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2008年10月27日 (月)

SAKURAの春【8】胸をひらく 1/4

 ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。その失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。“リライト掲載”の8回目です。前回の“失意”で終わったシーンから。

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 わたしと後藤は無言で車に乗っていた。熱風しか送らないエアコンを止めて、窓を全開にした。心地よい店内の冷気に打たれ、堀田のことばに冷水を浴びせられたあと、今は35度に温められた風に頬を打たれている。Fiat 125はゴホゴホと老人の咳のような排気音をやかましく響かせる。人なら還暦をとうに越えて喜寿くらいの年式だ。許してやろう。その音のせいで、ふたりは口を開かなくても済むのだからありがたい。わたしは堀田店長のことばを心で繰り返していた。

 「規模の小さいSAKURAを作ってもダメ」

 ハンドルを握る汗ばんだ右手を、斜めに開けた三角窓から入る風にさらした。SAKURA2号店は、SAKURA本店でもなければ、KOTOに対抗できる店でもない。かといって現地のエセ日本料理のゴム麺のラーメン屋やビーフボール屋でもない。そのまま日本に移設してもきっと街道沿いに埋没する“何でもレストラン”にすぎない。

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 フィアットはフードコートのあるショッピングセンターの前で信号待ちで停止した。ここにもアジアンフードはたくさんある。チャイニーズ、タイ、インド、寿司ロール。アメリカン情緒たっぷりのサンドウィッチもベーグルもある。みんな安くてお手軽だ。この先にあるSAKURA2号店にわざわざ来る理由はなんだろうか?

 日本人に懐かしくなく、オージーに異国情緒もない。それがSAKURA2号店。つい空ぶかしをしてFiatのアイドリング音が動悸のように高まった。いや実はわたし自身の心拍音かも知れない。そういえばKOTOを立ち去るとき、堀田はこう声をかけてきた。

 「君たちはどうしてKOTOに来たのですか?」

 後藤が半ばヤケのように答えた。「敵情視察で」わたしはきっと凍てついたような笑いをうかべていた。だが堀田店長は真剣なまなざしを崩さずに言った。

 「単なるアルバイトなら逃げるだけだ。だが君たちはここにやってきた。それはたいせつなことでしょう」

 なぜ後藤とわたしはKOTOに行ったのだろうか?そもそもは後藤が“破れかぶれ”と言い出したからだが、敵情視察ではなかった。自分たちの悩みをどうにかしたかった。誰かに話してみたかった。隠すよりも伝えたかった。隣の後藤を見た。きっと彼も同じ気持ちだったのではないだろうか。ある意味でわたしは、KOTOで始めて後藤と向き合ったのかもしれない。

         
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 SAKURA2号店にもどり調理服に着替えた。ディナーの準備にかからなくてはならないが、もやもやは晴れなかった。堀田店長のことばが頭をめぐっていた。
 
 お客さまの心を感じ取る・・・・
 お客さまの近いところで商売を考える・・・・
 日本食を敬遠されるお客さまも大切に・・・・

 照明を落としたSAKURAの窓ガラスからは平行四辺形にゆがんだ、落ちかけの日照が差しこんでいる。外はまだ明るい。だが店にはすでに“残照”の雰囲気が漂う。

 KOTOのBGMの琴の音色、気さくな従業員の声かけ(Goo' Day!)、日本庭園の佇まい、ひざまづく和服のウェイトレス、滅多に味わえない熱さ加減と濃さ加減の日本茶を思い出した。SAKURA2号店の規模、雰囲気、什器そして従業員とくらべて、どれひとつとっても勝てそうなことがなかった。

 Mr.Tにせよ、わたしや後藤にせよ、しょせんは風来坊。KOTOのような大企業組織で運営しているわけじゃない。最初から勝ち目なぞない。わたしはレジ脇のカゴに積まれた“fortune cookie(運勢の書かれた紙片の入った菓子)”をひとつつまんだ。元々は日本人がアメリカで普及させた菓子で、精算時に差し上げるものだ。開けると占いにこう書いてあった。

 “if you can hear the thunder, you better take cover …”
 (雷の音がきこえるなら、避難したほうがいい)

Fortune_cookie  fortune cookie

 勝ち目がなければ逃げればいいさ。ここ(南半球)まで来たんだから。さらにどこに逃げればいいのかはわからないがー。

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 10日ぶりくらいで掲載した“SAKURA2号店の物語”、ご読了ありがとうございます。

 さてクリエイター支援事業“utte”の、Small&Cozyなオフィスにお客さまゾクゾク。

 昨日は木の加工の本質を考え抜く木工アーチスト。ていねいな仕上げの木工家具、そのウラの想いをじっくりと。今日はおふたりの訪問。おひとりは清楚and笑顔がとても可愛い書家のクリエイターさん。凛としてほっとする書。もうひとりは、お話しているといつの間にかその明るい笑顔が、まっすぐ広がってくる“笑顔のアーチスト”。皆さんのインタビュー、できるだけしっかりまとめます。ほんとうにありがとうございました。

 そのうちのお一人の方から、あるギフトをいただきました。正確には預かりました。その方のインタビューのメモをまとめていたら、だんだんと熱くなって、嬉しくなってきて、たまらなくなってきました。明日、その絵のご紹介をしましょう。今日は嬉しすぎるので内緒です。

 明日は元同僚たちがいらしてくれるとか。ちとテンぱっておりまして、大したおかまいができません。ごめんなさい。でも楽しくお待ちしています。今日は以上です。

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