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2008年1月 5日 (土)

SAKURAの春 和食ナイト 5.Taste of オフクロ

 2008年1月1日から書き出した『SAKURAの春』の物語の5回目です。

 

 日本料理教室、トライしてみる価値はある。料理教室の名前を
“Washoku Night”というネーミングでチラシを作った。教室での料理
メニューについては“激論”があった。わたしは天ぷらや寿司など
誰でも知っている日本食がいいと言った。麗朱はあんがい変化球で
酢の物や和え物という渋い提案をした。後藤のBeef Bowl(牛丼)案
は興味深いがすぐに却下された。日本通のワンダが議論をひきとった。
 
 「オッフクロの味にしましょう。」
 「お袋、ね」 後藤がイントネーションを正した。
 「Taste of オフクロ。肉じゃがと茶碗蒸しはどうですか?」
 肉じゃがと茶碗蒸しは両方ともディナー・メニューにある。日本の家
庭料理として代表的だ。じゃがいもと肉という素朴さ、卵の蒸し椀と
いう日本的なテイスト。おもしろそうだと全員が一致した。

 通常営業に支障をきたさないように、お店のお休みの平日の夕方を
選んだ。手書きのチラシをコピーして、ランチタイムに配った。

   +++++++++++++++++++++++++
    A Night of Authentic Japanese Cooking Class
    Wouldn't you like to learn Japanese Home Cooking
    with experienced Japanese chef? 
   You can EAT &TAKE-AWAY your cooking at the class.
 
   本格的日本料理教室の一夜。
   経験豊かな日本人シェフと日本の家庭料理をつくりませんか?
   作った料理はその場で食べるかお持ち帰りもできます。
   +++++++++++++++++++++++++

 メニューは肉じゃがと茶碗蒸し。仕事帰りの人をねらって時間は
夕方5時半からとした。4人限定でひとり30ドル。材料や道具は店で
用意し、エプロンだけ持ってきてもらうことにした。
 
 反応はすぐにあった。チラシを配った翌日に一人、その翌日に
二人、3日目に二人から電話があり、一人に断りを入れたほどだ。
手応えありだ。日本料理を作りたい人はいるのだ。わたしは誰にも
見えないところでガッツポーズをした。

          ***************************

 「テーブルを付けよう。テーブルクロスを二枚重ねてかけて」後藤
が言った。休日だがワンダ、麗朱も集まった。シェフ役はわたしが
つとめる。英語がわからないときはワンダが助ける。そのワンダと
麗朱は調理の支援、後藤は厨房で蒸し器の係だ。

 手洗いのボウル、野菜をひたすボウルを準備し、皮むき器、ナイフ、
フキン、まな板など備品を総動員した。やがてお客さま、いや生徒が
やってきた。女性4人、30代から40代だろう。さて料理教室だ。

 「それではRestaurant SAKURAのWashoku Night料理教室を始
めます。今夜、日本の母の味をつくっていだきます。メニューは
Niku-Jaga/肉じゃが、それからChawan-Mushi/茶碗蒸しです。
どちらも日本の家庭料理で、日本では家庭でも調理していもの
です」 ワンダが“開会”宣言をした。
 「料理のあとはみなさんで試食しましょう」
 参加者の女性のひとりが質問した。
 「テイカウェイ/Take awayもできるんですよね?」 
 「ハイ、いいですよ。お持ち帰りできる味になればいいですね」
 笑いがおきた。

          ***************************

 まず肉じゃがだ。“じゃがいもの皮をPeel(剥いて)ください・・・皮
むき器でもナイフでもどちらでもOK・・・Pieces(乱切り)にして・・・・
Soak in water(水にさらして)。にんじんもカットします。糸こんにゃく
(itokonyaku/noodle style konyaku)・・・切りにくいですか?・・・・
タマネギをくし形に(in half two times)・・・ビーフは3cmくらい。これ
で準備は完了です”

 鍋でそれぞれ炒めてもらう。火が強かったり弱かったり、まだおっ
かなびっくりの人もいる。“今日は店でSoup(だし汁)を用意しました”
後藤が用意しただし汁を加えてもらう。“だし汁から灰汁を取ってくだ
さい(skim scum)・・・いかがですか?”

