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2008年12月 3日 (水)

SAKURAの春【15】お客さんはドコォ? 4/5

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐり、失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その15回目です。場面は“お客さまの近いところで考えるランチョンミーティング”です。みんなの知り合いを集めて、SAKURA2号店の悪いところ、良いところをヒアリングします。前回の14回目まではこちら

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 どうやら味は満足してもらえた。後藤とわたしで小皿を片付けて、麗朱とワンダが日本茶の用意をした。わたしは頃合いを見はからって言った。

 「今日はありがとうございました。麗朱やワンダ、後藤から話は聞いていると思いますが、わたしたちはこの店をもっと良いお店にしたい、お客さまが喜ぶお店にしたいんです。ご意見をお願いします」気恥ずかしかったけれど、背に腹は代えられない。

 「料理、美味しいと思うよ。お店もサービスもまずまず」と麗朱のお父さんが口火をきった。「わたしは日本にもいたことがあるから、そう思うのかもしれないが、日本の味がよく出ていると思う」
 奥さんもうなずいた。「ホント、美味しかったわ。もっと流行らないとダメね」とまっすぐなことを言われて苦笑するしかなかった。麗朱はお母さんをにらみつけるように目配せした。
 
 「同感。ひさしぶりの日本食、美味しかった」ワーキングホリデーの若者が言うと、隣のもうひとりも口をそろえた。「日本食を食べようとすると、あの偽のジャパニーズ・ラーメン屋だもんな。あそこはマズいよ」
 「マズくてもお金がないから、いっちゃうんだよな」
 「お金がもしも余裕があったら、KOTOとSAKURA、どっちに行く?」後藤が彼らに訊いた。「正直に答えろよ」
 そう言われてもふたりはモジモジしてなかなか答えない。わたしが助け舟を出した。「KOTOの方が構えも料理もいいからね」
 「う〜ん。たぶんKOTOだ」若者のひとりがそう言うとみんな笑った。「でもね、味はきっと大きな違いがないと思う。KOTOに行くのは、いかにも“日本料理店に行きました!”という話題になるからかな」
 「ひとりだったらKOTOには行かないな」もうひとりの若者もうなずいた。
 「なぜ?」わたしが訊いた。
 「何ていうか。敷居が高いんだよね」
 ワンダがそのことばを繰り返した。「四季・・・がタカイ、ですか?」
 「ワンダ、シキじゃない、シ・キ・イだよ」後藤が言った。「意味はね、なんて言えばいいかな。説明がむつかしい」
 「お店に入りにくいっていうことかな?」わたしがいった。
 「そう。やっぱり格式ばっていて、入りにくいなあ」
 「SHIKII GA TAKAI」ワンダは手元の手帳にフレーズを書いているようだ。「これ覚えます」

 ワンダの友人の女子大生が言った。「このお店も、たくさん、SHIKII GA TAKAIです」イントネーションは怪しいけれど、日本語学科だけあって巧みな日本語だった。「英語で言いますが・・・」

 彼女が言うところでは、この店でさえもシキイが高いのだ。日本食はいろいろなルールが多い(お箸の使い方だけでなく、食べる順序、作法のことだろう)、ソースやドレッシングの決まり事がわかりにくい(醤油、芥子、お酢、唐辛子、胡椒、てんぷらには塩だってある)、何と何をいっしょに食べるのか、食べられないのかがわからない(たしかに納豆をどうやって食べるかなんて、関西より南の人にはいまだに知らない人も多い)。ようするに“日本食ルール”がむつかしい、というのだ。

 「なるほど。そう言われてみるとたしかに日本食はSHIKII GA TAKAIなあ」後藤が言った。
 「わたしはまだ日本食、よく知りません。ワサビはso hardです」みんな笑った。彼女は続けた。「ふつうのオーストラリアンならもっとhardで、きっとムツかしい」
 麗朱の父が言った。「オーストラリアンにシキイが高いのはわかるよ。なんていっても肉ばかりの国だし。レストランに行ってまわりが日本人ばかりのお客さんなら、その中で箸がもてないと恥ずかしいだろうしね」
 「てんぷらには塩がいい、なんてもっとわからないわね」母がにっこりとしながら言った。
 “そうか敷居が高い・・・か”。わたしはそのことばを噛み締めた。敷居を低くするにはどうしたらいいんだろう?
 
 「私、SHIKIなら知ってます。Four seasonsですね」女子大生が言った。
 「Yes.日本の四季、It's so beautiful.」ワンダが言った。
 「日本に行ったことあるの?」ふたりとも頭を横に振った。
 「でもハルゥにニホンに行きたい」と女子大生。
 「ハルゥ、それSpringのこと?」イントネーション修正家の後藤は聴き逃さなかった。
 女子大生はうなずいた。「おかしいですか?」
 「ハ、ル。ハイもう一度言って」女子大生はゆっくりと発音した。みんが笑った。わたしは訊いた。
 「なぜ春がいいの?」
 「ハルにはサクラが咲きます。サクラを見たい」

02_img01  引用元 

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みんなが帰ったあと、片付けもせずにわたしはぼんやりと考えていた。

 「たくさん、SHIKII GA TAKAIです」

 敷居が高い・・・・KOTOだけでなくSAKURA2号店でさえ。KOTOはむしろ敷居を高くするからお客さんが集まるのだ。こんなちっぽけなSAKURA2号店が敷居が高くては、お客さんが来るはずがない。低くするにはどうしたらいいのだろうか?わたしは紙ナプキンを取り、ボールペンで「SHIKII」と書いた。

Sikii 引用元 

ルール、作法、決まり事、行儀、マナー、格式・・・・たしかに日本食ほど決まり事が多い料理はない。日本に生まれて育てば、決まり事はからだにしみつくので、それがどのくらいむつかしいことかわからない。どこの国にも決まり事やタブーはあるが、たかがお茶の淹れかたひとつで人が殺されるほどのウンチクがある国があるだろうか?
 
 だがSHIKIIの感想を、どうSAKURA2号店に生かせばいいのか?まだわたしの中で案が思いつかない。だがきっとー。

 桜が咲く日がやってくる。冬があれば春があるのだから。

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 今日は取材で出会いがありました方と会食をしていました。いろいろなインスパイアがありましたので、差しつかえない範囲でいずれ書いてみます。今日は以上です。

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