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2008年11月11日 (火)

SAKURAの春【12】お客さんはドコォ? 1/5

 ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐり、失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その12回目です。11回目まではこちらです

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 ようやく土曜日になった。今週はやけに長かった。思えばMr.Tの電話がはじまりだ。“明日そっちに行くぞ”。彼はこう言った。普段はブリスベンのダウンタウンで、日本料理店SAKURA本店の店長兼オーナーをするMr.T。店長というよりも、元空手道場を張っていた、ヒゲをたてた闘士と言ったほうがいい。電話の翌日、SAKURA2号店にやって来てこう言った。

 「来月も売上が上がらないなら、コバヤシ、お前を殴る」

 その目は、相手の物理的な立ち位置だけでなく、心の立ち位置まで見抜く。距離を縮めてまず気合いの発声のようにことばで刺す。その次は容赦なく拳で倒す。これがMr.Tのこれまでの人生の方程式だった。

2  DVD『黒帯』 引用元(部分) 

 わたしはそれから起きたことを、フラッシュバックで思い返した。だが今日が終われば明日はお休みだ。“お客さまに近いところで考える”ランチョン・ミーティングの作戦を練りたい。前を向こう。料理をどう出そうか。それで何を感じるか。何を良くすればいいのだろうか。専念しよう。

 そこに、電話が鳴った。

 電話に出たワンダがこっちを向いた。「コバヤシさん、シュッ、シュッ!」と拳を打つマネをした。Mr.Tからだった。自分の顔がゆがんだのがわかった。まるでアクシデンタルにドリアンを食べてしまったような顔だろう。電話にでた。

 「おい、コバヤシ!」という一声が聞こえた。いよいよかと思えば、別の命令だった。それもまたボディブローではあった。

 「コバヤシ、明日出るぞ。準備しておけ。後藤にも伝えておけ」

 Mr.Tは普段から「ハイ!」という答えしか用意されない会話をするが、これもそのひとつだ。「出るぞ」とは“海”で、ブリスベンのハーバーに彼が泊める釣り用のプレジャーボートから海洋に出ることだ。「準備」とは“お前らふたりも来い”という命令だった。

 “プレジャーボート”は抜け目なく会社保有だ。そのボートで釣りに出るのがMr.Tの楽しみだった。グレートバリアリーフにプライベートのプレジャーボート。成功のあかしのように聞こえるが、それはワーキングホリデーのアルバイトいじめの象徴でもあった。

         
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 日曜日の朝、Mr.Tの命令に従って、スニーカー、タオル、日焼け止め、そして作業用の手袋を後部座席に放り込んで、途中で後藤をひろい、老いたFiatでハーバーに向った。潮風に近づけば近づくほどFiatは、しゃっくりをするかのように、ときどきエンジンを震わせる。コイツもイヤがっているのだ。

 「せっかくの休みなのに・・・よりによって“プレッシャー・ボート”とはねぇ・・・」後藤はまだブツクサ言っている。
 「殴られるよりマシだろう?」
 「いや殴られた方がマシですよ。これやると、ほんと日本に帰りたくなる」
 「いずれそうなるさ」
 美しい海ともおさらば。Mr.Tともおさらば。南の日本世界ともおさらば。旅はいつか終わるのだから・・・。

 後藤は話し続けた。「Mr.Tの店のために働きに来たわけじゃないし」
 「じゃ、何のために来たんだ?」
 「探しに来たんですよ」
 「何を?」
 「安住の地を」
 「嘘だろ、ホントは女の子でも探しにきたんだろう?」
 「それもあるけど、たしかに」後藤は笑った。「ここはこわれてないから」
 「こわれていない?」
 「こわれていない場所で、こわされずに働き、こわれずに生きる」後藤はよどみなく言った。
 「気の利いたセリフだな。誰かの言葉か?」半ばからかって言った。
 後藤は続けた。
 「きっとみんな、だからオーストラリアに来るんじゃないですか。日本がイヤだとか、働くのがつまらないということだけじゃなくて、自分がこわれていくのがイヤなんだと思う。まだ地球上で、こわれていない地に行きたい。大人から見ればそれは“逃避”と片付けられる。社会に適応できないドロップアウトって言われる」
 わたしはことばを待った。
 「でもボクらにしてみれば、逃げているわけじゃなくて、つかまりたくない。つかまるとこわされる。そんな恐怖心から、日本を出るんじゃないだろうか」

 “たまには気の利いたことを言うな”とわたしは思った。こわれてゆくのはなんだろうか。自分の生活リズムだろうか。人間関係だろうか。ほんとうにやりたくて、やろうとさえしていない夢だろうか。いずれもYesだ。でも、もっと根っこにあるのは、“ほんとうの自分”なのかもしれない。笑顔を無くして、不平や不満に満ちて働く社会人たちの姿には、これがオレだな、という自分の姿も影も見えない。

200806_25_68_d0120268_23482369  引用元 

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新事業utte、第一次オープンの準備、やりとげました。応援ほんとうにありがとうございます。でも本日、08年11月11日の21時の段階で、ウェブサイトへのご訪問者の情報管理を強固にするため、まだシステム上の鋭意努力のさなかです。ごめんなさい。今夜中に一次オープンはかなうものと思いますが、ちゃんとご報告するのは明日になりそうです。

 そんなこともあり、またちょっと疲れ気味で、今日のブログはコバヤシと後藤に出てもらいました。物語中、自分でも大好きなくだりです。utteの最初の登録クリエイターさん8人の自分探しと重ねて、じんときました。明日はutteのことを書きます。今日は以上です。

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コメント

エバーグリーンさま、コメントありがとう。
錨のウィンチ付きならわたしも欲しい。

投稿: 郷/marketing-アンカー | 2008年11月11日 (火) 22時02分

プレジャーボート欲しいです。

投稿: エバーグリーン オーパスワン Opus-1 | 2008年11月11日 (火) 21時03分

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