである。

堀田店長に、後藤らと話し合っていた「ブュフェ・ランチ」のアイデアをかいつ
まんで説明した。うんうんとうなずいて聞いていた堀田は言った。
「おもしろいんじゃない、それ」
「そう思っていただけますか?」
「まずオーストラリア人がメインターゲットであること。彼らに典型的な日本食を
伝えることがねらいだね。いろいろな日本料理を日替わりで楽しめるのもいい。
惣菜を選んで、自分たちでお弁当に盛り付けると、日本食の成り立ちも学べ
そうだね」
わたしは自分の顔がほころんでいるのを感じた。
「弁当箱というもの新奇性があっておもしろいね。これをバイキングに使おう
なんて、日本人には発想できないでしょう」
ワンダの『敷居の無い』アイデアに感謝しなくてはなるまい。
「お客さまのターゲット、その関心事項、商品とバラエティ、飽きさせない工夫、
サービスまで、一貫している。『日本料理店ならでは』の筋が、気取らずに
通っているところがすばらしい。」 堀田店長が総括した。
「ありがとうございます」 わたしは敬礼するようにおじぎをした。

「ビュフェをするにはSAKURA2号店ではちょっと狭いし、たしかに刺身や天
ぷらはむつかしいかもしれないが、どうにな工夫できそうだし。まずやって
みることだね」
ダンボールに収まった容器と共に意気揚々と引き上げようとするわたしに
向かって店長が気になることを言った。
「ランチはそれが当たるかもしれないけど、夜をどうするかも考えておいた方が
いいよ」

ディナーのことまでは考えが及んでいなかった。確かにそうかも知れない。だが
わたしには、問題をひとつひとつ片付けるしかなかった。

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

SAKURA2号店に戻ると、後藤、麗朱、ワンダはあれこれと相談を続けていた。
どうやらプランが次第にかたちになってきたようだった。わたしは容器が合わ
せてほぼ席数までになったことを告げると、拍手が起きた。まるでもう成功した
かのような雰囲気になってきた。

「コバヤシさん、名前はどうしましょう?」と麗朱が言った。
案はいろいろと出た・・・ニッポン・ビュフェ、幕の内ビュフェ、SAKURAビュフェ・・・
思い切って『タベホーダイ』なんてどうだろうか?というところで落ち着いた。 

『SAKURA BUFFET TABE-HODAI(タベホーダイ)』

ビュフェの素材を載せるテーブルは、すべての席から公平にリーチできるよう
に、客席の真ん中にした。このことが後になって重要な意味を持つようになる
とは、このときは考えもしなかったのだが。

刺身と天ぷらのある日は、注文を受けて調理することにして、わたしか後藤が
客席まで訪れサーブする。味噌スープはワンダと麗朱が運ぶ。ごはんは麗朱
の自宅にあるというお櫃を使うことにした。真ん中のテーブルで電源が取れない
ということと、業務用の釜では見栄えが悪いからである。おにぎりもおもしろい
という意見もあったので、そのときは全員で握ることにした。

お店の入口に置く『LUNCH TABEHODAI!』の看板は、後藤がコバヤシさん
にはまかせられないからと言って、ホームセンターで板とペンキで仕上げた。
麗朱とワンダは手書きのメニューを作った。それをチラシにも使えるようにして、
ショッピングセンター内の他店にも配り、わたしは日本の企業を中心にFAX
で販売促進をしながら、ランチメニューや段取りを検討していた。

「コバヤシ、お前を殴る」とMr.Tに言われた、ほんの三週間前には、こんなに
皆が張り切って働くことを想像できなかった。何より、わたし自身が、オースト
ラリアに居続けるためと割り切っていたのが、これほど仕事がおもしろくなる
とは思いもよらなかった。

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

TABE-HODAIはわずか4日の準備ですべりだした。翌週の月曜日が初日だった。
みんな祈るような気持ちだったはずだが、初日からお祈りをする時間はなかった。
何しろ忙しいからだ。次から次へとお客さんがやってきて、あっと言う間にテーブル
が埋まったのだ。12時前から1時半過ぎまでほぼ満席の状態だった。オープン
してから今まで一度もなかった、店舗の外にまでお客さんが列を作ってくれたのだ。

おかげで中も外もてんてこ舞いである。幕の内容器は常に洗浄して、待って
いるお客さんに出すことが続き、お客さんが席を立ったら「そら洗え!」となった。
遂に3日目は2回転以上、合計80名近くのお客さんでにぎわった。

客層は初日こそ日本人客がやや目立ったが、翌日からはオージーが増えて、
ねらいどおり、箸はどうやって持つのか、ワサビはどんな味なのか、わかめの
おひたしでお腹をくださないかなどの質問があった。これもねらいどおりだった。

       @@@@@@@@@@@@@@@@@@

TABEHODAIの激働の1週間が終わり、明日は休日という日になった。応援に来て
もらった麗朱の妹の麗貴も含め、皆へとへとだっただろう。わたしも慣れない
忙しさでこの一週間は疲れた。だが満足感に満ちていた。

わたしはあらためてTABEHODAIが成し遂げたことの意味を考えようと思った。
厨房のステンレス台の上に重ねてある「金のなる木」(お弁当箱)を眺めながら、
壁にテープで留めておいた、以前SAKURAの強みを悩んだときに書いた、紙
ナプキンをとった。この紙の横にもう一枚ナプキンを置き、「敷居が低い本格さ」
「日本食を楽しめる」と書き足した。

2_2      

「敷居が低い本格さ」も「日本食を楽しめる」も、TABEHODAIというランチでKOTOを
上回るポイントがつけられる。ランチ戦略がSAKURA2号店に新しい価値をもたら
せたと言っていいだろう。だが・・・・。

わたしは帳簿を開いた。ランチの影響が出て、数値は改善した。だがそれはランチ
の増加分、客数にして日に40~50名。単価の低さと原価率の高さで、粗利益は
それほどでもない。ディナーはランチでの口コミが少しあるのだろうか、お客さんは
増えたが、全体としてはあいかわらずヒマである。堀田店長の言葉、「夜をどうする
かも考えておいた方がいいよ」が思い出された。この店の規模から見て、ディナー
が勝負どころなのだ。

TABEHODAIランチはうまくゆきそうだ。だがこのお店はフードコートではないので、
しょせん売上には限界がある。話題づくりができても、実を取るまでには至らない。

SAKURA2号店の改善は、桜にたとえればまだ「つぼみ」が開いたに過ぎなかった。

Im20070130nn001y6263001200713  桜の蕾

SAKURAの春 桜のつぼみ 5 @@@@@@@@@@@@@@@ 終わり

今週1週間(2007年1月29日~2月2日)、お読みいただきどうもありがとうございました。
昨日の「4 幕の内ブュフェ」で触れたラジオ・オーストラリアのワライカワセミ
(クカヴァラ Kookaburraと現地で呼ぶ)は懐かしい声です。ネットでチェックすると、
もうずいぶん前に日本語放送は中止されていました。この放送、よくワーキング
ホリディの若者をラジオに登場させておりましたが、何を隠そうわたしもメルボルン
のスタジオ見学に行ったつもりが、その場で生インタビュー出演をしましたっけ。
緊張しました。これを載せるのも緊張しましたが(笑)。

こちらにこれまでの10回分をとりまとめました。継続するかしないか、できるか
できないか、こちらのアクセス数次第で考えます。よろしくお願いします!

http://sakura-no-haru.cocolog-nifty.com/

 05121
出典 http://friend.bird-mus.abiko.chiba.jp/sakuhin/digi-p/0512-1.jpg

ではまた明日!

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