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2007年4月12日 (木)

カスタマー・バリューのフロンティア4.感動心理の消費:エッセンシャルでかわいくなる

【カスタマー・バリューのフロンティア 4.感動心理の消費:エッセンシャルでかわいくなる】
消費者心理学者ザルトマン氏の好著『心脳マーケティング』に触発されて書いてきた今週の旬ネタも4回目である。これまでとこれからは次の通り。

1.カスタマー・バリューのフロンティア(2007年4月9日)2007年4月9日
2.表層心理の消費:ホット庫という見えないニーズへの気づき(2007年4月10日)
3.深層心理の消費:サントリーのネット‘珍問答’飲料調査(2007年4月11日)
4.感動心理の消費:エッセンシャルでかわいくなる(2007年4月12日=本日)
5.経験心理の消費:AVISレンタカーの利用者体験からの改良
6.売り手の情熱:トヨタbB 若者による若者のための・・・

4軸の消費者心理プロファイルを再掲しよう。

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今日のテーマの「感動心理の消費=感動消費」とは、自分の心への刺激の度合いが高く、感動や驚きを求めて、心の摩擦係数を大きくしたい心理と規定した。感動消費は、心にできるだけ波瀾万丈な摩擦を求める。摩擦と言っても自分にとっては良い摩擦である。今までの自分が新しくなる、楽しい体験ができる、深い思い出を求める。ハレとケの消費から見れば、「ハレ」であり、OFFタイムの多くの消費行動はここにあると言える。

だから同じ感動心理でも、表層心理に訴求する感動と、深層心理に訴求する感動とでは、おのずと内容が異なる。消費者購買が意識的な(ロジカルな)プロセスで実行される場合、マーケティング・コミュニケーションは容易である。買い手にも売り手にも見えている範囲で、商品開発をし、改良を重ねればいい。

だがどんなにコモディティ化された商品でも、実は消費購買が無意識的なプロセスに影響されている商品は数多い。たとえば歯磨き、口臭防止剤、ヘアケア商品、化粧品、医薬品などパーソナルケア商品では、潜在的なニーズが隠れていることが多い。こうした商品のマーケティング・コミュニケーションは難易度が高い。だが、それを発掘できた企業が、予想外のヒットを飛ばすことがある。

【何気ない言葉の奥深さ】
あなたにはお気に入りの品があるだろう。その品を長持ちさせて、いつまでも使いたいとき、どんな表現をするだろうか?たとえばわたしは(高いものではないが)靴を大事に履きたい、長持ちさせたいと考えている。だから磨き方にも気をつける。1日履いたら「休ませる」。だから、靴墨を「手入れする用具」というより、「靴を休ませる」という表現をしたいと思う。

そうした表現をすると、靴墨は汚れ取りから「疲労回復」の素にもなり、ミンクオイルは「若返り」の素になる。シューズキーパーは「若返りグッズ」にもなる。そこから「皮の皺を取り」「形を整え」「長寿命化を図る」クリームなど商品開発の切り口にも広がりが出るはずである。余談だが、リフレクソロジーをしてもらって足は若返らせても、1日の労働で汗を吸い、疲れた靴を履いて帰るのでは、どこかすっきり感がない。施術の間だけでも、靴ケアと靴下ケアもしてくれればいいのに。

ザルトマン氏の『心脳マーケティング』に好例がある。引用させていだだこう。

柔軟剤について消費者が語った際に「衣服を育む」という表現をした時、その表現にどのような意味があるかを理解している企業は、より効果的な柔軟剤を開発するに留まらず、衣服の皺をとる、色を保護する、長持ちさせるなどの機能を持った関連製品を開発することができるかもしれない

消費者へのインタビュー調査をいくら重ねても、何気ない消費者のひと言から本質的な意味を感じ取れるかどうか、そこに商品力の差異が生まれると言ってもいいだろう。

【花王のエッセンシャルの生まれ変わり】
知られたことだが、花王という会社の商品訴求の基本は「科学」である。だからあらゆる製品で科学的な効果がうたわれる。だが、エッセンシャル・シャンプーを再開発したときは、「機能性だけでは厳しい」という尾崎社長のひと言で、機能以外の訴求ポイントを探ることが命題になった。

エッセンシャル・シャンプーと言えば、1984年に歌手の堀ちえみさんが「クレイジーラブ」というCMソングをエッセンシャル・シャンプーのCMで歌ったくらいの歴史的長寿命商品なのである。発売は1976年。

 B00005olr5_09_lzzzzzzz 堀ちえみベスト。わたしはファンではないです。

商品寿命的には当然ながら末期的症状であり、40代主婦が購入する家族ブランドでバーゲン商品だった。それを従来の顧客層を捨て去り、「もう一度20代前半の女性に認められるブランドに」という悲願にも似た無謀な(失礼)目標を、女性のプロジェクトマネジャーが立てた。池田順子さんという、現在はアジエンス ・ エッセンシャルのシニアマーケターである。過去を全否定する、素晴らしい目標設定である。

