« 永田琴監督の『WOMAN』に、スクリーンの中の銀座を見た。 | トップページ | infobarからinfobar 2で変わったこと。 »

2007年10月 1日 (月)

わたしの理想的なマーケティング

今日は隔週で刊行しているぷろこんエッセイからの転載です。
 ご購読はこちらからお願いします。 まぐまぐ めろんぱん


わたしの理想的なマーケティング

Eating is a multi-modal process (involving all the senses). Any comments
concerning food being just about taste are misguided. Try drinking a fine
wine from a polystyrene cup or eating a beautifully cooked piece of fish
off a paper plate with a plastic knife and fork, it is not the same. 

「食べることは全身の感覚をつかう、多様なプロセスである。味覚だけで食を
語れると思ったら大間違いだ。旨いワインでもポリスチレンカップで飲んだり、
美味なる魚料理でも紙皿とプラスティックのナイフとフォークで食べるのでは、
味は変わる」

レストラン「The Fat Duck」 シェフ ヘストン・ブルメンタール氏のHPより 

   The_fat_duck だまし絵のよう。

      ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

数ヶ月先の予約しかとれない英国の有名レストラン「The Fat Duck」のシェフ、
ブルメンタール氏は、料理は「Sensory Design(感覚デザイン)」だという。 

その一端は「iPodで海のせせらぎを聴きながら、海の幸を食べる」という奇抜な
アイデアに表れている。そのメニューをオーダーすると、海の幸を料理した
プレートと、もうひとつ、iPod shuffleを載せたプレートが運ばれてくる。テーブル
で耳にはイヤホンをいれ、両手にはナイフとフォークを持ち、海の音を聴きな
がら、海の幸を味わう。視覚、味覚、触覚、嗅覚だけでなく、聴覚を入れて
五感で食べるのである。

 42507fatduck_ipod
 http://japanese.engadget.com/2007/04/25/ipod-shuffle-appetizer/

もうひとつ、デザートメニューの例。プレートを運ぶ前にウエイターはアロマボトル
をテーブルに置く。バラの香りがテーブルに拡がる。嗅覚がバラになじんでから、
結晶化されたバラの花びら(食べられる素材でできている)のデザートが運ばれる。
これを一枚ずつつまんで食してゆくそうだ。

 Style_155565a

サーブの順序と逆だが、アミューズでのプレートも裏切りがあっておもしろい。
「こちらはオレンジとビーツのゼリーです」と出されるプレートには、オレンジ色の
四角いゼリーと、紫色の四角いゼリーがタテにならぶ。オレンジ色だからオレンジ
味でしょ、と思うが・・・口に入れるとオレンジ色の方がビーツで、紫色の方がオレ
ンジだという(出所 http://septlondon.exblog.jp/3077301/)。遊び心が満点。

 F0007834_17392543

ブルメンタール氏にとっての食とは、ユーモアというセンスも入れた全身の感覚
味わう、多感な料理なのである。

      ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

ブルメンタール氏の事例を聞いたのは、先日聴講した日経デザインフォーラム
セミナー、ロンドン芸術大学のDesign Laboratoryを率いるプロダクトデザイナー、
ブレント・リチャーズ氏の講演だった。

レストランでありながら、口に入れるものだけでない驚きをつくる。それをリチャーズ
氏は「感覚デザイン」と表現していた。感覚をデザインする?いったいプロダクト
デザインとは、何をする仕事なのだろうか?

リチャーズ氏は他社事例や、自ら手がけた事例を並べた。bug digital radioと
という虫のようなカタチのラジオは、まったくラジオには見えない商品だ。Earth-
wareという瓦か陶器のベンチは、ベンチの概念とはまったく異なる形状だった。
Cool Experienceというケーキ屋さんのショーケースではグラスファイバーも
使った、ケーキ屋というよりブティックのような店舗づくりだった。商品と売り方に
物語をもたせた、というようなことを言われた。あとはヘストン・ブルメンタール氏
の感覚デザインの話だった。

デザイナーなのだから、商品デザインをする。それは当たり前だ。だが商品の
うわべだけを変えるのがデザインではないはず。それじゃスケッチ屋さんだ。
中身の機能や構造にもタッチしなくてはならないし、そうなると製造ラインからの
変更にも口だししなくては。いやいや、素材の見直しもあるかもしれない。

待てよ、そもそもリチャーズ氏の講演のテーマは平たい地球と丸い地球」だった。
地球が丸いということが冒険家に実証される前、地球は平たく、端っこがあった。
丸いなんていうことを信じる人は多くなかった。命知らずの冒険家がいたからこそ
真実がわかった。

