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2008年10月 1日 (水)

【SAKURAの春 1】 プロローグ1/2

  今日はわたしの社会人生にとって新しい第一歩の日。その日のブログにふさわしいテーマを書きます。以前、数度に渡って書き綴ったオーストラリアの日本料理店SAKURA2号店、その経営改革物語です。その“リライト(rewrite)”シリーズの第一弾です。

 クイーンズランド州ブリスベンのダウンタウン、日本料理店SAKURAに漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。その失意と熱意と成長を描く物語。文化の壁、経営の壁、そして自己実現の壁。どう乗り越えるのか。人生針路と経営改革のヒントを“マーケティング・エンターテイメント”でつつみます。

 今日と明日はそのプロローグ。始まりは青いグレートバリアリーフの下端、南都ブリスベンではなく“灰色の海の町、新潟”から。

Sakuranight 借用元 

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SAKURAの春【1】プロローグ(その1)

  床一面に何十枚ものレコードジャケット。ビニールを脱がされて裸になったジャケット。中身がはみだして黒い半円が顔を出すジャケット。仰向けにひっくり返って息をしているかわからないジャケット。踏まずに部屋に立ち入るには、飛び石を渡るように隙間の床を跳躍するしかない。訪問者は迷いつつ玄関で靴を脱いだ。部屋の主は、台所でカップをこすり洗いながら言った。

 「踏んづけていいですから」

 踏んづけるって?レコードを?そうはいかない。訪問者は足元の数枚を重ねながらつぶやいた。踏んづけても、あんがいキズつかないのかもしれない。むしろ社会というターンテーブルに乗らせられて、イヤおうなく回され、針を落とされる方がよほどキズつくのだ。飛び石のレコードの中に、気になる一枚があった。
 
 「好きヤツ、かけますよ」部屋の主が声をかけた。不潔そうなコーヒーを淹れている。

 訪問者は重ねたレコードの中から一枚のレコードを取り、いちばん上にした。果たして中身があるのか。中身があっても、入っているのがタイトルと同じ中身なのか怪しみつつ、レコードを引っぱりだした。タイトルと円盤が一致した。

 レコードプレーヤーは、薄暗い部屋に明かりをさしこむ出窓に、ちょこんと座っている。ターンテーブルの背後の窓格子の左手には新潟の町が見える。右手には川の河口から続く日本海だ。海の色は、暗色の絵の具チューブを出しすぎて明るさがもどらなくなったパレットのようだ。“あの南の海”とはさま替わりだ。

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引用元 
 
 コーヒーカップを手渡された訪問者は、見渡すかぎり3カ所くらいある、平らなスペースのひとつに腰かけた。茶色いヒビ割れしたカップが手になじむ。部屋の主はカップを片手に、プレーヤーとアンプのスイッチを入れた。
 
 「やっぱり3曲目ですか」部屋の主、コバヤシが訊いた。
 「それしかないでしょ」訪問者の後藤が答えた。

 カートリッジを3曲目まで目分量でずらして、静かに落とす。プチ、プチとレコードの素材音をひろう。イントロ。缶カラを叩くような打楽器音が響く。フルートがかぶさり、ボーカルがひょうひょうと歌いだす。1981年発売のレコードアルバムの代表曲。後藤がその曲を選んだのは、ふたりには忘れることのできない体験がこめられているからだ。アルバムや曲名はあとでリワインドする。

 “赤道の下の国”での物語を始めよう。それは青春物語でもあり、ビジネス物語でもあり、和の文化普及物語でもある。どんなふうに読んでもらってもかまわない。人生をカテゴライズすることに多くの意味はないのだ。

 ふたりには“ほんとうの出会い”があった。

          
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 「後藤、お前を殴る」

 日本料理店のオーナーのMr.Tはこう言い捨てて、後藤に店の裏に出ろと言った。後藤は背中に冷や汗の筋を何本も感じた。もはや走って逃げ出すこともできない。逃げれば残りの給料も未払いだと妙な計算もした。殴られるとはどのくらいの痛さだろうか?奥歯を噛み締めて、歩き出した。店の裏に通じるドアの、冷たいドアノブを押して、赤錆びたスチール階段を降りた。地べたに座った。薄汚れた生ゴミバケツの隣だ。このバケツのように土だらけに転がるのだろう。

 「立て」後ろから着いてきたMr.Tは冷徹に言った。

 殴りやすいように立たせるのだ。いや得意の回し蹴りをお見舞いしたいからだろうか。後藤はよろよろと時間をかけて立とうとした。そのときー

 「待ってください!」コバヤシが裏口のドアにいた。「オレも、一緒に殴ってください!」コバヤシは階段を駆け降りて、地面に正座した。

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 わたしにとって『SAKURAの春』はたいせつな物語。さらに盟友Tomoyoさんからの“毎日のように(バックナンバー)に目を通しています”というひと言が突き刺さり、コバヤシと後藤の物語を“鑑賞に耐えるものにしよう”と思いたちました。

 井上雄彦さんの『リアル』のようなインターバルで、拙文(おっと節分の)春までかかるかもしれませんが、おつきあいください。今日は以上です。

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コメント

キャーーー☆☆
やったー。

読んでます、なんて書いてみるものですね。笑
うれしいですーーー。

プロローグ、ワクワクしました。
次回も楽しみに待っています。

投稿: tomoyo | 2008年10月 2日 (木) 13時58分

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