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2009年3月 2日 (月)

SAKURAの春【25】Nippon Tabe-hodai! 2/7

 昨日に引き続き豪州ブリスベンのダウンタウンの日本料理店『SAKURA』に漂着したふたりの若い日本人、コバヤシと後藤。SAKURA2号店をめぐる失意と熱意と成長を描く“マーケティング・エンターテイメント”の25回目、いよいよo'bento-boxのランチ、“Tabe-hodai”アイデアを試すときがきました。23回目までの全文掲載はこちらです。

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後藤と訪れた敵情視察のあの日以来、始めてKOTOに来た。駐車場に元気な老馬を停め、ランチが終わり「Closed」というプレートのかかる扉を開けた。照明が落ちて薄暗い店内だった。わたしの声が店内に吸い込まれた。

 「こんにちは、Good Afternoon!」
 
 「お待ちください!」と奥から声が聞こえ、やがてダンボール箱をかかえたKOTOの堀田店長が現れた。わたしは駆け寄ってそのダンボール箱を支えた。
 「ざっと20個ぐらいかな。ウチでも行事とかケータリングにしか使わないから、しばらく使ってくださって結構ですよ」堀田店長が言った。幕の内弁当用の容器を借りれませんかと電話で頼んだ。堀田さんは心よくお貸ししますよと言ってくれた。

 堀田店長に“Tabe-hodaiランチ”のアイデアをかいつまんで説明した。うんうんとうなずいて聞いていた堀田は言った。
 「おもしろいんじゃない、それ」
 「ありがとうございます」嬉しいひと言にわたしは頭を下げた。

 「オーストラリア人に来てもらうプランだ」
 「はい。でもターゲットを決めて発想したわけではないんです。お弁当から始まる日本食、ニッポンを自由に詰められるんだって、それっておもしろそう!そんなノリでいいと思っているんです。お箸を持てないオージーも、ヘルシーな日本食がねらいのオージーも、大食のオージーも、分け隔てなく来てもらおうと」

 「なるほど。失礼だがSAKURA2号店くらいのお店では“日本食をこう食べなさい”と押しつけるのはムリだしね。日本人の接待をねらってもダメです。かといって旅行客をねらう立地じゃないし、駐在員のファミリー層だけをねらうのでは経営は立ち行かない。オージーに日本食を伝えるのをビュッフェスタイルにする。それをお弁当箱にするのは、彼らの興味をひくよ。obento, What?と思う。いろいろな日本料理を日替わりで提供するんでしょ?」
  「はい。毎日2〜3品を用意したいと思います」わたしは自分の顔がほころんでいるのを感じた。「おかずが足りなくなれば、作り足せるので、ロスも少なくできるかなと」
 「おかずを選んで、自分たちでお弁当に盛り付けると、食べながら日本食の成り立ちも学べる。客さまに自由にさせることで、逆に“こう食べるものですよ”とセルフスタディする計算だね」
 
 わたしはうなずいた。
 「お客さまのターゲットをオージーにして、日本への関心をかきたてる。和食のバラエティを広げて飽きさせない工夫がある。お弁当箱というセルフサービスで日本を感じる。気取らずに和食、いいじゃないですか」堀田店長が総括した。
 「ありがとうございます」わたしは敬礼するようにおじぎをした。日本食にはもちろん決まりはあるけれど、お客さまは自由になりたい。店が窮するあいだ、わたしたちは“自分たちに振り向いてほしい”ことばかり考えてきた。だがそれは違う。伝えたいことをしっかりさせて、それをかたちにしないとダメなのだ。かたちになって初めて理解しようとしてくれるのだ。

          
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Danbowl  
引用元 

 わたしひとりひとつずつ段ボールを抱えて運んだ。KOTOのエントランスへの通路に一枚の書の額があった。前に来たときには無かったような気がする。

 「これはブリスベンに移住した書の師範に書いてもらったんです」堀田は壁にかかる横長の書の額を、顎で指した。「せっかくオーストラリアに居るのだから、日本のことをできるだけ伝えたいから」
 「3つの“とぶ”の文字なんですよ」良く見ると“とぶ”という文字が3つ並んでいる。跳ぶ、翔ぶ、そして飛ぶだ。

 Tobu
 
 「最初の跳ぶは、はねるという意味です。オーストラリアの跳ねる動物ーカンガルーやワラビーをイメージしました。私たちはここオーストラリアにいるんだ。まず、ここで跳ぶことを考えようとね。ふたつ目の翔ぶは、羽根を広げるという意味です。跳ねるばかりでなく翼を広げたい。みっつ目の飛ぶは、広げた翼で空高く舞い上がりたい。オーストラリアと日本を同時に見渡せるような高さまで。そんな意味をこめたつもりです」

 わたしたちは何かたいへんなことがあると、上下にとび跳ねて“たいへんだ、たいへんだ”と言い勝ちである。その場で飛び跳ねてもラチが明かない。まずその場所にしっかり立ち、あたりをもう一度見回そう。漂っている空気を、両手を広げてかき寄せてみよう。空気の分子のまん中にある“核”を見つめてみよう。お客さまと自分たちの“ほんとうの姿”がある。そして広げた手で勇気をだして飛ぶ。やるしかないじゃないか。わたしは段ボールのTabe-hodai容器をFiatの後部座席に載せて、運転席に座った。すると後ろから声がした。

 「コバヤシさん、ランチはこれでいけるかもしれないけど、夜のことも考えないといけませんよ」

 確かにディナー対策まで頭がまわっていない。ランチのことだけで手一杯だ。しかし問題はひとつずつ片付けるしかない。わたしはディナーのことを心の隅に置いた。

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 自分で書いていて自賛するようで赤面なのですが、わたしはコバヤシや後藤のフレーズに励まされることがあります。苦しいとき助けてくれるのは、誰かの支援であり、そしてことばです。ことばとは先輩の批評であり、友人の激励であり、多くの潜在的なファンとのテレパシーです。想いや願いは空気伝染する。その伝染力は鳥インフルエンザより強い力を持つ。そう信じています。今日は以上です。

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