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2009年3月 1日 (日)

SAKURAの春【24】Nippon Tabe-hodai! 1/7

 豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐる失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント”の24回目、いよいよo'bento-boxのランチ、“Tabe-hodai”アイデアを試す新シリーズです。まずは幕の内弁当箱の調達から。SAKURAの春の物語、ついに折り返し地点。23回目までの全文掲載はこちらです。http://sakura-no-haru.cocolog-nifty.com/

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長い一日が暮れた。わたしはアパートに向かって老Fiatを運転しながら考えた。

 『ニッポンの弁当箱で、好きなニッポン料理を、Tabe-hodaiで食べられる』
 
 これがTabe-hodaiランチのコンセプト。まず日本料理へのSIKII(敷居)を低くしたい。低くする手段のひとつが彼らにとって新奇な“お弁当箱”だ。日本人になじみ深いお弁当箱で、日本食の一端を知ってもらう。お弁当箱に、あなたの好きなものを詰めてくださいという“カジュアルなおまかせスタイル”にして、和食の作法を堅苦しく言わない。まず楽しみながら“参加してもらう”ことに徹する。何度か来てくれれば、日替わりのおかずで日本食の通にもなれる。日本食の食べ方も広まる。

 わたしは日本料理店KOTOの店長堀田が言ったことを思いだした。

 「KOTOのねらいのひとつは、日本食を伝道することです。高級イメージの
 日本食レストランにやって来る現地のお客さまは、さまざまな分野のリーダー
 クラスの方々です。彼らから正しく日本食を広める、彼らのステータスに
 あった格の店舗をつくる。それに相応した味とメニュー、味、サービスを
 提供する。これがひとつのねらいです」

 高級志向のKOTOだから店格を高めて、オーセンティックな和食のスタイルを提供する。だがわたしたちのSAKURA2号店は違う。もっとエブリデイな和食を伝えたい。堀田はKOTOのもうひとつのねらいを語っていた。

 「もうひとつは逆に、現地の食スタイルと融合させた日本食スタイルを
  創造することです。現地のお客さまがどういう食べ方で日本食を食べると
 幸せなのか、日本食の何が好まれ、何が好まれないか、どんな香りが好まれ、
 どんな食感が好まれるのか。現実にお顔を拝見しながらデータを蓄積して
 いるわけです」

 KOTOの親会社は調味料製造会社。だから現地の食事情、食生活、好みをリサーチする役割もになう。重要なのは現地の食スタイルと和食をどうやって融合させ、広めること。和食はこうじゃなきゃダメだと言い張って押し付けるのでは、味による侵略戦争と変わらない。伝統をかたくなに守る旧主な料亭と変わらない。だがその地その地で歴史も違えば風土も違う。自由を重んじる国柄なら自由に。格式を重んじるなら伝統を。

 オーストラリアは他民族の移民の国であり、原住民が呼吸をする国。それぞれの民族が自前の文化を持ち寄って、乾いた大地を耕し、緑を植え、花を咲かせ、地球上にここにしかいない奇妙な動物たちと共に生きる。認め合い、広め合う気持ちがあるのだ。敷居を低くして文化を語れば、きっとわかってくれる。

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 2日続けてスコールの後の空は、どこまでも澄み切って、宇宙の向こうまで見通せるような気がした。

          
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 翌日のランチの終わりの時間、SAKURA本店のシェフKIMさんに電話をした。彼は「コバヤシさん、ゲンキですか?」と片言の日本語で電話口に出てきた。

 元気な声からすると、やはり昨日が体調不全だったというお休みの理由は口実だったようだ。たまにはMr.Tの抑圧環境から離れたいのだ。KIMのせいでケータリングに駆り出されたのだが、それがきっかけでランチのヒントを得た。何が幸いするかわからない。わたしは理由は述べずに、本店に幕の内弁当容器がいくつあるか、それをしばらく2号店に貸してほしいとお願いした。

 しばらくしてKIMが電話口にもどってきた。15個なら貸せるということだった。15個か。15個では足りない。全座席を一回転もできないのだ。それでも無いよりはマシだ。ありがとうと言って電話を切った。Mr.Tがいない時間を見計らって借りにゆこう。

 「15個しかないそうだ」わたしは後藤に言った。
 「それじゃあ一回転もしないなぁ」後藤はため息をついた。「日本で買って取り寄せられないかな?」
 「ふたりで自腹を切るか?」Mr.Tが成功するかわからない実験に投資するとは思えない。
 「いいよ。ハラ切りよりマシだ」
 「違うよ。空手だから手刀切りだ」わたしは後藤の首を斬り落とすマネをした。「だが日本に注文してもいいが、来るまでに何週間もかかる。自腹切っているあいだに、オレたちはハラ切りだ」

 私たちはふたりともうつむいた。せっかくのお弁当箱アイデア、ボツに終わるのだろうか。わたしはしゃがんで頭を抱えて、う〜んと唸った。後藤はナイフを取り上げて、その背でまな板をコンコンと叩いた。唸り声とコンコン音、まるで読経中の木魚を叩く坊主のようではないか。
 
 「いっそのことー」後藤が言った。
 「いっそのこと?」わたしは彼のことばに期待して頭を上げた。
 「敵にお願いしてみたらどうだろうか」後藤は紙ナプキンを取り上げて、ボールペンで4文字のアルファベットを書いた。
 「そうか。それがあったな」解決策のヒントはいつも後藤からやってくる。「よし頼んでみよう」

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 わたしはTabe-hodaiランチのメニュー案やテーブルの配置案を後藤たちに考えてほしいと告げて、調理着を着替えて裏口の扉を開けた。午後のまぶしい日差しが刺さった。商業施設の建物沿いに狭く連なる日陰をつたって、ひとり駐車場に向かう。気温が上がってきた。35度、いやきっと40度ありそうだ。サンシャイン・ステート(クィーンズランド州の愛称)らしい日だ。 駐車場のFiatもからだ中でサンシャインを吸収していた。ドアには熱くて触れないほどだ。平らなボンネットでは鉄板焼きができそうだ。こんな日にイグニッションを回すのは気が引けた。

 だがわたしがキーを回すと一発で滑らかにエンジンを轟かせた。まるで“乗ったか?早く行こうぜ”とエンジンが語りかけるように。ミッションを入れて走り出す。駐車場から道路に出ようと一時停止すると、目の前を“ドアの無い車”が一台走り去った。ここは車検がないのでドアが取れていても走れるのだ。シートベルトさえしていれば、警察もそれほどうるさく言わない。ドアがないと涼しそうだ。老Fiatは車の流れにのった。この気候ならいつも水温計がぐっと上昇し、オーバーヒート気味になるのだが、だが今日はゲージが一定ラインをたもつ。静かに燃えているようだ。そして、行く先はKOTO。

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 この話し、明日も続きます。今日は以上です。

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