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2008年11月21日 (金)

SAKURAの春【13】お客さんはドコォ? 2/5 

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐり、失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その13回目です。12回目まではこちらです。

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「よぉ〜し、コバヤシ、後藤、移動するぞ!」 Mr.Tの言葉が青い海に響き渡った。直射日光と海からの照り返しで黒く焼けたMr.Tは、魚を追いかけるのに夢中だ。黒い顔に白目が妙に目立つ。

 上背はない。170cmそこそこの身体ながら、鍛え抜いた足腰、太い首、ナイフも刺さりそうにない二の腕、ごつごつの指、まだ空手家そのものだ。口髭には笑みをただよわせても、相手がどう出てくるかいつも観察している眼光は決して笑うことがない。健全な精神、健全な肉体にやどるというが、抜け目ない精神、抜け目ない肉体にやどるのだ。小さくても相手を威圧するために、拳を頂点にした肉体改造をしてきた。それがMr.Tだ。

 「ハイ!」 われわれは海のしぶきを呑み込んで叫んだ。

 返事はしたが、もうこれで3度目の移動だ。魚群探知機で魚の群れを探しては釣り糸を垂らす。魚がかからない。また探知機を見る。群れが探知レーダーからどこに移るのかを確認する。離れた群れを追って船を移動させる。群れの真上にさしかかったとき、群れを掬いあげるために錨を下ろす。いや、たいてい下ろすときに群れは散りかけている。そこでまたわたしと後藤の出番だ。手の平も腕もしびれ、ヒザはガクガクし、腰は伸びない。
 
 それでも手足をふんばって錨(いかり)をあげる。わたしと後藤は錨上げ下げ滑車ではないのだ。
 「ま、ま・・る・・で・・・地球をあげるようだ」歯をくいしばって揚げようとしても、最初はビクともしない。鉛のバケツだってこれほど重くない。
 「腰で引け、腰で引くんだ!」 Mr.Tから激が飛ぶが、相手は地球だ。そうやすやすと引けない。海水を含んだロープも冷たくて硬い。「ハァ、アァ、アァ!」と言葉にならない合いの手を二人で入れて、ようやく錨を甲板にあげる。プレジャー(快楽)のカケラもないボート遊びだ。

 20080505183210  引用元 

 「まさに“ワーキングホリデー”!」後藤が喉を絞りあげて言う。
 「ぅ・・うん!しかしワーキングホリデーってジャングリッシュ(Janglish)じゃないのか?」

 何の意味もない錨とのダイアローグだ。プレジャーボートは、たしかに成功のあかしではあった。10名ほど乗れそうなボートには後部に2箇所のフィッシング席があり、デッキ下部にはサロンスペース、ベッドにもなる革張りソファ、ワインクーラー、キャビネット、化粧室、ギャレー(流し)、運転席のシートも革張りだ。そして魚群探知器があり、なぜか錨の巻き揚げ用のウィンチだけがない。嫌がらせとしか思えなかった。

          
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 デッキから見渡すかぎり、南国のブルーオーシャンが360度続く。こんなに快楽でいっぱいの世界に浮かんでいるのに、どうして苦行を強いられるのだろうか?プレジャーとは誰かの犠牲の上に成り立つのか。Mr.Tのプレジャーのために後藤とわたしが犠牲になる。魚たちも追い回され、逃げ切れないものたちが犠牲になる。

 サービス業も同じなのだろうか。誰かが誰かのプレジャーの犠牲となる。犠牲になっていることをおくびにもださず、キツくても笑顔をふりまく。笑顔のマニュアルとチェック用の鏡が標準化されているというハンバーガーチェーンを思いだした。それがサービス業の宿命なのか。“犠牲の連鎖”こそが社会なのだろうか?

 「“太陽がいっぱい”って映画、あったよな」わたしは息をきらして言った。
 「あの・・・アラン・ドロンの映画?」後藤も息はみだれていた。
 Mr.Tが釣り糸を垂れる後尾からは、船首に座り込んだわれわれまでは距離があり波の音で聞きとられる心配はない。  
 「そうだ。ヨットで富豪を殺して、そいつになりすまして金持ちになる話だ」
 「“珊瑚礁がいっぱい”な海で、死体を珊瑚礁に結んでおけばー」
 「珊瑚礁じゃちょっと不安だな」わたしは苦笑した。「殺っちゃうか」わたしは日焼けで痛くなった腕をさすった。「殴られなくてすむし」
 「こわれなくてすむから」後藤は言い足した。

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わたしは傷んだ手の平を海水で擦りながら、珊瑚礁の宝庫、“こわれていない海”の果てをみつめた。

 「しかもやっていることは魚を追いかけることばかりだ」
 「まるで“お客さんはドコォ?”だな」後藤がヤケのように大きな声で言った。
 向こうのMr.Tから何か言ったか?という声が聞こえたが、わたしたちは聞こえないフリをした。
 「これじゃ魚だってオレたちだって、逃げたくなるさ」わたしは剥けた手の皮を海に投げ入れた。

Lrg_10246074  引用元 部分

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 utteでテンパッタ今日は、コバヤシと後藤に登場してもらいました。

 余談です。先日12回目をアップした際、なんと“後藤さん”からコメントが入っていました。後藤だって?イタズラかしら?と思いましたよ。でも実在の方でした(笑)。しかも良い話で、ひょっとすると“誠”や“Biz ID”に続いて、執筆機会をいただけそうです。誠でのエッセイからのご紹介なんです。誠サマサマ。今日は以上です。

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