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2008年1月 7日 (月)

『宮若生活』 広報の“耳”

 今日は隔週で書くぷろこんエッセイからの転載です。ご購読いただけるか方は
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 かおりさんは取材中、こんな言葉をかけてくれた。
 「人口三万人の宮若市なら、飲酒運転をゼロにできるかもしれない。
 子どもたちが安心して生活できるまちにしてください。そして、
 全国から目標となるまちになってください」。

 『宮若生活 2007年12月号』 福岡県宮若市の広報誌より

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 まっすぐな広報誌なのである。

 宮若―聞き慣れない名前は市町村合併のネーミングゆえだが、元は炭坑の町
にして今はトヨタの町、福岡県下人口3万人ちょっとの宮若市の広報に感動した。
まっすぐな思い、ひろい視野、そして問題提起がほとばしっている。28ページだて
の冊子を、ひとりの担当者が取材・調査・撮影・編集までの制作して、それがしか
も兼務らしいのにもびっくりした。雑誌の『天然生活』にタイトルもデザインも似て
いるが、それは追求しまい。

11

 07年11月号の表紙は“靴”。クレジットにこうある。「この靴は、飲酒事故に巻き
込まれ命を落とした人が愛用していたもので、遺族のご厚意により撮影させてい
ただきました」

 2~3ページでは「飲酒運転加害者が語る 贖いの日々」と題された、業務上過失
致死とひき逃げで懲役服役中の加害者の手記。なまなましい。少しのつもりがい
つのまにか3時間、一瞬の居眠りで歩行者をひき逃走・・・。4~5ページは「アルコ
ール依存の先にあるもの」。自動車を走る凶器にかえる飲酒運転の血中濃度と
酒量と酔いの状態を医師のインタビューで解説。

 6~7ページでは、宮若警察署長に話を聞く。9月からの道交法改正では運転者
に「呑ました人」も「まあいっしょに帰ろうや」も罰則がある。気をつけなきゃ。8~9
ページでは、トヨタの町らしく自動車部品製造企業の社長に話しを聞く。「誇りある
仕事を凶器にしないでほしい」。アルコール検出でエンジンがかからない装置も
あるが、人はロボットじゃないんだから、意志をもって飲酒運転をやめてほしいと
訴える。

 10~11ページは、8年前に飲酒運転で二女を失った福岡県前原市の大庭さんの
インタビュー。夜中に三時間以上をかけたそうだ。“静かに、そしてかみ締めるよう
に放つ一言を聞き漏らすまいとうなずく自分がそこにいました” この広報誌の制
作担当の林さん、「取材を終えて」でそう書いている。
          

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 反響が大きかった11月号を受けた12月号では、あの博多湾の追突転落事故で
幼い三人の子どもを失った大上夫妻のインタビューを2ページにわたり掲載した。
「・・・全国から目標となるまちになってください」は、このときの大上かおりさんの
ことばである。加害者は飲酒運転だった。

 『宮若生活』のこの広報特集のきっかけは“身内の犯罪”。07年9月に宮若市の
教職員(小学教頭)が飲酒運転で当て逃げをし、市役所に抗議の電話やメールが
殺到した。『庁内には腫れ物に触りたくない雰囲気もあったが「広報だからといい
ことばかり取り上げてはダメ」と上司を説得した
』。それがこの2号で15ページの
特集になった。福岡の大上さんの三人のこどもの命を奪ったのは、ごぞんじの
とおり、福岡市職員である。

 わたしの住む市の広報とは比べられない。市名は出さんが悪口は書きたい。
ウチのは“お知らせ誌”。「議案が出され、質問がありました」「人口流入が何人
で、流出が何人」「みなさんの1票をたいせつに」・・・こんなの、誰が読むんだろう?
読ませるために作っていますか?気合いゼロで予算はいくらですか?行事の紹
介欄にも言いたい。役所がらみ行事ばかり掲載するのはおかしい。それでは市の
メディアではなく“市役所メディア”だよ。

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市の広報誌は何を広報するのだろうか。『宮若生活』のエッセンスは「まっすぐ
な思い」「
ひろい視野」「問題提起」の三つだろう。

 “まっすぐ”とは身内がらみもグリグリすること。組織に文句を言うのは勇気を
まっすぐ出さないとできない。“ひろさ”とは加害者・被害者・警察所長・医師・自
動車部品会社の社長までひろげて、飲酒運転のテーマを語る視点だ。

 余談ですが町は日々変化する。久しぶりに駅まで違う道を通ったら「Curves
のフランチャイズがあった。米国発の女性オンリー、1回30分のエクササイズ・
チェーンだ。我が町にもあった。興味津々なのだが女じゃないので、ざんねん。

 広報担当者は市役所を出て街を歩こう。小さな変化がたくさんある。市の“室内
運動施設”(マシン・エクササイズ)がなぜ閑古鳥なのか、その理由もわかるし、
市の施設のアマさの問題提起をしてもいいではないか。「健康づくりからだづくり
始めませんか」なんて特集じゃ、ぜんぜん体脂肪減になりませんよ。

 市民と市をむすぶ点にあるのは“問題提起”だ。 

 06年12月号の『宮若生活』の特集は「もしもトヨタがなかったら」。自動車の町、
宮若の現在と将来、地域と産業の関係をかんがえて、広報誌の総務大臣賞を
受賞した。

 地方のどの市でも町でも、このままではどんどん衰退するという現実がある。
税源の移転なんて小手先ではいずれボロがでるのはミエミエである。だから
「ウチの市や町はどうするか」、問題を提起して市民の声を聴く。聴いたことを
また伝える。体験やアイデアを交換する。だからこそ07年10月号の『宮若生活』
の表紙は、「耳がでっかくなっちゃった」。パーティグッズのジャンボ耳をつけた
人の耳がでっかい。「広報」は「広聴」でもなくちゃ。

10  友人から借りて撮影という説明文は笑えた。

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 企業の広報も『宮若生活』に見習いたい。

 メーカーやゼネコンの技報によくあるのは、「広報誌=PRの場」である。営業
ツールとして持ち運びたいのもわかるが、商品パンフレットでなぜだめなのか。
大企業にありがちな、文化路線や環境路線の広報誌。それも広報の役割の
ひとつだが、問題提起がアタリサワリなさすぎる。

 投資家も読むなら、良くても悪くても投資リターンの実績や自社の業界の変化
をまじめに語るのもいい。“偽”や“汚”ばやりだから、自業界での汚れた部分を
切りとって、「ウチはやらない」宣言や「あれば開示する」姿勢を示すと顧客の
信頼をかえって強めるはずだ。社長の趣味以外に語ることはある。

 そう考えると、実は広報には組織内部に向けたメッセージ機能がある。タテマ
エばかりの広報誌なら、ウチはタテマエの組織なんだなと。ホンネがあれば、
「ウチもまずい」とホンネで言えるんだなと。

 コンプライアンス、内部統制、内部通報・・・強権発動はいろいろ出そろったが、
“企業広報”というメディアがホンネを語るのは、組織を怨念でブツブツさせない
策だと思う。

 今日は以上です。

 亡くなった同僚の伊達さんは、わたしのこのエッセイを、均等割り付けという小技で両端をそろえて
読むという、手間と価値が釣り合わないことをしていたと聞いたことがあります。それが彼の命の一部
を縮めたとはいえないけどひょっとしたらそんな積みかさねがいけなかったかもしれないと、今日の一
文はなるべくそろえました。今回のエッセイを彼にささげてしばし黙祷
・・・・(揃えてまして_笑)・・・・・。

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