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2007年11月17日 (土)

SAKURAの春 巾着袋のニッポン 第二話 バナー

昨日11月16日からお届けしています『SAKURAの春』の続編の2回目です。

SAKURAの春 巾着袋のニッポン 第二話 バナー ****************

 ジャパン・ウィークとは日本を紹介するイベントだ。ブリスベン・リバーという市内を
東西に二分する川の沿いのエリアで開かれるようだ。日本舞踊あり、日本人ミュージ
シャンの演奏や演劇もある。太鼓打ちや折り紙や生け花、書道の公開レッスンもある。
ほとんどは地元在住の日本人が出し物を担う、市民参加型の日本紹介イベントだ。

      Jw2007_02_2
      ケアンズのジャパンウィークの光景 http://www.cqla.com/vol6.html

 レストランKOTOでは「Onigiri」イベントでご飯を炊き出しおにぎりを握り、低料金で
振舞う。恵子も手伝いに狩り出されるが、せっかくの機会なので彼女と学生友達で、
何か日本や日本食にちなんだ出し物もやってみたい。

 「出し物ですか」
 「2、3年に一度しかないそうですから、この機会に、何か日本のことを伝えること
ができたらいいなと思いまして。学校のみんなとそう話し合っているんです」
 「恵子さんは学校にも通っていたんですよね。確か大学の夜間コースに通って
いらしたとか」
 「ええ。でも学校はちょうどお休みなので時間はあるんです」 お客さんが入って
きたのをちらりと見た。「でも時間はあっても予算はゼロだし・・・。KOTOのブースで
やれることですから、限られてますよね」 オーストラリア人のお客を応対するため
恵子は離れた。ほどなく天麩羅蕎麦Teisyoku(定食)がテーブルに運ばれた。
Japanese Noodle Fairの中の一品だ。

 わたしは天麩羅をつつきながら考えた。日本を離れれば離れるほど、日本に
こだわることになる。幕の内ビュッフェもそうだ。恵子さんの思いもまたそうだ。
不思議なものだ。

 支払をすませ駐車場に出た。日本にちなんだこと・・・とつぶやきながら歩きだすと、
『Japanese Noodle Fair』のバナーに顔が触れた。手でそれをはらうと、バナーの
蕎麦のイラストが月明かりの下、キラリと光った。

       #######################

 その翌日わたしが起き上がると、太陽はとっくに起き上がっていた。

 指の痛みはずいぶんと小さくなった。だが包丁を持つにはミイラの指ではムリだ。
ゆっくりしようじゃないか、コバヤシ。わたしはつぶやいて、することがない時に行く
ところに行った。それは植物園である。

 24時間オープンの植物園は、もっともブリスベンらしさがある。らしさ、とは何か。
何をするのでもなくただ散歩をする人やランニング姿で走る人、厚手のセーターを
着込んでベンチに座り続ける老人、ビーチタオルにビキニスタイルで寝そべる女性は
一時間に3行しか読まない本を持っている。それがらしさである。指ミイラさえもここ
では目立たない。

 地元の古書店で買った“Airport 75”というタイトルのペーパーバックを小脇にはさみ、
地表から匍匐(ほふく)して生えている奇妙な木々の小路を歩いた。しばらく行くと、
数時間の居場所になりそうなベンチを見つけた。腰を降ろし本を開いた。登場するのは
コロンビア航空という旅客機。いつまで経っても空港から飛び立てないのだ。なぜなら
読者が、同じページの同じパラグラフを行きつもどりつして、うつらうつらしているからだ。
飛び立たなければストーリーが始まらないのに・・・。

        Bench

 ふと目を上げると、向かい側のベンチに子どもを連れた母親がいた。子どもは、歩き
出しては転んだ。立ち上がり歩き出したが、またよろめいた。人間とはこうして転ぶより
歩くのがほんらいの使命であることに気づく。だがわたしは転んでばかりだ。その挙句、
南の果ての国までやってきたのに、まだ飛び立てないでいる。飛び立つどころか、
うとうとしているのだ。

 母親はベビーカーに下げられたトートバッグから、飲料のボトルと布の入れ物を取り
出した。布の袋からタッパーウェアのランチボックスが現れた。食事は手製のサンド
ウィッチ。これからランチのようだ。布の袋は口を紐できゅっとしばることができる、日本
の「巾着袋」のかたちである。柄は白地に赤い水玉模様・・・まるで指を切ったときの
タオルのようだ。思い出したくない柄だ。それに白地に赤では、まるでニッポンだぜ。
日本から離れれば離れるほど、何を見ても日本に見える・・・わたしは笑いかけた。

 そこで、ひらめいた。日本を作ればいいんだ。袋だ。あの素材だ。

 わたしはすっくとベンチを立ち上がり、滑走路から飛び立つような勢いで小走りで
駐車場に向かった。シフトレバーにおいた左手のミイラの指に力をこめて、4速にギアを
アップした。ミイラもフィアットも不平は言わなかった。ブリスベン中心部の王様の
名前のストリートを北上し、王女の名前のストリートで西に向かった。行く先はまっすぐ
KOTOである。

 ランチの終わる時間にKOTOの駐車場に着いた。「Japanese Noodle Fair」ののぼり、
つまりバナーに手を触れた。素材はポリエステルなのか、薄くて腰の強い。この素材
なら大丈夫だろう。街灯は10本以上あり、それぞれにバナーが下がっている。量も
たっぷりある。しかもNoodle Fairの日付は、ちょうど今日までと書いてある。もう明日
からはバナーは廃棄物だ。

 店舗の入口で、客席ホールにいるという恵子を呼んでもらった。
 「コバヤシさん、どうしたんですか?」 
 「ジャパン・ウィークでの出し物の話ですが、ひとつ思いついたので来ました」
 恵子はくすっと笑った。「まっすぐなんですね、コバヤシさんて」 
 「ちょっと、駐車場に出てください」 わたしは恵子を外に連れ出して、のぼりのひとつ
をつまんだ。「これを使って、袋を縫うのはどうでしょうか?」

 わたしは自分のアイデアを話した。素材はポリエステル、腰がある素材なので縫製
すれば巾着袋を作れそうなこと。巾着袋にはKOTOが提供するおにぎりを入れる用途
にする。この素材のいいところは、「Japanese Noodle」という文字や「日本の蕎麦」や
「ウドン」の図柄があるので、日本をアピールすることができる。それにデザインとして
も日本の模様は外人にはウケる。巾着袋という日本の伝統のかたちも伝えられる。
 
 恵子さんは即座に賛成した。
 「とってもいいアイデア!このバナー、あとは廃棄するだけですから、きっとタダで
ゆずってくれそうですし、廃棄物リサイクルの点でもいいですよね。
 「環境にもやさしい日本をアピールできますね」
 「日本のお土産で漢字のTシャツもありますから、日本の図柄は興味を惹くし・・・・。
すばらしいアイデアです、コバヤシさん」

 恵子が退ける時間を待って、わたしたちはお客のいない店舗のテーブルで作戦を
練った。まずのぼりの数でいくつの巾着袋が作れるか。作るうえで型紙を用意し、
それを何人で手分けすれば縫えるか。ミシンを持つ家庭で協力してもらえないだろ
うか?きっとヒマしている日本人の奥さんはいるだろう。無料で配布すると、あっと
言う間に無くなるだろうから、あえて有料にして、その収入を何か有益なことに使う
のはどうだろうか。物事を企てるのは実に楽しい時間である。
 
 「堀田店長が帰国されたら、わたし、さっそくバナーのことを掛け合ってみます」
恵子は言った。

今日はここまでです。明日18日までよろしくお願いします。

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