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2008年12月12日 (金)

SAKURAの春【16】お客さんはドコォ? 5/5

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐり、失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その15回目です。場面は“お客さまの近いところで考えるランチョンミーティング”が終わって。前回の15回目まではこちら。

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わたしはテーブルの上の醤油の容器を手にした。これは英語ではSoy sauce。大豆のソース。ソースという語感がしっくりこない。やはり醤油は醤油なのだ。そこにすでに“SHIKII”がありそうだ。フト掘田店長が言っていたことが心に浮かんだ。

 “その調味料を知ってもらうこと、その調味料を現地の人にも親しみやすいものにして共通語にしたい”

 “Syoyu”じゃなくてSoy sauceであってもいい。でも異国の人にも親しみやすい日本料理なら、どこかでSHIKIIを低くしたい。いったん体験して中に入ってもらえれば、奥が深い日本料理に興味も持ってくれる。決まり事もルールも、興味をもってくれるのではないだろうか?それは日本食の姿を現地向けに変えてしまって、甘いビーフボールを牛丼ということではない。

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 “点心フリーランチ”の小皿を積み重ねてシンクにおいた。その洗いは後にして、もう4時過ぎだ。そろそろディナータイムの仕込みをしないと間に合わないぞ。

 店の入口のドアが開いた気がした。厨房からホールを見るとそこには麗朱がいた。両親と一緒に帰ったのではなかったのだろうか。まだディナータイムには時間があるのにと思っていると、エプロンをして厨房に入って来た。

 「片付け、手伝います」麗朱はシンクの小皿をスポンジで洗い出した。シンクには同じ柄の皿もあれば、似たようなサイズの皿もある。お皿を総動員したかのような量だ。
 わたしと後藤は顔を見合わせて微笑んだ。「助かるよ。ありがとう」わたしが言った。
 「楽しかった、さっき」麗朱の手からキュッキュッとお皿が擦られる音がした。「たくさんのメニューを少しずつたくさん食べられるのっていいな」
 「そうだね。点心(テンシン)って楽しいよね」後藤がサラダ菜をむきながら言った。
 「ノンノン。dianxin(dim sam)です」麗朱が発音を正した。
 「おっとやられた!ディム、サム?」
 「まあまあね」
 みんなで笑った。最近は笑うことさえあまりなかった。

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まるで昨夜一夜で今週分のお客さんが来てしまったかのように、その夜はさっぱりだった。良いことは続かないのか。いや、ひたむきでさえあり続ければ、良いことが少しずつ増えてくるものなのだ。やるべきことを積み重ねよう。麗朱が洗ってくれたディムサムの小皿を水を切り、積み重ねて食器棚に入れた。麗朱もワンダも帰り、後藤も「じゃあ」と口の中でつぶやいて帰っていった。ひとりになった。

 「今日は疲れた」自分にお疲れさま、と言ってわたしも帰りかえかとき、前にすき焼き用のエプロンに書いたマトリクス図が眼に入った。お客さんのことを考えた図だ。冷蔵庫の扉に磁石で付けてあった。今こそもう一度考えるときかもしれない。

Egekiyasu1  Sakura03
 引用元 

 あらためてそれを見た。“オージー”と“異国フードとしての日本料理”のマスには『初心者 体験』と書いた。ちょうど今日来たオージーの女子大生だ。ワンダも女子学生も和食や日本文化に興味がある。でも深く理解しているわけじゃなくて、“体験”として食べている。

 “日本人”と“自国料理としての日本料理”のマスには『
ベテラン 味にうるさい』と書いた。今日のワーホリの若者、台湾人ではあるが滞日期間も長い麗朱の家族がここだ。理解の度あいはあるにせよ、日本の文化を知り、味に育ってきた。彼らは異国の地で自国フードを懐かしみ、ホンモノじゃないとウンチクをたれる。

 フト気づいた。日本食の“
SIKII”はこの2つの人びとを分けているのだ。初心者の体験やベテランの思いを分けている。わたしは横に一本線を引いた。

Sakura04
 
 それが“敷居”だ。そうだとすると、左下のマスは“日本食を知りたい”。食べかたや美味しいものを教わりたい、もっといろいろ食べてみたい。そんな気持ちだろう。わたしは『
教わりたい いろいろ食べたい』とそこに書きこんだ。

 右上はどうだろうか。わたしたち日本人がここオーストラリアで異国フードを調理するのは、その良さを“広めたい”からじゃないだろうか。ベテランや味にうるさい人びとを満足させるのではなく、そんな人びとが、異国の日本食初心者にその良さを伝えてあげればいいじゃないか。わたしはそこに『
広めたい 伝えたい』と書いた。

Sakura05

敷居はボーダー(国境)でもある。人びとの心の壁である。それを壊していけばいい。

 どうやって?わたしは誰もいない厨房をぐるりと見回した。そこのどこかに解答があるはずだ。きっと見つけよう。自分のためにもみんなのためにも。マトリクスのエプロンの紙を、再び冷蔵庫の表に付けて電気を消した。

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 週末の楽しいパエリアパーティの模様は明日にでもお伝えします。今日は以上です。

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