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2009年1月 6日 (火)

SAKURAの春【17】all you can eat Japan 1/7

 ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐって失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント物語”。その17回目です。あらすじは次のとおりです。

 新規に出店したSAKURA2号店の業績が上がらず、元空手道場主・日本料理店オーナーのMr.Tから“コバヤシ、お前を殴る”と言われた。コバヤシと後藤は競合店のKOTOを訪れて、その堀田店長から「SAKURA2号店とは何ですか?」と訊かれた。ありたいお客さまを集めて“フリーランチ”インタビューも行うが、再生へのヒントはまだ見いだせない。ダウンアンダーのオーストラリアの地で、コバヤシと後藤の真の自立への冒険は続く。前回の16回目までの掲載はこちら

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SAKURAの春【17】 all you can eat Japan 1/7 

 ランチの終わりの頃、電話が鳴った。鳴る音にどこか人に有無を言わせない、傍若無人な響きがあった。受話器を取ったワンダがこちらを見て目配せをした。案の定、Mr.Tからだった。わたしはため息を深くついた。店舗の業績が伸びず、“コバヤシ、お前を殴る”と言われてから、まだ2週間と経っていない。いや彼にはたった2週間でも長過ぎるのだろう。

 相手が闘い始めの呼吸さえ整えていないとき、構えるか構えないかのうちに叩きのめすのがMr.Tと言われた。先手必勝のコンタクト空手で養ってきた闘争本能がある。にらみつけて怯えさせることで、自分に有利な間合いをたもつ。オレはいつでも襲いかかれるぞという構えを見せて、恐怖で人を縛り付ける。まるで逃亡を許さない監禁者だ。

 わたしは償いきれない罪を犯した懺悔者が、神父に“聖書に手をおきなさい”とぴしゃりと言われたかのように受話器に触れた。ドスの利いた空手家の声がやってきた。

 「コバヤシ、こっちへ来い。どうせそっちはドヒマだろう」

 殴られるわけではなさそうだった。SAKURA本店のシェフの要であるKIMさんの体調がすぐれない。ランチは何とかこなしたが、午後はとても働ける体調ではなく帰宅したいという。マレーシアから移民した彼のオーストラリアン・ワイフが、きっと何かワガママを言っているに違いない。割を食うのがわたしであった。

 ディナーの仕込みは手当がついているが、間が悪いことにケータリングの注文が入っていた。日系の会社に日本料理を届けるご依頼だ。寿司に刺身に焼き魚に茶碗蒸しに…。スキがあるから仕事を押し込まれるとも言えるが、手伝えというのは頼りにされた。ひととおりこなせるワーホリ崩れのわたしも戦力なのだ。構えさえ悪くなければ、奇襲にも対処はできる。

 わたしはSAKURA2号店のランチの後片付けを後藤にまかせて、アタマにはちまき、上下は調理着のかっこうのまま我が老いたFiatに乗りこんだ。道場破りにあった師範の道場に助っ人にいくような気分だ。イグニッションを回すと、珍しく一発でエンジンが回りだした。ブリスベンのダウンタウンに向かうウィンドウシールドから見える亜熱帯の空は、ゆっくりとグレイの雲が出てきていた。どうやらスコールがありそうだ。

Sofitel_19  引用元 

SAKURA本店の入口、ランチの終わりを示す“Closed”の札がかかっていた。ストリートに面したビルの2階にある店舗まで、薄暗い階段を駆け上がり、ホールへのエントランスへ向かった。レジの奥にある小さな事務スペースに、たいていMr.Tは陣取る。今は扉が半開きにない暗い部屋である。どうやら出かけているらしい。

 半ばほっと、半ば拍子抜けしたわたしは、厨房に入った。SAKURA2号店よりもたっぷりとしたスペースだ。洗い場、サラダ場、仕込み・調理までセクションが分かれている。ここに比べるとSAKURA2号店は家庭のキッチンに毛が生えたようなものだ。そもそも調理するメニューに限界もある。言い訳にはならないが。ケータリングの注文書を探して宴会帳をめくった。すると後ろから声がかかった。

 「おはよう、コバヤシさん」Mr.Tの奥さんミセスTだった。「ごくろうさま。Tもいないし、今日はたまには気分転換ね。でもね、あっちお店の貧乏神は連れてこないでちょうだい」

 口では微笑みながら、ぴしゃりとしたあいさつだ。口が悪いのはいつものことだが、決してそれに慣れたことはない。空手家の奥さんだから言葉尻にもチョップが効くのだろうか。わたしは口の中で“おはようございます”の言葉をこねた。

 「XXXコーポレーションて日系の会社さんだったのね。知らなかったわ」ケータリング先の会社の名前を挙げて、彼女は手にしていた注文書を広げた。「新しい日本人ボスの就任祝いだそうよ。会議のあと、部下のオージーたちと日本食を食べて“同じ釜のメシ”かしらね。だからメニューは刺身に寿司にお蕎麦に茶碗蒸しに味噌スープ、ニッポンてんこもり。これで満足して日本通になってくれるのだから、ラクよね〜」

 Mr.Tは30人前を準備するケータリング食の搬入前に、病欠のKimさんの代役で、会場となる会社の大会議室で準備をしている。ケータリングといってもほとんど店で調理を済ませて、大皿に並べた料理を搬入すれば終わりだ。立食パーティ形式で勝手に食べてもらう。刺身を盛り付け、寿司を握り、焼き魚をならべ、茶碗蒸しや味噌スープをふるまい、蕎麦でしめる。調理を済ませて搬入すればおわり。材料を仕込みさえすれば、皮肉とも拳ともおさらばできる。わたしは寿司用のライスを研ぐ準備にかかった。(続く)

Taimei0104001thumb  引用元

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 今日は板橋区方面に出向いて、utteのクリエイター・ハンティングと、ビジネスメディア誠の取材の下調べをしました。例によって方向音痴が炸裂しまして、かなり道に迷って、環七をはさんであっちこっちと歩きました。良い運動になりました(負け惜しみ)。

 ところが、大通りをはさんで、街の有り様や家の造りにはずいぶんと格差があるなと思いました。片や大邸宅がずらり。片や廃墟のようなスラムさえある。格差は資本主義の下では当たりまえですが、その町の自治体も大借金を抱えている。今の政治家や公僕に、こんな日本の舵さばきをする深い思想があるのでしょうか?今日のニュース、『平成廿“十”一年問題』でも暗澹となりました。明日もSAKURAの春の続編です。今日は以上です。

200901055830551l  筆さばきはうまいのに、二重の廿(ニジュウ)では…。

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受信: 2009年1月 8日 (木) 23時07分

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