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2007年4月10日 (火)

カスタマー・バリューのフロンティア 2.表層心理の消費:ホット庫という愛情ニーズ

【カスタマー・バリューのフロンティア 2.表層心理の消費:ホット庫という愛情ニーズ】
消費者行動と調査をテーマにする今週の旬ネタ。昨日の解説編の後は、実践編その一。「表層心理の消費」における消費者心理と調査について考えてみたい。

ケーススタディとして取り上げるのは、目のつけどころがシャープの『ホット庫』である。温める機能付きの冷蔵庫として世間をあっと言わしめた商品である。さすがはシャープという商品コンセプトだった。冷蔵庫で温めるという商品化発想はいかにして出てきたのだろうか?

なお、今回は実際にシャープさんを取材してのものではない。あくまでケーススタディとしてホット庫の開発シナリオを想定し、コンセンサスマップづくりをしてみたい。

【表層心理の消費とは】
昨日(2007年4月9日)のブログに書いたように、「表層消費」とは心の表に表れる心理が、ありのままの行動として伝えられる消費である。その使用や購買において、とりわけ心理的なトラウマがなく、消費を他の人に知られてもかまわない消費行動である。

だがその対象商品やサービスは、厳密に言えば、人ごとに違う。同じ商品でも、ある人はおおっぴらに使い、ある人は何らかの劣等感があり、購買・使用していることを知られたくないこともある。つまりあらゆる商品は、その人ごとに消費意識が異なるのである。ゆえに自社の商品特性は日常使う商品だから、あるいはコンプレクスに働きかけて消費される商品だからと、あらかじめ使用範囲や使用心理にレッテルを張ってしまうと、顧客理解が筋違いになったり、まったく的外れにもなるのである。

【顧客セグメンテーション】
あらためて、顧客セグメンテーションについて考えてみよう。

顧客セグメンテーションは、たいていは自社商品購買量/額という、自社視点からの顧客セグメントが行われている。それにプラスして、年齢や性別、学歴、職業、家族構成、居住エリアなどでクロス分析を行う。だが自社の商品購買額から見るのは、ほんらいはとても狭い見方である。そうして顧客対応を差別化して、収益性を揚げたいのはわかかるが、必ずしもロイヤルティが上がり、離反を減少させられるわけではない。これも実務者には実感だろう。

性別ぐらいはセグメントの基礎として考えていいが、学歴や職業、住所、家族構成、自社製品の購買量や額など、セグメントを丹念に実行しても、消費者を理解することがむつかしい。冗談ではないが、最近は性同一障害も増えている。精神年齢と実年齢にもギャップが増加しており、年齢さえアテにならないのが実情である。

ではどうすべきか。顧客や消費者の「セグメンテーションは、消費者の思考プロセスが似ていることを基準に彼らをグループ化するべき」なのである(『心脳マーケティング』より)。その思考プロセスが似ているか似ていないかで顧客/消費者をグルーピングすべきなのである。自社商品という狭いスコープだけで消費者を区分することは適切ではない。

【シャープの愛情ホット庫】

 Hotlogo

この商品の特徴は次の通り。
「冷やすだけが当たり前だと思われていた冷蔵庫に、料理を保温できる多目的室を設けた」点である。従来は冷蔵から冷凍までの多段階の温度帯切替が一般的だったが、愛情ホット庫は、「料理が温かい」とされる55度の保温機能を備えている(2006年モデルでは「汁物も温かく感じる」という60度の保温も可能に)。
 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0724/kaden005.htm

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シャープの商品開発チームは、この「冷蔵庫で温める」という相反する商品化機能に、いかに到達したのであろうか?実際にどうやったかはさておき、わたしはシャープの開発陣が、「冷蔵庫をめぐるメンタル・モデル」をつくったのではないかと考える。

