キッチンのアフォーダンス/イノックスケトル
昨日(2007年9月23日)に続いて、日経デザインフォーラムからインスパイアされた話題を書きたい。今や大御所の風情さえ漂わせる工業デザイナー深澤直人氏が登壇したのは、2日目の午後のセッションであった。「考えない」「輪郭」「はまっている(Fixed inと表現していた)」「メモリー」など深澤ファンならおなじみの独自理論を展開される中で、ひとつ気になったのが、「すべてのモノは行き先が決まっている」ということ。
この図は氏が示したスライドを元に一部書き直したものだ。真ん中のごちゃごちゃしたモノ-家にある細々のしたものだけでなく、家電や家具、器具などすべてのもの-はすべて行き先が決まっている。ひとつは壁の中にすべておさまる。もうひとつは人に入る。iPodや携帯はまさにそれだ。もうひとつ、わたしの追加だが「外へ」もある。家を外に解放し、モノを外に出してしまう。デザイナーは過剰なモノを壁や人に向かってデザインしているのである。
この図を元に、今日は「壁」に入るモノの事例を取り上げたい。
【勝手にアドバイス Vol.244 キッチンのアフォーダンス/イノックスケトル】
本棚も食器棚もすでに壁と一体になり、テレビも遂に壁に密着した。オーディオも薄型がメインになり、DVDもブルーレイも、いずれは柱時計のようなタテ密着型になるだろう。リビングの壁化は、テーブルと椅子を除けば進んでいる。
だが壁との一体化があんがい進んでいないのがキッチンである。進化したシステムキッチンでさえまだ厨房には収まりきらないモノがまだある。調味料入れ、ごとく、まな板、米袋、ポット、炊飯器・・・。中でも仕舞い勝手が悪いモノの代表がヤカンである。同じくらいのサイズの鍋やボールは入れ子になるので仕舞いやすい。だがヤカンはナリが大きく入れ子にならず結構始末がわるい。だからコンロの上にずっと居続けている。
キッチンをフラットにする、始末の良いヤカンが「イノックスケトル」である。
【イノックスケトル】
お鍋やフライパンと違って、コンロの上にのせたまま、出したままにしておくことが多いから、実はキッチンの見た目に意外と影響していたアイテム。しまおうと思っても、ずんぐりむっくりな丸いボディと取っ手は収納の中に収めるのは難しかった。
引用元 http://woman.excite.co.jp/life/topics/rid_745
このヤカンならキッチンの見た目をよくすることは請け合いである。ずいぶんとすっきりしている。真横から見る台形型のシルエットは、ヤカンというより高機能な鍋という自信と風情が漂う。取っ手は二つの割れるように左右にたためるので、上部はすっきりと真っ平らになる。これが今までなかった。
【アフォーダンスなヤカン】
テーパーがかかり、上に向かって絞り込みがある形状と、取っ手がすっきりと平らな上面をつくることで、ヤカンといえども重ねることができるようになった。この商品デザインの最大のポイントである。
わたしもよくやったが、まな板をヤカンに載せますよね。フタの上にまな板を置くのは、揺ら揺らしてあぶないけれどよくやる。そこで平らにすればモノが載せれる。さらに収納庫に仕舞いやすいし、冷蔵庫にも入れられる。もうヤカンを置く場所がない!とは言えなくなった。このケトルのデザイナーは大出耕一郞さん。
ナベヤカンが守備範囲らしい。
このデザインの業績とは「ヤカンのアフォーダンス」を見出したところにある。
アフォーダンスとは「環境が人に提供する価値」という意味で、人間はあらゆるモノにアフォーダンスを見出す。深澤氏が言う玄関タイルの目地に傘を立てるのはアフォーダンスであり、セミナーでスライドで映していたのは、電車の座席に座った乗客が、傘を両膝ではさみ込む姿。まさに「身体メモリー」というアフォーダンスである。
【勝手にアドバイス】
ヤカンのアフォーダンスは「何かを上に載せる」である。それを素直にデザインしたことで、イノックスケトルは、仕舞い勝手が良いという新しい価値をヤカンにもたらした。
アフォーダンスから発想することで、リビングはすっきりする。商品デザインに付加価値をもたらし、従来壁の中には収まりきらなかったモノを収めることができる。あらゆるデザイナーも、妖怪ぬり壁も、何でも壁に塗り込んでゆく。お掃除上手な妖怪を手なずけるためにはアフォーダンス視点が必要なのである。今日は以上です。
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