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2008年10月 8日 (水)

【SAKURAの春 4】 コバヤシ、お前を殴る2/2

 オーストラリアの第三の都市ブリスベン。そのダウンタウンにある日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。その失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。“リライト掲載”の4回目です。

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 わたしは紙ナプキンを広げて“KOTO”と書いた。

081008_061502  <K O T O> ロゴはお許しください。

それが“古都”なのか“琴”なのかさえ知らない。車で10分ほど離れた地に2ヶ月前に開業した日本食レストランの名前だ。日本の大資本の傘下の日本料理店。ねらいはSAKURA2号店と同じ、このエリアの有望性ゆえだろう。

 わたしはこう考えた。KOTOの開店数日は、お客はとられるだろうが、しょせんは新参店。ブリスベンで5年も店舗を続け、日本食といえばSAKURAという知名度抜群の看板がモノをいうはずだと。だがKOTOのオープン後すでに1ヶ月が経ち2ヶ月が経ち、事態は悪くなるばかりだった。KOTOは繁盛し、SAKURA2号店には“サクラ”さえ来ない。
 
 そちらにお客が流れているのはまちがいない。赤道の下の国にまで来て、日本の大企業に追われるとは。ついていない。だがわれわれのせいじゃないのだ。

 「ランチにしよう」わたしは後藤に声をかけた。まかないのランチ、余りがたくさんある。おとついのもある。昨日のもある。食べ放題だ。

 「コバヤシさん」後藤がステンレスボールのレタスをラップを掛けながら言った。「昨日、Mr.Tが来ましたよね」
 「ああ」
 「なんて言っていました?」
 わたしは肩をすぼめて言った「売上を上げろって」
 後藤は口元をわずかに持ち上げた。「それだけじゃないでしょう」
 「まあな」
 「あの得意ゼリフですよね」後藤は息を吸い込んで止めて空手のポーズをつくり「ゥオス!」と拳を伸ばして低い声で言った。「コバヤシ、お前を殴る」
 わたしは不条理に笑うしかなかった。「まったくその通り。あと1ヶ月の命、いやもっと短いかもしれない」
 「コバヤシさん」後藤は真顔で言った。
 「何?」
 「借りは返せないと思うけど、一緒にペコンペコンになりますから」後藤もわたしも小さく笑った。

 わたしたちは手をこまねいていたわけではない。ランチのメニュー改善もしたつもりだし、PRのため日系の会社にランチやディナーメニューのお知らせファックスも毎日入れている。日本食材の取扱商社まで行って、目新しい食材の購入交渉もしている。地道な努力だがいずれ実を結ぶはずなのだが・・・。

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 「破れかぶれですけど、敵から学びませんか?」後藤が言った。
 「敵って、KOTOのこと?」
 「そう。ボクはまだKOTOに行ったことがない。KOTOは高級店という話だけは聞くけど、なぜSAKURAは流行らないでKOTOが流行るのか、よくわからない。せめてそれが知りたい」

 わたしはKOTOを“寸止め”でチェックしたことがあった。駐車場近くまで車を近づけて、外から店舗を観察した。高級車の並ぶKOTOの駐車場ゲートを、自分の乗る絶滅車がそぐわないと思うことにした。実は中に入る勇気がなかっただけだ。SAKURAの数倍の規模の日本様式の店舗を眺めただけで“勝負にならない”と感じたのだ。考えることさえ避けていた。

 「どのツラ下げてゆけばいいんだんだろう」自分の声に落ち着かない響きを感じた。
 後藤はレタスを入れたボールを、磨かれたステンレス・ボディの冷蔵庫に入れて、ドンと扉を閉めた。
 「別に僕らが隣の日本料理店のコックだってバレたったかわまないでしょう。しょせんは雇われ。オーナーではないのだし」
 「そりゃそうだな」しょせん雇われだ。空手屋のオーナーにとっては一枚の瓦にすぎない。押忍!と叩けば、かんたんにカチ割れる。
 「それに相手がどう出るかはよくわからないけど、ここは日本じゃない」後藤は意味ありげに言った。
 「日本じゃないって・・・?」
 「祖国は遠く北の彼方。競合といえど同じ日本人、助け合いがあってもいいし」
 「それはそうかもしれないな」わたしは理由もなく同意した。
 「別に向こうの店長さんに会わなくても、なぜKOTOが流行るのか、なぜウチがダメなのか。少しでもヒントがあればいいでしょう」
 わたしはうなずいた。「そうだな。どうせ殴られるなら当たって砕けるか。まだ1時半だからランチに間に合う。行こう」

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 平屋建ての、黒い稜線が伸びやかに広がる屋根の建物が見えた。KOTOの駐車場の無人のゲートをくぐりぬけるとき、わたしの車は、ペダルをふかしてもいないのにブルンと震えた。“いやがるなよ”と、荒げる馬の首をなでるようにハンドルをやさしくたたき、もっとも奥のスペースに止めた。陽が傾きだしてもまだ7〜8台の車がある。高年式の高級車ばかりだ。ランチをゆっくりと食べることができる人びとがお客さまなのだ。

3  引用元 

 日本料理店KOTOの入口のドアを開けると、出迎えてくれたのは、小柄な日本人のウェイトレス。黒地に赤の大輪の花柄の着物姿、にこやかに微笑みかけてくれる。

「Good Afternoon! いらっしゃいませ。日本人のお客様ですね?」

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 今日は以上です。

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