 Niku_jaga
 出典 http://www.bob-an.com/

 醤油、砂糖、みりん、酒で味付けをし合う。こんな味かしら?と聞か
れて味をみると、まあ計量どおりだから悪くはない。Good!と親指を
突きだすと、“親指Good”がみんなに伝わった。和気あいあいの料理
教室になった。

 茶碗蒸しはそれぞれ2人前ずつ作る。日本の茶碗も蒸すという調理
方法も興味しんしん。卵とだし汁を混ぜるのも漉すのも初めての体験。
鶏やエビの生の材料をそのまま入れるのもおもしろいという声が上
がった。器に入れた茶碗蒸しの容器を、厨房までそれぞれが運び、
そろったところで後藤の用意する蒸し器に並べる。

 「Steam 10 to 12 minutes」 後藤が告げた。
 「できたかどうかどうやってわかるんですか?」生徒が訊いた。
 後藤は竹串を一本出して「by this(これで)」と言うと、生徒の顔に
疑問符が広がった。疑問こそ教室の醍醐味である。

 Chawan_mushi
 出典 http://www.bob-an.com/

          ***************************

 肉じゃがに仕上げのグリーンピースを入れ、蒸し上がった茶碗蒸し
を前に試食会だ。
 「いかがですか?」ワンダがみなさんに訊くと、ひとりは親指を突き
だして笑った。「日本料理はいかがですか?」
 「ヘルシー!」
 「お醤油の味が好きです」
 「日本の家庭料理にずっと興味があって、今日は楽しかった」
 おおむね好評だ。ほっと胸をなでおろした。
 「Taste of Ohukuro、母の味ということばを覚えましょう!」ワンダが
改善されたイントネーションで言った。
 
 今日の料理のレシピを配った。それを読んでひとりの生徒が言った。
 「家にはすべての調味料はないし、蒸し器もないんです。なかなか
日本料理を作るのはむつかしいですね」 
 「そうね。日本料理が食べたくなったらここで料理して、お持ち帰りが
できればいいわね」 別の女性も同調した。「昼間は働いているので、
料理を学びながら夜のご飯もできちゃうといいわ」

 みんながうなずいた。お持ち帰りにニーズがあるのはわかった。だが
容器には問題があった。茶碗蒸しは今回は容器ごとお持ち帰りして
もらって、いずれ返却してもらうことにしたが、肉じゃがはスチロールの
容器にいれた。それはチャイニーズ・テイカウェイの紙の容器のように
味気なかった。

 Takeaway
          ***************************

 料理教室を終えたあと、4人でお茶を淹れて反省会をした。

 メニューについて。肉じゃが、茶碗蒸しは良いが、もっと主食のてん
ぷらやちらし寿司もいいかもしれない。味噌スープもほしかったな。
素材にオーストラリアの食材をつかって日本料理ができればなおいい
という意見もあった。

 生徒。ランチ時のPRだから、今回のは全員がワーキング・ウーマン
だった。PRの仕方を変えれば家庭の主婦も集められそうだ。
 
 「とすると、お持ち帰りできる料理教室、Japanese Take awayと
Cooking Classということになるね」わたしは話をまとめようとした。
 「う~ん・・・商売になるのかなぁ」後藤がつぶやく。
 「でもそうしたらたくさんの人に来てもらわなきゃ」麗朱も言う。
 確かに単価が落ちるのは問題だ。だがこのままでは店をたたむしか
ないのだ。「レストランにこだわるより、日本を伝えることにこだわろう」
とわたしは言った。

 後藤がひらめいた。「じゃあ、その日の料理教室でつくるメニューを
店でも作って売るのはどうだろう?指導しながらわれわれもメニュー
を作る。同じものを作るなら、教えながらでもできるんじゃないかな。
それをお持ち帰りとして、生徒にも店頭でも売る」 
 「そうね。それを店内で食べてもらってもいいのね」 麗朱も言った。
 「Cooking Class & Delicatessen(デリ)みたいなものね」ワンダも
うなずいた。

 アイデアをまとめよう。“夜はテーブル席と料理教室が半分半分”
“テイカウェイできる料理教室を毎日開く” “気軽に1時間ぐらいで調理
して持ち帰れるメニュー” “同じメニューを店のお持ち帰りとして別に
作って販売する” “ひんぱんに来れるように会員制とする”

 「Double-income(共働き)の家にも、主婦にもよさそうね」ワンダが
言った。その通りだろう。だがこの案を、Mr.Tにどうやってぶつければ
いいのだろうか?

          *****************************

 今回の話はここまで。筆者は毎日楽しんで書いたコバヤシの物語。
いかがでしたか?思い起こせばワーキングホリディ制度は1980年から
オーストラリアを皮切りに始まりました。わたしはその第一期生でした。
その記憶をたどりつつ、味付けしつつ・・・お読みいただきありがとうござ
いました。本年もよろしく。

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