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2008年11月25日 (火)

SAKURAの春【14】お客さんはドコォ? 3/5

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐり、失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その13回目です。

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 プレジャーボートの日の釣りの成果はゼロではなかったが、わたしと後藤が失ったカロリーに見合うほどではなかった。魚の群れを追って漁場を探すのはしょせんムリがある。エンジン音とガソリンの匂いを海にまきちらす文明が近くにやってくれば、魚は本能的に逃げる。追えば追うほど魚は逃げる。それをまた追う。どこかムリなんだ。

 桟橋で軽油を補給するプレジャーボートを眺めて、思いの海にさまよった。

 20070521_244078 引用元

 ボートに投資ができるMr.Tと違って、わたしも後藤もやってこないお客さんを“素潜り”で追いかけているようなものだ。“お客さん探知機”を持たない身にはつらい潜りだ。いや違うのかもしれない。わたしの手に、お客さん探知機があったとしても、それはお客さんをより良く見えるようにするだけだ。探知機なんてなくても、潮の流れや海水の温度や風向きなどの自然の法則に従えば、泳ぐ魚は感知できるはず。魚の根っからの習性を知ればいい。

 魚もわたしや後藤も、逃げる者の気持ちはどこか似かよう。どこか顔が似てくる。捕まえてみると似たような顔をしている。やっぱりこわれるスピードの方が速かったな、と。自分がどれだけこわれてしまったか知っているさ、というように。捕まえた漁師は、きっとMr.Tのように無造作なのだろう。

 空手の有段者で師範であるMr.Tは、ダウンアンダーの国に空手を普及させてきた先駆者でもある。だが実は、彼も同じなのかもしれない。日本で道場を開けないから、南の国に逃げてきて、空手道を普及させる道を選んだのかもしれない。こわされないように、ここに来たのかもしれない。

 こんな禁じ手もやったと聞いた。自分の空手教室が他の教室に生徒を奪われると、相手の教室に飛び切り強い有段者を潜入させて、師範をたたきのめして、“こんな弱い師範には教われない”と触れまわさせた。相手をたたきのめして自分が勝ち上がる。その報酬が“プレジャーボート”というわけだ。

 そのプレジャーは誰も幸せにしていない。自分の虚栄心を満たし、不幸せを広げるだけだ。

 どうやらわたしは軽油の匂いにむせて妄想を抱いたらしい。後藤に目配せをして、ガソリンを喉に詰まらせるように走る老Fiatで帰ることにした。

           
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 翌日の月曜日の昼は静かだった。記録的にお客さんが来なかった。昨日あれほど魚を追いかけた代償だろうか。

 “フリーランチ”で仮想お客さまに話しを聴くのは、明日の火曜日のランチのあとだ。今日はその仕込みに専念しよう。わたしと後藤はフリーランチの仕込み準備にとりかかった。明日は麗朱のご両親と知人、ワンダの日本語学科の同級生らがやってくるはずだ。特別なことはせずに、ありのままを体験してもらって、食べてもらったあとに意見をもらおう。

 ところが夜になり予想外にお客さんがやってきた。オージーに日本人に韓国人とまだら模様だが、わたしたちが少しだけ前向きになったのが以心伝心したのだろうか?ほとんどの食卓が料理でうまり、笑顔が広がっていた。久しぶりに忙しい麗朱もワンダも、頬を紅くて楽しそうだ。
 

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 普段どおりのメニューだが、サーブの仕方だけを変えた。ちょうど中華料理の“点心”のように、料理を小皿に小分けをした。少しずつたくさん食べてもらって意見を聴くというねらいからだ。

 Image15715_2 引用元 

 “お客さま”たちは三々五々集まってきた。麗朱の家族は父と母と彼女の妹の、その知人一人の計4人だ。ワンダの友人でオージーの女性1名、そして飛び入り参加は後藤の友人、わたしたちと同じワーホリの放浪日本人ふたり。何やら腹を空かしているらしい。あわせて7名だ。テーブルを寄せて、全員がひとつのテーブルに座るようにした。

 用意した“点心メニュー”は刺身、天ぷら、揚げだし豆腐、肉じゃが、納豆、焼きおにぎり、みそ汁にソバ。極めつけの日本料理ばかりを出していった。麗朱もワンダも普段どおりに立ち振る舞い、わたしも後藤も普段どおりの味を気をつけた。そのままのSAKURA2号店を食べてもらいたかった。

 刺身を出すと、ワンダの友人のオージー女性が「Oh!Raw food!」と呟くのが聴こえた。お箸の持ちかたもおぼつかない。隣に座ったワーキングホリデーの日本人男性が、持ちかたの見本を見せている。だが彼の箸の持ちかた自体がちょっとヘンだ。わさびをのせて、醤油の小皿にドリップして口にほおばると「Woo!」と言って鼻をおさえた。みんなが笑った。

 てんぷらを出すと、長く日本にいた麗朱の父が、大根おろしを掬い天つゆに入れ、食べてうなずいた。母のほうは塩がほしいと言ったので盛りつけた。若いワーキングホリデーの日本人は、肉じゃがをかきこむように食べるし、納豆には芥子をのせて醤油をかけて、ご飯が欲しいなあとつぶやいている。焼きおにぎりはオージー女性にも好評で、「This is Great!」の声さえもらえた。

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 ブログのアップが遅くなりました。実は、思いのほかutteで手間取り、さらにまだ手間取っております。utteの本日(11月25日)の更新のお約束が守れずごめんなさい。いろいろな意味で、今日は“お客さま志向”を考えました。どんなことがあっても、最後はお客さま志向でないとだめ。システム屋“思考/指向”はダメ。ちょっとそれに染まりそうになりました。まずい。今日は以上です。

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