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2009年1月 9日 (金)

SAKURAの春【19】all you can eat Japan 3/7

  豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐって失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント”。一昨日の【18】に続いて18回目です。16回目までの全文掲載はこちら

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Holdencommodorewagon7 Holden Commodore 引用元 

わたしはSAKURA本店の裏の出入口に出た。そこにはオージーの国民車とも言われるHolden Commodore(ホールデン・コモドア)の5ドアワゴンが駐まっている。Mr.Tがケータリングの運搬用にレンタルしてきた車だ。ラップをかけた大皿料理や料理を入れたコンテナを荷室に積め込んでゆく。料理を取り分けるトングやカトラリー類、普通のオージーには使うのがむつかしいお箸も持ってゆく。ずんどうに入れたお味噌汁はこぼれてはまずいので、助手席に載せてわたしが両手両足で抱え込んでゆくことになった。

 CommodoreはミセスTを後部座席に乗せて、Mr.Tの運転でゆっくりと走り出した。Holdenはオーストラリアの唯一の自動車メーカー。オーストラリアに国産自動車メーカーがあるとは意外であったが、性能でもフィニッシュでも、日本車に遜色ない出来である。わたしの乗っている老いたFiat125とは違うスムーズな走りだ。日本料理をオーストラリア車で運ぶ。両国の友好のあかしのような演出ではないだろうか。

Google_street_view_20090107 引用元 google street view 20090107

100mも走らないうちにウィンドウシールドの向こうにグレイの雲が広がってきた。そして大粒の水滴がぶつかりだした。痛いくらいに水と物体がぶつかる音が聴こえてくる。そしてスコールになった。ワイパーが雨水をかきあげた瞬間だけ小さな視界がひらける。だが滝のように流れる水流に景色がはばまれてしまう。Mr.Tは“しようがねえな”と舌打ちをしてゆっくりと走らせた。スコールはたいてい20分もしないうちに通り過ぎるから、プルオーバー(停車)してやり過ごしてもいい。

 わたしはクィーズランドの内陸部にドライブしたときのことを思いだした。海岸線とはまったくちがう自然の荒さが体験できる。スコールははっきりと竜巻に見える。竜巻はゆっくり動いてゆく。それはどうみてもこちらに近づいてくるのだ。竜巻の渦中に入り、飛ばされればオーストラリアの大地が瞬間でも見渡せるのだろうか?上までいってすんなり降りれるなら、一度昇ってみたいものだ。

Photo_8  引用元 

くわえて足元にも“自然”がたくさんある。内陸部の道路の舗装状態は、良い部分と悪い部分が極端にちがう。一車線道路ばかりで、両方向ですれ違いはできない。日本でいえばちょっと幅広い農道が幹道となっている“センターラインがない道路”という感じだ。お互い譲り合って走るのが礼儀だ。日本と同じ左側通行の国、はみだした左側のタイヤは、路肩のグラベル(未舗装)道路に足(タイヤ)を取られやすい。

 だからオーストラリアの車は左側から壊れると言われる。中古車の多くは左側のタイヤやサスペンションが摩耗するのだ。奇妙なことである。まるで人間味があるがゆえに、道を譲り続けて、人生のメインストリートを偏った歩きかたをしてしまった人のようでないか。そんなに譲らなくてもいいのにと第三者は言うけれど、彼/彼女にしてみれば、譲ることに使命を感じているのかもしれない。

 そんな妄想にふけっているうちにフト我に返ると、Mr.Tは前方をじっとにらみつけて走っていた。ハンドルを抱えるという表現が正しい。さもないと水流で前が見えないから。開始時間に間に合わせるように、しかも料理を損なわないように、普段ふんぞり返って高級車を運転するMr.Tの姿からは思いも付かない慎重な運転だ。

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ケータリング先の会社に到着した。平屋建てのビジネスコンプレックス、駐車場は外だ。濡れて運び込むしかない。自分は濡れても料理をびしょびしょにするわけにはゆかない。Mr.Tは車をバックで巧みに会社のエントランスに近よせた。

 「こんな雨になるなら、お弁当にでもすればよかったわね」ミセスTがため息まじりに言った。確かにそうだと思った。車のドアを開けると滝のようなスコールなのだ。ひるんだ。だが行くしかない。

 「コバヤシ!Hurry up!腰で運べ、腰で!」Mr.Tが怒鳴る。

 わたしは30人分たっぷりの味噌スープの入ったずんどうをよろめきながら運ぶ。とても腰でなんか持ち上がるものか。プレジャーボートの錨といい、ずんどうといい、南半球を持ち揚げるかのような重労働ばかりだ。だがスコールの滝の合間から見えるMr.Tの姿は、怒鳴るだけではなく、自らも手際よく大皿や番重を運び込んでいる。さすがに空手家は動きは早い。感心している場合じゃない。

 息を切らせてすべての料理を会場となる大会議室に運び込んだ。頭のねじりハチマキをとり絞ると、濯いでもないのに水がしたたった。わたしだけでなく、Mr.TもミセスTも息をきらせる中で宴の準備は終わった。これでお役ごめんだろう。SAKURA2号店にもどろうとして、わたしはMr.TとミセスTに声をかけた。

 「どうせヒマだろう。あっちは後藤にまかせて、お前はここで味噌汁をよそうくらいサービスをしろ」

 ヒマであるのは事実だがそういう言い方をされなくてもと思う。だがわたしはひとりでディナーをこなす後藤の姿を思い浮かべて、感謝した。Mr.TはわたしとミセスTを会場に残して、本店にもどった。頃合いを見て迎えに来るというのだからいいだろう。

ミセスTとふたりきりになる。まるで好きになれないバアヤと「一緒にいて待っててね」と、ママにおいてけぼりを食らった子どものように寂しくなった。ほどなくパーティが始まろうとした。

080218a21 引用元  

「Oh!SUSHI!」
「Raw Fish, I love it!」
 
 マグロ、サーモン、海老、巻き寿司。これでもかというほど大きなネタをのせた寿司を前に、立食パーティにやってきた参加者たちが口々に言う。食べる前から“これは何?”と興味津々の面もちのオージーたちだった。もちろん彼らのうち何割かは日本食を食べたことはあるだろう。だが寿司にせよ刺身にせよ、当地の人には安くない。たとえラーメン一杯作るのも、遠く日本を離れればかなり原価がかかる。価格もイメージも、まだまだ敷居が高い。
(続く)

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 今回の掲載分は雨のシーンですが、ちょうど今日も雨でした。関東地方では激しいというより、ひたすら冷たい雨でした。不況ゆえに寮さえ追われ、路上生活をする人には、どんな理由があるにせよ、冷たすぎる雨だと思いました。彼らは負けたから、というのは寂しすぎるし、自分がいつ負けるかわからないのを、心底思ったことがない人には、負けるとか負けそうになるというリアルな感情はわかない。今の首相を筆頭に、多くの政治家や官僚に、徹底して欠けているのは、そういうリアルな感情である。だからこそダメだと思う。

 もちろん「勝ち残ろう!」という人生観が後退し、「負けすぎなければいい」という人生満足が蔓延しているのも問題。ひとりひとり、生き方のパラダイムが問われているというのはそんな背景もある。ちょっとビパークすれば風雨が過ぎるだろう、という想いでやり過ごせればいいけれど。今日は以上です。

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