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2007年4月14日 (土)

カスタマー・バリューのフロンティア 6.売り手の情熱:トヨタbB 若者による若者のための・・・

【カスタマー・バリューのフロンティア 6.売り手の情熱:トヨタbB 若者による若者のための・・・】
消費者行動と消費者調査をテーマにしてきた今週の旬ネタ、今日は最後である。

心脳マーケティング』には、従来のリサーチは、つくった仮説を検証するという運命から逃れられないという主張がある。

市場調査の80%以上は追認的なものであり、それによって新しい洞察が明らかになるというよりも、すでに調査者が持っている信念や本当だと考えている事柄を確認するものである。
『心脳マーケティング』 ジェラルド・ザルトマン著

もちろんリサーチにも段階があり、追認型のリサーチをすることで需要量を想定する作業段階もある。だがザルトマン氏が指摘しているのは、商品のコンセプトを抽出する段階、絞り込む段階、そして揺さぶる段階でも、追認型に陥っていないか?という問題意識である。

次々に新しい地平線から競争相手が現れる現代において、既存業界の商品開発やサービスのあり方、業界慣習などを取っ払って、既視なる状況や枠組みをリセットすることが求められる。だからこそ従来の路線で安易に開発し、その検証も追認に陥ってはならないというのだ。それは事実である。

だが、自らの仮説を「無意識に」確認してしまうのなら、むしろ罪は軽い。経験の浅さや、やる気の空回り、若気の至りということもあるから。罪が重いのは、決めておいた答えを誘導するたぐいの調査やアンケートである。予算取りのための顧客アンケートや、「社員の声を(一応)聴いたぞ」的な社内アンケート。良し悪しはいろいろあるが、世の中にはこんな事例がたくさん転がっている。

脱線した。今日考えたいのは別のことである。追認型はナンセンスだし、業界の慣習や既存の商品やサービスを見る視点をリセットした方がいいのは事実。だがマーケターや開発者は仮説をまったく持たず、心理的なバイアスがまったく無いことがよいのか?それは違うということである。

【トヨタbB】
2005年12月に発売したトヨタの『bB』は、車離れが著しい20代向けの戦略車種として発売された。20代の車離れは市場全体の問題ではあったが、トヨタにとっては年代別シェアで、この年代だけが40%を下回るという、未来への危機感もあり、なんとしてもヒットさせたかった。そこで商品開発はすでに終盤にさしかかっていた2005年2月に「誰もが見たこともない宣伝をしよう!」という目的で、27歳の宣伝広告室社員の中澤さんリーダーにするプロジェクトチームを発足させた。中澤さん以外に商品企画、デザイン、営業、技術から若手を7名選出し、いかに20代にアピールするかを検討した。

まず最初の気づきは、「若者はTVを観ない」という事実だった。中澤さん自身もほとんど観ない。ところが自動車の宣伝はTVCMで知名度を上げるのが常識である。20代にはそれでは伝わらないので、基本を口コミ・ネットコミのキャンペーンに据えた。そこまでの方針はチーム内ですんなりと決まったが、問題は前例否定の宣伝をいかに経営層に説得するかであった。

【車ではなくて、音楽プレイヤー】
中澤さんらが実行したのは、キャンペーンやイベント案(この時点では仮説である)を4つに絞り込み、調査会社と連携して、実際に20代の約60名の男性に生に聞いてみることだった。だがキャンペーン案やキャッチコピー案まで事前に開示してしまうと、市場に漏れてしまう可能性があり大きなリスクであった。そのリスクをあえておかしても、前例がないことをするためには、若者の生の意見を聞くべきだと判断したのだ。

そのキャッチは、『Toyotaの車型ミュージック・プレイヤーbB』である。これは車ではなくて、音楽プレイヤーなのである。革新的な宣伝であった。

 Toyotabb

このキャッチコピー案までを示して「どう思いますか?」「なぜおもしろいのですか?」「どこにどきっとするのですか?」と、なぜなぜ質問を5回繰り返すということをしつこくやりのけた。若者は車離れしていても、音楽離れはしていない。車として売るのではなく、音楽プレイヤーとして売ろうという発想だった。もともと開発コンセプト段階で、9つもの高性能スピーカーを搭載することは決まっていたというが、デザイン部門からは、アグレッシブなデザインではなく「ミュージック・プレイヤー」として売られることに抵抗もあった。

それを中澤さんらは「若者は車と聞いただけで関心を失う。それが現実です。だから関心を喚起するために、多くの若者が興味を持つミュージック・プレイヤーだと宣伝すべきです」と、生の声を集めた調査データを示して、経営陣を説得した。 (以上、日経情報ストラテジー 2007年4月号を引用&参考)