リチャーズ氏は「クリエイティブ・シンキング」という言葉を挙げ、冒険家こそが
常識の枠を否定できる
、開拓者としてリスクを取って行動できる冒険こそが
デザイナーの仕事
であると言った。

      ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

かつてわたしは、同僚からこう言われたことがあった。

「(郷さんは)クリエイティブをするのか?仕組みづくりをするのか?」

その同僚の問いには答えづらかった。どちらも必要なことだが、どちらかに
限ることは違うのではないか。そんな気がしたからだ。

クリエイティブとは「発想」寄りで、商品開発や売り方の開発をするというイメージ。
マーケティング・プランナーはこちらである。一方、仕組みづくりとは「マネジメン
ト」寄りで、売り方や顧客との接点の仕組みの改善というイメージである。いわゆ
る業務改善型コンサルタントはこちらである。

「どちらもすべて請け負うことだ」。そう言いたいけれど、デザインからマーケ
ティング、そしてマネジメントまで一貫してできる天才は多くない。デザイナーの
山中俊治さんも同じ講演で、そんな人は「Appleのスティーブ・ジョブスぐらい」
と話していた。

多くの会社で「デザイン」「生産」「マーケティング」「販売」「マネジメント」は、別々
の歯車が回るかのようにバラバラである。だから一貫したプロセスを根付かせる
のはとても大切なことである
。これはわたしの仕事観に近い。

だが、一貫性だけでは、自分は何者で、マーケティングは何をサービスするのか、
クリエイティブをするのか?仕組みづくりをするのか?あるいは他のことをする
のか?という問いには真正面から答えていないような気がする。

      ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

理想的なマーケティングの話をしよう。それはシェフのブルメンタール氏がやる
ように「テーブル上の認識を変えること」なのである。

食は舌だけで味わうものではなく、トータルな体験である。iPodプレートは奇を
てらったように見えるが、お客さまの認識を変えるひとつの表現。バラの花びらも
そうだ。常識の枠を外し、経験を否定し、リスクを取ってテーブル上の認識に揺さ
ぶりをかける。ちょうど中世の海洋冒険家のように。

もうひとつは説得である。感覚デザインといいながら、感覚だけではだめである。
ブルメンタール氏は「脳が食をどう演算するのか?」という科学的なアプローチも
している。科学的に人を説得することも冒険家の仕事である。でないと冒険に援助
が得られないから。

わたしの思うありたい仕事のアプローチは次のようなものである。

 人とモノやサービスの関係を考える
 人の意識の中心を見抜く
 人の認識を変える

「テーブルの上」は「市場」や「チャネル」「商品機能」「顧客体験」「顧客行動」など
になる。「人」はお客様であるが、時に従業員でもあり経営者でもある。

「認識を変えること」を顧客視点で実施する-シンプルだが、それが理想的な
マーケティングだと思う。

今日は以上です。

  Facade_small_v1  Cherryさんのあこがれ。

|

« 永田琴監督の『WOMAN』に、スクリーンの中の銀座を見た。 | トップページ | infobarからinfobar 2で変わったこと。 »

コメント

Cherryさん、コメントありがとう。
よし!では良いコンサルをして、良いリターンをもらって、バージン・アトランティックでイングランドに行こう!

投稿: 郷/Marketing-brain | 2007年10月 3日 (水) 14時31分

やはり一度行ってみたい!
こういう冒険はここのところの料理界のブームのようで、
スペインのエルブジがこの冒険ブームの火付け役だとか。
日本にもこういうお店がいくつかあって、
マンダリンオリエンタルのラウンジでも似たような試みが。
そこには以前行ってきました。
おいしいっているよりも、面白い!お店です。

投稿: Cherry | 2007年10月 2日 (火) 20時43分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/158074/8196235

この記事へのトラックバック一覧です: わたしの理想的なマーケティング:

» ◆これは凄い!実績が証明しています!!◆ [主婦・学生・社会人の皆さんへ!]
「今までの苦労は一体なんだったの?」日本で一番指示されている脚やせマニュアル!★超注目!『 エステに行く必要のなくなる脚やせ法 』★もし、あなたの目的が、「下半身デブを治したい」「もっと脚(太もも)を細くしたい」「美脚になりたい」 という...... [続きを読む]

受信: 2007年10月27日 (土) 16時11分

« 永田琴監督の『WOMAN』に、スクリーンの中の銀座を見た。 | トップページ | infobarからinfobar 2で変わったこと。 »