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2007年4月 2日 (月)

台本というミッション

今日は隔週で書いているぷろこんエッセイより転載です。

台本というミッション

神様は何となくいると思っていて、時々「もしかしたら周りの人はみんな
私のことを騙しているのかな」って考えることがある。実は、私に渡されて
いない台本をみんなは持っていて、その台本に沿ってセリフを話してる。
私が広いと思っているこの世界は、実は小さな舞台の中。そんなことを
たまに思う。

                           『祈り』 宮崎あおい著

          * ********** * ********** *

4月である。年度がわりで新しい「台本」を渡される人も多いだろう。

社会人のわたしたちにとっての台本とは何だろうか。たとえば入社誓約
書、入社書類は活動する上での基本の台本である。新入社員向けオリ
エンテーションや教育計画書も台本。採用書類や、昇格・異動辞令も
もちろん台本である。新規事業の計画書や新事業年度の予算書も時に
厳しいセリフ(コミットメント)やト書き(目標数値)が書かれた台本である。

他にも社会や組織で活動するためのさまざまな書類、シナリオ、ルール、
ガイドラインがある。人事規定、セキュリティ制度、プライバシー制度など
さまざまな台本に似たものがある。見えないし書かれてはいないけれど、
慣習や掟(おきて)のようなものもある。これも台本に似ている。

上司や同僚からの激励の電子メールは、台本をいかに読むかのアドバイス
なのかもしれない。社員研修でだんだんうち解けたときのおしゃべりの中
にも、台本を読むヒントがあるかもしれない。

4月という年度初め、公的に私的に、きっとさまざまな台本が読者のみな
さんの手元にも届いているのではないだろうか。どんなものであろうと、
わくわくするような台本であることをお祈りする。

社会や組織にある台本とは結局何なのか?と考えてみると、単なるシナ
リオ=筋書きではなく、実は「ミッション(使命)」と呼べるものではないかと
思う。

          * ********** * ********** *

わたしがこれまでにもらった社会人の台本のうちから、わくわくしたもの
はなんだろうか。たくさんあるが、そのひとつは前職のとき、「おまえ、アメ
リカへ行くか?」と聞いた元社長(故人)から、海外駐在という台本をもらっ
た時だろうか。

その台本はまるでホンになっておらず、当社にもひとりふたり、国際的に
活躍できる人材を育成せにゃならない、誰がいいだろう、あの郷という根
無し草みたいなヤツを送り込んでしまえ、という思いつきで、元社長はとん
でもないプロデューサーだった。

台本にはシナリオもト書きもない、アメリカという舞台だけが決まっていた
ので、表紙から物語から、自分以外の登場人物も舞台装置も小道具も、
自作自演で書き始めなくてはならなかった。

現地ロスアンジェルスに到着したのが、フリーウェイが何カ所も倒壊する
大地震があった日だった。舞台は初日から大揺れだった。台本通り
じゃないではないか!と思ったが、飛行機は定刻通りランディングした。

だがその台本無き駐在では、自らシナリオを書くという自由と責任を味
わった。自作自演の台本には、今思うとセリフもト書きも情景描写も穴
だらけだ。だから台本通りじゃないことも起きたが、それもこれも神様が、
当時のわたしの台本の読みの浅さにお灸をすえるために、舞台を暗転
させ、幕を上げ下げし、いろいろな照明があるんだぞ、ということを教えて
くれたのであろう。

役が与えられたことに感謝するならば、台本はやはり最低、暗記できる
ほどには読みこまなくてはならない。役を自分のものにするために。

         * ********** * ********** *

英国の舞台ではシェークスピアと言えば、かの時代のオールド・イング
リッシュで演じるしかないそうだ。台本を今風の言葉に変えるとか、自分の
思いをこめることは一切できない。日本で言えば文語と同じだから、俳優
にとっても簡単な役ではない。セリフを変えることがありうるのは、セリフを
忘れたときだけだそうだ(笑)。

だがわたしたちに与えられる台本は、自分なりにセリフをつくるものである。

俳優の役所広司さんは「台本に書かれていないものは自分で考えて決め
ていかなければ。なんでこの人(役)はこういうことをしゃべってるんだろう
とか、自分のなかでつながっていきませんからね」と語る。

行間を読み取り、眼光紙背(がんこうしはい)に徹する、というのだろうか。
自分に与えられた役柄(=ミッション)を高いレベルでやりぬくには、台本
に書かれた字面だけを読むのではなく、自分のなかでつながるまで考え
る。考えて脳内に自分なりの覚え書きを書きつける。それを踏まえつつ
台本を演じる。そうすれば演技に深みがでる。

それを神様は見ている。

と若い役者の宮崎あおいさんは言う。「神様がそういうのをすべて動かし
ている」という表現で語る。

舞台に上り、緊張して無我夢中で演じているのでは、セリフや演技をトチ
らないかばかりが気になってしまう。どきどきする胸を鎮めるためにどうす
ればいいだろうか。宮崎あおいさんの場合、神様がすべて動かしていると
考えることで、舞台の上の方から、すべての役者を鳥瞰する目を持ちたい
と言っているようだ。

自分も含めた役者の舞台での立ち位置が見えてきて、芝居全体を把握し
自分の役を理解する。そこでは役にぎくしゃくせずに演じることができる。

そうした役者と神様の関係を観客は見に来る。

演出家のつかこうへいさんは「台詞の6割は役者が書かせる」「芝居は
F1レース。0.01秒間違えると死ぬから、客は見に来る」と自らの舞台を
表現をする。

セリフが憑(つ)くように語られているか。役が憑くように演じられているか。
役者が神様と一体の関係を結んでいるかどうか。それが芝居であり、その
関係の良し悪し、浅い深いを判断するのは、客席に座るオーディエンスで
ある。

観客の目線で、観客が見たいと思う芝居をどれだけ深く考えたか。
どれほど観客が求める価値と向き合えたか。

そのためには台本をどこまで深く読んだか。舞台の上の方から、神様の
ような視点で自分の演技を見渡せたか。それを観客は喜び、お金を払う
ことに満足してくれたか。台本、舞台、観客の三つがきちんと機能したときに、
「今日の芝居はよかったなあ」と言ってくれる。

こう考えたとき、台本は単なるシナリオではなくミッションなのである。

           * ********** * ********** *

台本をミッションだと思えたとき、ぎこちない演技から遠ざかる第一歩を
揚々と踏み出せたと言っていいだろう。だがそれは第一歩に過ぎない。
舞台はきっと3幕、4幕もあるだろうから、長い道のりである。

ときに台本を自分には合わないホンである、と思うときもある。演じきれ
ない役だと思うときもある。自分の資質や力量を知ること、挑戦と無謀を
判断することも大切である。

台本が自分にとってミッションだと思えるかどうか。熱意と誠意をもって
演じる上でのひとつの判断基準である。

今日は以上です。

【参考】
祈り』 宮崎あおい著 ネコ・パブリッシング

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     20歳の女性にたくさん教えられました。

洋販 ステュウット ヴァーナム‐アットキンさんインタビュー
http://www.yohanstudy.com/feature/010/index.html
『R25』 役所広司インタビュー 2007年3月23日-29日
「つかこうへいWiki」 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%A4%E3%81%8B%E3%81%93%E3%81%86%E3%81%B8%E3%81%84

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