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2008年1月 3日 (木)

SAKURAの春 和食ナイト 3.ニッポンの容器

 2008年1月1日から書き出した『SAKURAの春』の物語の3回目です。

 釣りでへとへとになった休み明けのランチは盛況だった。満席の状態
が続いた。1.5回転以上の客数だろうか。おかげでぎりぎりの数でまわす
幕の内弁当容器もフル回転だ。洗って拭いてはブュッフェ用に配って、
すぐお客さま自身に盛りつけをしてもらう。

 主菜、副菜、お新香、俵握り・・・と写真メニューで盛り付け場所を示す
幕の内ブュッフェ。最近はリピーターが増えてきたせいか、写真メニュー
をみないで思い思いによそる人も多くなった。ランチが好調だというのは
日本食の食べかたも根付いてきた証拠だ。

 「ボクが経営者なら昼間だけのお店にするね」 後藤は鍋の水をザブン
とシンクに流しながら言った。「盛り付けのおかずは減ってきたら作れば
いいから原価割れないし。第一、ディナーやっても昼と同じ売上だから」 
 「そうだな」 わたしはまな板を洗いながら言った。「麗朱とワンダには
“おひとつイカガデショウカ?”なんてことばを覚えてもらってゲイシャ・
ガールになってもらおうか」
 「いいけど照明は思いっきり暗くしたほうがいいと思うよ」後藤が笑う。
 
 「コバヤシさん、ちょっと」 洗い場に入って幕の内容器を洗っていた
ウェイトレスのワンダが言った。彼女は日本語を学ぶ学生でもある。変な
ことを日本語では言えない。
 「ワンダ、今のは冗談だぜ」
 「そのことではありません、マックノウチ・バクスが壊れたんです!」
 「ええ!」 後藤と二人でワンダの持つ幕の内弁当に駆け寄った。見ると
器の底にヒビが数カ所入っている。使い込みすぎたのだった。
 「ちょっとヤバイね。これだと汁モノは漏れるよ」 後藤が検分をした。
 「他のボックスはどうだ?」
 「ランチが終わったら、バクスをチェックします」 ワンダが言った。

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 ひとつひとつ裏返してチェックした。どうやらヒビの破損はひとつだけの
ようだ。ほっとした。壊れたのは日本料理店KOTOの店長堀田からの
好意で借りている容器だった。今や幕の内弁当箱はランチの生命線で
あり、われわれ全員の雇用の生命線でもある。ブュッフェスタイルを初め
てそろそろ1ヶ月、ずっと使い続ければ傷みもする。

 「借り物に傷をつけてしまった。堀田さんにあやまらないと」
 「それより、ひとつ壊れてもギリギリの数で運用しているんだから、大
打撃だよ。スペアを持っておかないとダメだね」後藤が言う。 
 そのとおりだ。ランチは順調だから容器を日本に注文してもらうことも
できるはずだ。だがMr.Tに相談すれば、ニヤリと口だけで笑い、眼で威嚇
されるだけだろう。“夜の売上はどうなんだ?” やぶ蛇だ。

 わたしたちはまたひとつ問題をかかえた。
 
          *************************** 
 
 幕の内容器をひとつひとつていねいに拭いて片付けをしていると、「こん
にちは!」という明るい声が店の入口から聞こえた。KOTOでウェイトレスと
して働く恵子だ。店での着物姿の彼女と違ってジーンズ姿もまたまぶしい。

 
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 「ここに来てくれるのは初めてですね」 わたしは手を拭いてむかえた。 
 
「学校が今日はないのでちょっと来てみようかなと思いまして」 彼女の
手にJapanese Noodle Fairの“のぼり”で作った巾着袋があった。
 
 お弁当箱が壊れたことを恵子に話した。
 「それとなく堀田さんに言っておきますよ」と彼女は笑った。「でもランチは
お客さんが増えてよかったですね」
 「なんていっても売上は夜より上ですから」後藤は余計なことを言う。
 「あら、それはたいへん。飲食店って忙しくないのが一番つらいですよね」
 そうなのだ。ヒマはつらい。みんなで店内を磨いているなんて言えない。
わたしは話をランチにもどした。
 「ランチの良さは、“なんとなく日本の良さ”にひたれるところでしょう。
幕の内弁当容器のうんちく、盛りつけの楽しさ、日本食ってこんなものなん
だというのが、なんとなくわかる」
 「そうよね。昔の人は“うつわは料理のきもの”と言ったそうですし」
 「うつわは料理のきものか。良い言葉だね」後藤があいづちを打った。
 わたしもうなずいた。だがきものと言えば、恵子さんの着物姿こそ素敵だ。
口に出すことではなかったが。
 
           *************************** 

 「巾着袋、その後はどうなの?」 後藤は恵子の巾着袋に触れた。「これ
ってホント、のぼりには見えないよね」
 KOTOの店で使っていた“のぼり”でリサイクルした巾着袋は、彼女と学校
の友人が手分けをして縫った。日本を紹介するイベント、ジャパンウィーク
で好評だったせいもあり、その後別のイベントでもリサイクル素材を活かし
たバッグづくりをするという。
 「このあいだ街で、これを持っている人を見かけたんです」 恵子は目を
輝かせて言った。
 「へぇー、いいよね、そういうのって。自分の作ったモノが知らない人に使
われるなんて」と後藤。
 「そうなんです、やったぁ!とガッツポーズしちゃいました」恵子はほほえん
だ。「コバヤシさんが“のぼりでバッグを作ろう!”ってひらめてくれたから、
できたことです」
 「幕の内弁当箱も巾着袋も、どっちも日本の入れ物の魅力だから」 こそ
ばゆいのでもっともらしいことを言った。

           *************************** 

 「入れ物といえば」 恵子は巾着袋を開いた。「ジャパンウィークでブース
に来てくれた人の中に、こんな人がいたんです」 巾着袋の中から一枚の
名刺を取り出した。
 わたしは名刺の肩書きを読み上げた。「ウッドクラフト・デザイナー、これ
民芸品か何か?」 
 「いえそうじゃなくて、日常で使う木製の食器を作るアトリエを持っている
らしいんです」
 「ボウルとか、皿とか?」 後藤が訊いた。
 恵子はうなずいた。「ボクはユーカリの木に生命を吹き込んでいるんだ、
普通なら捨てられてしまう木をつかって食器づくりをしている、だからひとつ
として同じものはない、それがすばらしいんだって」
 「ふうん。廃材か・・・。どおりでひとつずつ手作りの巾着袋に興味を持つ
わけだ。でも木の食器って、まるで“和”だね。」と後藤が言った。
 わたしもばくぜんと同じことを考えていた。“弁当箱を木で作るのもおも
しろいかもしれない”と。

 3回目、以上です。お読みいただきありがとうございます。

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