父の日の贈り物
わたしの持論ですが、マーケティングの9割は女性に関することである。
女性の消費意識・消費態度、商品やサービス、消費行動、購買分析・・・女性のことを考えるのが楽しいという自分自身の性格は脇においても、女性にはたくさんのマーケティング機会がある。
かわゆい幼少の頃から思春期、いろんな意味での適齢期、そしてバンサンカンを超えても晩産婚もあれば、フラメンコダンサーにも、エグゼクティブ・ウーマンにもなり、40代の美しいプルミエール世代へ突入し、開き直って旅行や飲食に明け暮れるミディの年頃に至るまで、すべてマーケティングのターゲットになりうる。
それに比べて男性の消費には色彩感覚が乏しい。色が見えてこない。色がないから想像がたくましくならない。子ども世代も割と単色だし、20~30代のモード系の男性を除けば、趣味やオタクしかない。特に父やおじいちゃんという「男性以降の人」の消費行動は・・・なかなかマーケティングにならない。女性のようにぴたっと貼れる消費レッテルがないのだ。
【勝手にアドバイス Vol.190 父の日の贈り物】
その代表的なものが「父の日」である。今日(2007年6月17日)は父の日だった。
都内の百貨店を数店回っても、父の日ギフトの商品案内を小冊子にしていたのは一店しかなく、ある店で「すみません、こんな簡単なもので」と手渡されたのはA4判のチラシ一枚だった。エプロン、包丁、一人用コーヒーサイホン・・・もらったとしたら、その意味が気になるに違いない、お薦め品も散見された。
日本経済新聞 2007年6月17日朝刊『春秋』より
「その意味が気になる」のがおかしかった。贈り手の子どもたちは、「離婚しても頑張ってね」と思って贈ってはいないのに、父という消費個体がなんだかわからないから、包丁とかひとりサイホンとか、「ひとり愉しみギフト」になってしまう。
東急百貨店のネットショッピングではこんなフレーズで商品カテゴリーがつくられていた。
「ほっとするくつろぎ」 「こだわりのお酒」「休日をたのしんでね」「おいしさと団らん」「ファッション小物」「いつまでも元気でね」。
サイト自体は良く出来ているが、商品ラインナップは、モノに少しこだわる男性からみると、どれも惹かれない。甚平(よせよ)、ゴルフボール(やらんよ)、海苔佃煮(ん・・・・)、縦型の皮製ショルダー(嫌!)、セルロイドボールペン(重量感や感触がたいせつでギフトとなると・・・)、ヨーロッパビールセット(これはいいかも)、3Dセンサー付き歩数計(ああ・・・)わからないではないが、個性の時代にいかにもステレオタイプではある。
今日はもう父の日だから受注は終了しているので、サイトには小さな字でこう書いてあった。
『「父の日ギフト」 の インターネット承りは狩猟いたしました』
「狩猟」である(笑)。父の日の重みを、父というショッピングの個体を流通業がどう見ているか、わかるような気がする。(ごめんなさい、東急百貨店さん、他意はありません)
【父には仕事がよく似合った】
これやる気の感じられない販売施策を、父というショッピング個体への想像力の欠如と片付けるのは簡単である。だが、父というショッピング個体を慮るのがむつかしい以前に、父という個体が、ビールや缶コーヒーでしかマーケティングできないのが問題のような気がする。
個性づくりより、身体を張って仕事をしてきた父の姿というイメージが、未だに強すぎるのだろうか?消費に身をやつさず、定年までボロボロになって働く姿が、個性的な消費活動というイメージを遠ざけているのだろうか。
そういうわたしは、昭和ヒトけたの父というショッピング個体をどう見ていただろうか?晩年に贈ったもの・・・・ポロシャツ、スリッパ、下着、靴下・・・働きに出ない男に、買ってあげるものがなかなか想像できなかった。父には仕事がよく似合ったのかもしれない。いや、ほとんどの男には仕事がよく似合うのである。何か仕事を贈ることができればよかった。
【父からの贈り物こそ・・・】
向田邦子さんの傑作エッセイ『父の詫び状』の中でも、父は何かと娘を苦労させるばかりというくだりがある。その詫びに父が娘に贈り物をする一文があった。
巻紙に筆で、いつもより改まった文面で、しっかり勉強するようにと書いてあった。終りの方にこれだけは今でも覚えているのだが、「此の度は格別のお働き」という一行があり、そこだけ朱書で傍線が引かれてあった。
それが父の詫び状であった。
父からのギフトは想像しやすいが、子からのそれは想像がしにくい。親と子という順序なのだから、それが当たり前なのだ。妙にかしこまったパッケージギフトなんて父には似合わない。なぜなら父という役割が消費する個体ではないから。
父の日はモノのギフトを贈るよりも、父を困らせる手だての方がいいのかもしれない。お願いごと、相談、小さな仕事、おねだり・・・。ええい、しようがないな、作ってやるか・・・なんて言わせる方がいいのだ。そういうギフトというか仕事を贈るのである。
そうすると、むしろ父からお返しのギフトをもらえるような事態を引き出せる。いや父からの贈り物を引き出すことこそ、父の心をくすぐるマーケティングなのである。
むしろマカをたくさん贈ってもらった方がすっきりする(冗談です笑)。
今日は以上です。
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