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2009年2月 6日 (金)

SAKURAの春【21】 all you can eat Japan 6/7 

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐって失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント”の22回目です。ニッポン食の立食パーティから、青年コバヤシは何かヒントを得たようです。21回目までの全文掲載はこちらです

all you can eat Japan 6/7 **********************

 SAKURA本店で荷を下して、ようやくお役ごめんとなったわたしは、スコールの中もひとりで待っていたFiatの元に帰った。老車は雨上がりの夜空につやつやしていた。このまま帰るわけにはいかない。後藤と今日のことを話したかった。2号店のある商業施設の駐車場まで着いた頃、すでに時計は9時半をまわっていた。車のドアを閉め空を見上げると、星明かりで空が群青色に見えた。突き抜ける希望の色に思えた。街灯よりも星明かりの方が明るいほどだから。

Fiat_125 引用元 

 裏口から厨房に入ると後藤が厨房の片づけをしていた。

 「おつかれ、コバヤシさん!」

 この時間で早くも店じまいか。わたしは彼が口頭で伝えた今夜のディナーの少数の組数に落胆せずに、洗い物を済ませてからちょっと話そうと言った。後藤はうなずくと洗い物と残りの掃除にかかった。

 わたしは厨房の食器棚の扉を開けた。お湯呑み、ご飯茶碗、味噌椀、大小さまざまの和風の皿、小鉢類、全長70cmもありそうな木製の舟形の刺身盛り(SAKURA2号店ではほとんど使われることのないシロモノだ)、塗り箸、ワイングラス、ビヤグラス…。本店から持ってきた品ばかりだ。使えるものもあるし、使えないものもある。ランチのヒントをやるにはまだ足りない。

 わたしは紙エプロンを一枚取り、ホールのテーブルに腰掛けてそれを広げた。これがわたしの戦略スケッチシート。破けないようにボールペンで店の見取り図を描きだした。

 「何か思いついた?」後藤は両手の水分をエプロンにこすりつけながらやってきた。
 「ちょっと聞いてほしいんだ」わたしはコリコリと紙エプロンに線を引きながら考えをまとめようとした。店舗を上から見て、テーブルを3台ほど壁ぎわに寄せ、その上に◯や□を描いた。

 「なんじゃそれ?」後藤はゲラゲラ笑った。「テーブルに上におでん?」
 「だまれ」
 絵がヘタだといわれようといいのだ。壁際にテーブルを寄せ、その上に取り皿やお茶碗やお椀を重ね、炊飯器をずんと置き、おかずをのせた大皿やプレートを並べた図を描いているのだ。
 「脇に寄せたテーブルの上の、四角や丸のおでんは何?」
 「これは取り皿の丸、炊飯器は二重丸、これはおかず、これもおかず」そんな説明をした。
 「ホント、絵、ヘッタですね、コバヤシさんて」
 そう言われても気持ちが入っているわたしは、後藤のことばを無視して、客席テーブルを描いた。
 「今日のケータリングは、あれこれ食べられる立食パーティだった。寿司、刺身、焼き魚、お新香、茶碗蒸し・・・。楽しそうに食べるオージーの姿を見て、これかなとひらめいた。要は食べ放題さ」
 「ふうん、いわゆるバイキングだよね」
 「そう。器を自分で取る。ご飯やおかずを自分で盛りつける。そうすると日本食に親しみが湧くと思うんだ」
 「親しみが・・・湧く?」
 「うん。オーストラリアの人は、まだ日本食の食べ方をよく知らない。この前のフリーランチでもそう言っていただろう?これ何かな?どうやって食べるのかな?と。分からないから手を出しにくいんだ。だから、日本食のしきたりは取っ払って、好きなものを好きなだけ食べてもらうんだ」
 わたしはエプロンの上に日本食の絵を書き出した。
 「今日のランチは肉豆腐、明日は和風サイコロステーキ、明後日は焼き魚といった感じで、メインディッシュは日替わり、サイドメニューは1週間同じにする。ひじきや切り干し大根とかお新香とかね。1週間毎日来ると、日本料理ってこんなものだ、日本料理のバラエティの広さ、味の多彩さに気づいてくれるだろう?」
 「オージーは毎日はこないよ」後藤は苦笑した。「ひと月に1度来るか来ないかの人ばかりなんだから」
 「そうかもしれないけれど」わたしは怯まなかった。「バイキングでいいことは他にもある」
 「何よ?」
 「自分たちでよそうから、ウェイトレスは、料理の説明や水のサービスと後片付けだけで済むからラクになる」
 「それはそうだな。ウェイトレスがどんな味だとか、どうやって食べるだとか、ガイドができるね」後藤は賛成した。
 「うん、食べ方を書いた紙を用意してテーブルに配ってもいい」
 「お箸の紙にあるhow to use chopsticksのように」

 悪くないアイデアだ。だが欠点も見つかった。大食漢ばかりがバイキングにやってくると赤字になる。それはお皿の数をひとつにするとか、盛りつけを一度にするなどで対応できる。温かいものを提供するのはどうするか。揚げた天ぷらを並べておくことはできないので、オプションで注文を受けようか。お味噌汁も自分で運ばせるのは危険なので、ウェイトレスの仕事とする。

Photo_4jpeg 引用元

 

エプロンは次第にくしゃくしゃになっていった。単純だが、あんがいいけるかもしれない。

 今日はこれで十分。そろそろ10時半だ。もう引き上げよう。いたずら書きしたエプロンを折畳んで厨房においた。後藤とふたりで裏口から店を後にした。長い一日が終わり、月光が差してきた。それは、いずれ朝日のあかりに変わるさ。

         ******************** 

 新規事業というものに関わった方なら分かる。それは晴れの日、曇りの日、雨の日、暗黒の日。まるでバイオリズムのように波打ってやってくるもの。めげるな自分、おごるな自分。上司よ、ホンネを話せよ。部下よ、何を考えているんだ。こんな心理戦が毎日、毎日繰り広げられて、それにめげずにやり抜く。それが新規事業です。

 わたしは実業としてそれをしたし、虚業(調査業やコンサル稼業)でもそれとつき合ってきました。だからわかる。携わった人の孤独、焦り、嘆き、そして喜びや連帯心。どんなに小さい事業でも、それはドラマですよ。わたしは一生それを追い求めていきたい。今日は以上です。

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