池田さんは200名以上の女性に会って、「髪に何を求めているか」聞き回り、そのうち20人には髪に関するブログを書いてもらうよう依頼した。そこから表れたのは意外な心理だった。

髪の傷みは気にしていない」 エッセンシャルのそれまでのキャッチは「ダメージ・ケア」だった。若い世代にはその基本機能は全否定された。では20代女性は髪について何を気にするのか?そこには深層心理があった。

帽子をかぶったら髪形がくずれるのが嫌」 髪の傷みよりも髪形なのである。それが崩れるのが嫌なのである。髪を伸ばせば、毛先がどうの、枝毛がどうのという声があるのは事実だが、20代の女性は若いし髪も若い。若いのだから(心の痛みはともかく)髪や身体の傷みは知れている。再生力はどの世代よりも強いのである。花王は「科学する」会社であるので、女性の情緒局面に立ち向かう商品開発には弱かったのかも知れない。

【情緒的便益と機能的便益】
情緒的便益と機能的便益について、ザルトマン氏はこう書いている。

消費者が商品やサービスを買うかどうか判断する際には、商品が提供し得る機能的便益(たとえば、投資商品のリスク性向など)と情緒的便益(たとえば、愛する家族のための保障など)の双方を考慮に入れる。(中略) マーケターは消費者とのコミュニケーションにおいて、常に製品の機能的便益と情緒的便益とを密接に関連づけながら(その関係が非常に微妙なものであったとしても)提示すべきである。

ここで大事なことは、機能と情緒は相互作用するということである。花王の製品例なら、やはり毛先のダメージは機能面のニーズでは重視される。それは毛先15cmの髪形が思い通りになると、かわいくなるという情緒面のニーズと相互作用があるのだ。

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【プロダクト・マネジャーの執念から】
ブログを書いてくれた20名の内から、さらに絞り込んで6名の女性に、ホテルに宿泊してもらい、新しいエッセンシャル製品を試用してもらい、使用後、寝るとき、起きた時など、6名の被験者の変化をつぶさに観察したという。そこでの気づきは、朝、髪形が自分の思いどおりにまとまっていると、生き生きとして幸せな顔つきになった。深層的なニーズは髪形だった。それも毛先が自分の思い通りになることが感動なのであった。

そこから「毛先15cmが変われば『かわいい』がつくれる」の広告キャッチが生まれ、エッセンシャルは30年目にして過去否定の新ヒットになった。すばらしいマーケティングである。
(以上、日経ビジネス 2007年1月8日号参考)

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 どれもが15cm「命」なのだろうか?う~ん、よくわからない。

【トータル・ライフスタイル分析】
この事例におけるリサーチ面の注目は「トータル・ライフスタイル分析」と呼べる密着リサーチである。

日産のSUVムラーノでも使われた手法と聞くが、被験者の24時間を追って、そのライフスタイル全体の視点から、自社の製品機能の位置づけを探るというアプローチである。自社の製品の単純な満足・不満足ではなく、自社製品を含めた商品機能が、被験者の生活へどのようなコンテクスト(文脈)をもたらせているかを観察するものである。

ねらいは顧客に提供する本質的な価値へ、マーケターが気づきを得るというものである。この調査の留意点は、当然大量の人々に密着はできないので、緻密な顧客層のセグメントと実際の対象者の絞り込みが必要なことである。そこを間違えるとすべてが間違いになる。花王エッセンシャルの場合も対象者の選定には細心の注意が払われた。最初は200名、それをインタビューで20名に絞り、さらにブログで6名に絞り、6名を密着取材という、確実さとコストの両立をした賢いやり方であった。学ぶべきである。

【髪に込められた心理】
女性によっては、安易に髪に触れられたくない(嫌な人には触れられたくない)意識があるという。「それはなぜなの?」と聞いたことがあるが、その答えは無粋な男には意外だった。「髪に触れられることで愛を感じる」から。だから(美容師といえども)やたらな男には触られたくないというのだ。

じゃあ美容院で、たとえば指名した人がお休みで、いつもと別の美容師に髪に触れられたらどうよ?と聞いたら、嫌なのでその間ずっと我慢するというのだ。我慢して(高い)お金を払うのもまことに変である。複雑なのは毛先だけではなく、文字通り「髪様のみぞ知る」なのだろうか?(笑)

今日は以上です。

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コメント

まゆさん、コメントありがとう。
やっぱりそうなんですね。わたしはそれほど多くの女性サンプリング先を持っていないので、ある人がそう言っていたことが深く印象に残ってました。
エッチ臭いというより、ダイレクトに言えば、「感じる」なんでしょうね。男にはない感覚です。
でもわたしは手握られても、腕組まれても、何でも感じちゃいますが(笑)。

投稿: 郷/Marketing-brain | 2007年4月13日 (金) 11時12分

髪に触れられると…というのはすごく分かります~。髪への愛撫(とかかくとエッチくさい?)っていうのはするのもされるのも「愛」ですよね

投稿: まゆ | 2007年4月13日 (金) 01時06分

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