そのメンタル・モデルを、ザルトマン氏が開発したコンセンサスマップのアプローチで見ると実に発想が湧くのである。

【コンセンサスマップとは】
ザルトマンが開発した市場の心理を理解する思考のフレームワークがコンセンサス・マップである。

コンセンサスマップを活用することにより、マーケット・セグメントに属する顧客層が最も強く感じている共通のコンストラクト(消費者の思考をひとつのラベルで表現した言葉)を知ることができる。すなわち、コンセンサス・マップは市場の心の「生体構造」を表していると言える。(同著)

この説明はやや抽象的なのだが、消費者の思考プロセスをマッピングするものである。消費者の思考プロセスは通常1対1のデプス・インタビューで明らかにされ、その言葉をいくつかをワンワード(コンストラクト)にまとめて、そのワンワード同士を結びつける。そこから商品化機能や自社のサービス改善案を発想しようというものである。

コンセンサスマップづくりで重要なことは、「商品の機能から考えず、使い手のシチュエーションやシナリオから考え、消費者の思考や気持ちを出す」ことである。

【コンセンサス・マップづくり】
冷蔵庫の諸機能である「冷蔵」「冷凍」「保存」「棚」「容量」「温度管理」「電力消費」といった要素から考えるのではなく、冷蔵庫をめぐるライフスタイルから、言わば「気持ちワード」を抽出する。冷蔵庫は24時間稼働する家電なので、朝・昼・晩・深夜というシチュエーションが適切だろう(あるいは、世帯構成によってはもっと細分化してもいい)。

シチュエーションは夫が遅い(Cさんだよね♪=私的通信ですみません_笑)夜食というシチュエーションから。インタビューから「気持ちワード」をランダムにどんどん出そう。以下わたしの創作である。

質問者:料理を作りおきして夫を待つときの気持ちはどんなものでしょうか?」
対象者:う~ん、待ちわびて、ひとりで食べるのは寂しいけれど、腹八分目で食べてしまう、おなか空いちゃうから(笑)、おかずだけ少し一緒に食べてもいいし・・・手持ちぶさただし、冷たくなっちゃうのはどこか愛情不足かしら(笑)・・・のようにインタビューを重ねて「気持ちワード」を整理してゆく。

「夜中の料理」:めんどうくさい、手間をかけたくない、洗い物が面倒・・・
「まちわびる」:愛情が試される、待たされたくない、連絡ぐらい、記念日なのに・・・・
「冷たい料理」:美味しくない、愛情がない、勝手にして、ひとりきり・・・
「夜中の食事」:消化が悪い、太る、食欲がわかない、油ぽいのはいや・・・・
「手早い調理」:作り置きしたい、電子レンジは味気ない、インスタントはまずい・・・
「洗い物」:残して寝たくない、洗うのは面倒、片付け音がうるさい・・・・

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これでイメージが湧くだろうか?というのも、わたしはfunctionalな家庭を持っていないからだ(苦笑)。だから愛情(かなり)手前のホット庫のコンセンサスになっているかも(笑)。それはさておき、このように「気持ちワード」を振り出しに、気持ち圧縮の「コンストラクト・ワード」を配して商品開発をすると、かなり新鮮なアプローチで発想が出来る。

ザルトマン氏はこれを「コンセンサス・マップ」と名付けたが、リサーチャー出身のわたしが思うには、必ずしも目新しいコンセプトではない。作り手からの視点だけで作ることを戒めるものと考えれば、実に普遍的なアプローチである。それがよく忘れられるのも事実である。

このようなリサーチ結果になったとして、問題はここから商品開発者が何を引き出せるか?である。この図ではやや作為的に「愛情」をトップに置いたが、愛情は商品化できないので(少なくとも家電では)、そこからの展開思考こそ重要である。「流刑地」になっては遅いが、開発や企画にはセンスが必要というのは時代を越えて共通することである。

【愛情には時間制限がある】
おもしろいのは「愛情ホット庫では、一定時間が経過すると、自動的に冷蔵(3~5度)やチルド(0~2度)といったモードに切り替わり、食品が傷むのを防ぐようになっている」(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0724/kaden005.htm より)

午前様になって、堪忍袋の緒が切れるところまで、シャープの開発陣は計算したのであろうか?(笑) お後がよろしいようで、今日は以上です。

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