 Toyotabb2

この画像bBのイベント告知の案内なのであるが、ぐっとくるのは小さく書いてあった次の文面である。

※試乗体験は、bBのミュージックプレイヤーとしての魅力を体感していただくものであり、試乗運転ではありません。(運転免許証は必要ありません)

運転しなくていいですよ、乗って音だけを聴いてください、というのだ。徹底しているじゃないですか。こんな車の宣伝はこれまでなかった。

【冷静に情熱を抱け】
このトヨタの事例の素晴らしいところは、従来の宣伝や広告を一切リセットし、生活者目線で、本音や本当の気持ちをベースに宣伝案(仮説)をつくり、それを事実(調査)で裏付けたというところである。

「5.AVISレンタカーの利用者体験からの改良」のAVISレンタカーの事例では、調査チームに「未来学者、心理学者、文化人類学者」という他業界のアウトサイダーを入れて、予想もつかない視点から分析するというアプローチがあった。これも新鮮である。専門的な第三者という客観性が保てるからだ。

だが、その商品を創る開発者自身が、冷静に熱くなることも必要である。開発者が熱くなるから、プロジェクトが成功した、とはどこでも聞くことであり、個人的にも間近で観てきたことである。熱心さを統計には取れないが、熱心なリーダーの存在が成功の確率を大きく上げることは間違いないだろう。一方で熱いだけではダメだ。冷静にとは既視感をリセットした仮説をもつこと、熱くとはその仮説を立証することである。

ザルトマン氏も同じことを言っている。「冷静に情熱を抱け」。 「新しいアイデアに対する情熱(または感情)は、創造的な思考を活発にする」と。既視感をリセットするのにも情熱力がいる。

【フォト・サンプリング】
bBのリサーチでこうした手法が使われた痕跡はないが、フォト・サンプリングという調査手法がある。

今や数千万人が携帯電話のデジカメを肌身離さず持っている。その写真機能を調査に使うものである。さまざまなシチュエーションで行えるが、たとえばペットという調査テーマならば、ペットをめぐって気になる写真を撮ってきてください、それをリサーチャーに送ってもらって、その写真を見ながらインタビューを進めてゆくというものである。

ペットの挙動やいたずら、しつけ、食事、遊び、病気など、さまざまなシーンがあると思われる。被験者に「なぜその写真を撮ったのですか?」「何が気になるのですか?」「なぜ今売られているペットグッズでそれができないんですか?」などと、質問も深ぼりができる。ひとりのインタビューからでも、相当な知見やアイデアが得られる。もっとも、ペットの写真だけ持参してもらって、ペットは連れてきてもらわないようにしよう。ペット自慢談義で終わってしまうので(笑)。

 Neko  とあるペット。(無断掲載_笑)

dBの場合なら、音楽ライフというテーマだけを与えて、何でもいいから写真を撮ってきてください、それをもとにインタビューをしましょうとなるだろうか。そこに果たして車が出てくるかどうかわからない。だが音楽を聴く従来のスタイルを変化させる発想が、湧いてくるかもしれない。

【最後に】
商品やサービス、顧客の体験を考えるとき、「直線的に成長させる」か「新しい別の階段を創るか」という2つのアプローチがある。

AppleのiPodを例に取るとわかりやすい。携帯音楽機器業界でゼロシェアだったAppleは、iPodというイノベーションで、従来の音楽携帯機器と別の体験=iTunesというダウンロードサイトにより、新市場を創った。それに対して、他の携帯音楽メーカーは軽量化や薄型化など直線的な機能進化に終始してしまった。既視感に囚われていたために、ウェブサイトとの連携という別の階段に上ることができなかった。

あらゆる業界・商品で、昨日と今日の変化値がとても大きくなっている。顧客のニーズは直線的に成長しないと言ってもいい。その意味では、顧客の本質を見抜くアプローチも、それを確認するアプローチも、刷新しなくてはならない。いつまでも同じリサーチやコンサルティングのやり方にこだわっていてはいけない。

その意味で、顧客体験を抽象化する「コンセンサス・マップ」、メタファーで本音を語らせる「ZMET」や「フォトサンプリング」、第三者視点で顧客経験を分析する「経験エンジニアリング」、想定ターゲットのライフスタイルを24時間視点で分析する「トータル・ライフスタイル分析」、量より本質を求める手法として注目したい。

今週1週間、お読みいただきありがとうございました。いくつかコメントや反応をいただきました。このテーマは個人的にも想いもあり、重みもあるので、別のかたちで「カスタマー・バリューアップの活動コンセプト」として体系化したいと考えております。ありがとうございました。

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