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2009年2月10日 (火)

SAKURAの春【23】all you can eat Japan 7/7

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐって失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント”の23回目です。ニッポン食の立食パーティから、青年コバヤシは何かヒントを得ました。22回目は数日前に掲載、21回目までの全文掲載はこちらです。

all you can eat Japan 7/7 *********************
 
 「本格的な日本食を気軽に味わってもらうランチ、っていうのがコンセプトだから」
 翌日のランチを片付けたあと、麗朱とワンダ、後藤をテーブルに囲んで昨日のアイデアを説明した。
 「all you can eatですね」ワンダが言った。それは英語で食べ放題のこと。
 「フリーランチのときの点心(dianxin)みたい」麗朱も言った。

 「そう、フリーランチのときの小皿と同じ。まずテーブルで注文を取る。おかず3品まで10ドル、4品で12ドルとか量で区別してもいい。お客さんが取り皿を取り、こっちから好きなおかずを何品かとっていく。それで席につく。お味噌汁はこぼすと危ないから、麗朱とワンダに運んでもらう」
 「料理をよそうのは取り箸ではムリよね」麗朱が言う。
 「そうだな。料理をつかむトングが必要だ」とわたし。
 「サラダとか魚はいいかも知れないが、でも豆腐はどうすんの?」と後藤が訊く。
 「日本料理なのに大きなスプーンですくわけにはいかないわね」麗朱も言いかえした。
 そのやりとりを聞いていて、わたしは昨日のケータリングのときのことを思った。
 「そうだ、オレか後藤がシェフとしてホールに出て、料理をサーブするサポートをすればいいんだ。並んでもらって、これとこれと決めてもらってサーブする」
 「料理を説明するシェフみたいで、かっこいいな」後藤が微笑んだ。
 「大食いが来ても赤字にならないわね」と麗朱も言った。
 後藤かわたしのどちらかひとりが厨房に残れば、足りなくなった料理を足す準備をすることもできる。そうすれば天ぷらや刺身も調理することができる。良いことづくめのように思えた。

 なぜかワンダだけ、ことばが少ないのが気になった。
 「ワンダ、どう思う?」わたしは訊いた。
 ワンダは考え深げに言った。「This is nice idea、だけど…」
 「だけど?」
 「どこか、Nipponがないです」

 後藤と麗朱とわたしは、ワンダをみつめた。わたしが訊いた。「Nipponがないって?」
 「はい。Nipponらしさ、ないです。オーストラリアにもAll you can eatあります。料理は違うけれど、それと似ています」
 彼女が言うにはall you can eatは大食漢のためのものというイメージがあり、必ずしも良いイメージがない。日本食をいろいろ食べられるのは楽しいけれど、どこか違いをつけないとダメだと。さらにSAKURA2号店のランチは、ご飯、お味噌汁、メインディッシュ、小鉢を別々にウェイトレスがテーブルまで運んでいる。結局それと変わり映えしないなら、ウェイトレスの労力を削減したことにしかならない。価値もないばかりか、逆にサービス低下だけを印象づけてしまうというのだ。

 わたしは唸り、後藤は腕を組み、麗朱はうなだれた。ダメなのだろうか。わたしは椅子から立ち上がり、店n窓から外を見た。窓枠からの空を見上げると、また昨日と同じような雨雲がやってきていた。今日もまたスコールなのだろうか?

 13  

 ふと昨日、ミセスTが話していたことばを思いだした。

 “こんな雨が降るなら、お弁当にでもすればよかったわね”

 「お弁当があるじゃないか!」わたしは振り向きざまに言った。声が上ずっていた。3人は怪訝な顔でわたしを見つめた。「日本のお弁当箱を使えばいいんだ」ミセスTがどしゃぶりの中、ケータリング料理を運び込むときに、お弁当箱なら濡れないとつぶやいていた。

 わたしは席にもどり、ランチのプランを描いていたエプロンに、新たに四角い箱の線を引いた。中に仕切り線を引いて、仕切りの中にマルやシカクを描いた。
 「コバヤシさん、マルバツ書いてるの?」と後藤が笑った。
 「下手で悪かったな」わたしは苦笑いして、マルバツゲームと揶揄された仕切り線の内側に“rice” “main” “side” “oshinko”などと文字を書き足した。「お弁当箱ならご飯もおかずもお新香もひとつになるじゃないか」
 「オベントウ・・・箱?」ワンダは言った。
 「Lunch Boxのことだよ」と後藤が言った。「ほら本店には幕の内弁当箱があっただろう?仕切りがあって、ここはご飯、ここはおかず、と分かれているボックスだよ」
 「マックゥ・・ノウウチ、ですね」ワンダが思いだしたようだ。
 「ノンノン。マ・ク・ノ・ウ・チ・ベ・ン・ト・ウ。はい発音して」またしても後藤の日本語発音レッスンだ。
 「発音練習は後でいいよ」わたしはそれを遮った。「幕の内なら、内側に仕切りがあるから、どこに何を詰めるか写真でガイドもできる。ここはご飯、ここはメインディッシュ、ここはお新香とね」
 「それはいいです。これならnipponがあります」
 今度はワンダも賛成だ。わたしはほっとした。
 「おかずの場所を2カ所として、メインとサイドメニューを3つ用意すれば、これとこれを少しずつって取れるな。そりゃいいや」後藤も気に入った。
 「ご飯はいっそオニギリにしたらどうかしら?」麗朱が言った。
 「幕の内弁当といえば俵型オニギリだね。あれならオージーも食べやすい。賛成!」後藤がそういうとワンダは怪訝な顔をした。
 「tawaragataて何ですか。わかりません。onigiriはわかります」とワンダ。
 「俵型のオニギリはね」わたしが俵型オニギリの絵を書こうとすると、“コバヤシさんの絵じゃね”と後藤に止められた。不本意だがうまく描く自信はなかった。
 「nipponのお弁当箱に、好きなnippon料理を食べたいだけ食べられる。日本食の種類や食べ方の勉強になるし」と麗朱。
 「お店にもメリットあるよ。あのサイズ以上はたくさん詰められないから、損しない」後藤の言うのももっともだった。
 
  8776cd1e
引用元

 「これならSIKII GA HIKUI(敷居が低い)かな、ワンダ?」とわたしが訊くとワンダはうなずいた。
 「はい。much much lower(とても低い)」ワンダはにっこりした。「後藤さん。nippon語でall you can eat、なんていうんですか?」と訊ねた。
 後藤のひと言。「Tabe-hodai(食べ放題)」
 「Tabe-hodai。ランチの名前、それでいきましょう!」ワンダがネーミングを決めた。

 (all you can eat Japanの項、終わり。話しはランチへの挑戦へ続きます)

         
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 今夜はあるクリエイターさんと一緒で、ブログのアップが遅くなりました。空を見上げると、明日は晴れそうです。コバヤシのようにじっくりとがんばりたいなと思います。今日は以上です。

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