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2008年10月 2日 (木)

【SAKURAの春 2】 プロローグ2/2

 今日は昨日に引き続き、青春の経営改革物語『SAKURAの春』のプロローグです。

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 土と小石の混じる、生温かい地面にスネを押しつけて、コバヤシはもう一度言った。

 「オレも、殴ってください」
 コバヤシは握りこぶしを両膝の上に置いていた。
 「止めてください、コバヤシさん。悪いのは僕だけですから」後藤は言った。

 Mr.Tはふたりを睨みつけながら言った。「二人共殴ろう」

 Mr.Tは足を肩の幅に開いて、両手の拳を握った。ふたりは起つともなく座るともない半腰のままじっとしていた。何十秒かが過ぎた。何万時間のようにも感じられた。彼は二人を睨みつけながら、やがて拳をとき、無言で踵を返して階段を上り、店の中に消えた。

 後藤は横のコバヤシを見ることができなかった。その肩は震えていた。恐怖から解放された安堵からか、涙からかわからなかった。ありがたかった。

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 2人はワーキング・ホリデー(働きながら海外で休日を楽しめる長期ビザ)を利用して、日本の別々の地から南の国に旅たち、オートストラリア第三の都市、人口100万人のブリスベンにたどり着いた。コバヤシが先行して新潟から2年ほど前、後藤は東京から1年弱前だ。

 コバヤシはブリスベンの目抜き通り、クィーン通りのジャパニーズ・レストラン『SAKURA』で“皿洗い兼シェフ”の職についた。漁師の息子だった素質を生かして、早々に調理技術を習得した。午前10時にランチの仕込みに入り、ランチが終われば客席ホールで大の字になって眠る。夕方からディナーの用意にかかる。すき焼きにしゃぶしゃぶ、鉄板焼きにうどんに蕎麦と、典型的な外国の日本料理店。日本人駐在者とそのゲスト、お金持ちのオージー(オーストラリア人の愛称)がお客さまだ。漁師の息子とはいえ素人同然の料理でもつとまる気楽さ。夜11時ごろ店を出て、現地で買った絶滅車でアパートに帰る。それを日々繰り替えし丸2年が過ぎた。もちろんビザはとっくに失効している。

 “若者が現地の文化に触れ、未来の国際化にひと役かうワーキング・ホリデー” 外務省はそうPRし、コバヤシは親にもそう説明して日本を出た。ほかの誰でもない自分探しに、というと聞こえはいいが、息苦しい日本からいなくなりたかっただけだ。亜熱帯の国はおおらかで、やがて自分探しも忘れさせてくれた。あくせくしないで暮らせる亜熱帯の海外生活に埋没した。南半球の英国系の異国、白人とアボリジニの国にいるくせに、日本で始まり日本で終わる日々だった。それでもよかった。そのままの日々が永遠に続きさえすればー。

 遅れて後藤がSAKURA本店にやってきた。皿洗いの空きがひとり出たところにふらりと現れて、そのまま採用された。運がいい男だ。SAKURAのオーナーMr.Tと6ヶ月の就業の約束をした。そして10時から11時の生活に埋没した。だがやがて埋没生活に飽きて、1年の就業の約束を6ヶ月に短縮したいと考えた。それを店のオーナーに告げた。

 するとオーナーでコンタクト空手(寸留めではなく実際に当て合う)の元道場主のMr.Tは、YESでもないNOでもない“野蛮な拳の答え”を口にした。道場を閉めた今も胸板が厚く、体躯のよい日本人のオーナーは、料理よりも空手師範がふさわしい太さの腕を自慢していたし、ときどき実際に自慢することがあった。猜疑心にみちた眼で相手をにらみつけ、俊敏に飛び、まるでロブスターの甲羅を剥がすかのように一撃を見舞う。殴られた相手は活き造りの“タタキ”のように粉砕され、横たわり、ピクピクした。それで放り出された日本人アルバイトはひとりやふたりではなかった。

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 引用元 

 ふたりがそうならなかったのは幸運だった。後藤は立ち上がろうとしたとき、自分の膝が立たないことに気づいた。生ゴミのバケツに手をついてようやく立ち上がった。後のことはよく覚えていない。結局後藤は辞めずに、成り行きであと半年働くことにした。

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 プロローグは以上です。SAKURA2号店の置かれたキビしい経営状況とライバル店調査、最初の覚醒までの話、週末明けまで数回にわたり書きます。よろしくお願いします。

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 SAKURAの春のエピソードを読んでいただいた読者から、お便りを頂いて、お返事ができず気になっていたことがあります。

前略
 米国在住の友人から和風の巾着袋を紹介した本があったら購入して
 欲しいと依頼がありました。プレゼントとして差し上げた巾着袋を
 非常に気に入ってくれて、自分でも作りたいと言うのです。書籍、
 雑誌、資料 なんでも結構ですのでご紹介いただけませんか?

 ありがとうございました。もう少しお時間をいただくと、巾着袋やお手玉づくりのクリエイターを直接ご紹介できるようになるのですが、今現在はまだ体勢整わず。ごめんなさい。

C0097182_11551392 サイトはこちら。

 代わりにとても良い雑誌をご紹介。相棒Cherryさんが購入していた『nid』9月号には、布や糸をつかった、おばあちゃんの手作りの逸品たちがたくさんありました。心あたたまる記事。おばあちゃんの技や知恵がすばらしい。ぜひこの本、買って贈られたらいかがでしょうか?また、nidの編集部に連絡をされれば制作者の連絡先などわかるでしょう。

 ビジネスメディア誠の記事のこぼれ話は明日に。今日は以上です。

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