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2010年9月19日 (日)

千歩遅れの読後感想『君たちはどう生きるか』

ある思惑があって、アマゾンで売れている書籍100傑を上から順繰りに見た。どうでもいいような本もあるし、一過性の本もあるし、たまにハハンという本もあるけれど、正直読みたいと思う本は少ない。一般読者ニーズを理解するのはむつかしいものだ。

【アマゾン69位の本】

古典もちらほらあるが、69位の一冊が目に留まった。『君たちはどう生きるか』初版は1982年、その底本となる原著は1937年、昭和12年である。なんとぼくには似つかわしくない“道徳の本”なのだが、“網目の法則”ということばに惹かれた。一気に読了した。

軍国主義真っ盛りの時勢、すでに自由な執筆は困難だった。せめて少年少女には、自由で希望をもつ心を育んでもらいたいと、筆者吉野源三郎氏らは考えた。社会を憂いた渾身のちからで刊行した文庫の一冊が本書である。

だから真正面だし、生きることの本質がある。今でも、いや閉塞して縮むばかりの今の時代だからこそ、どうすれば自分を見失わないで生きれるか、希望をつなぎたい人たちに読まれている。それが69位の理由だと思う。

内容は道徳についてのお説教ではない。15才の少年コペル君が体験する物語を通じて考えさせる内容である。いくつか気になった箇所を書き出そう。

【正直に】

また始まったと、みんながあきれて北見君の顔を見守ると、北見君は平気な顔で、そのあとをつづけました。
「僕の方が、ーー断然まちがいだ」 (P32)

コペル君の同級生の友人北見君は、手に負えない頑固なヤツなのだが、コペル君がていねいに電子と電流の科学を説明すると、実にあっけなく納得した。頑迷な軍国主義への反論なのだが、心を柔軟にたもつことは幾つになってもたいせつである。近所に住む叔父さんが、コペル君へいつか読ませるために書くノートにしたためる。

いつでも自分が本当に感じたことや、真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくことだと思う。(P53)

心の底で思ったことを誤摩化してはいけない、何に感動をするかで君の思想がつくられていく、だから常に自分の体験から出発して正直に考えなさいと説く。

自分が感動するものに素直になるー自分のしてきた仕事を振り返ると、必ずしも素直ではなかった。嘘の感動とまでは言えなくても、“ハーフ感動”くら いでやったことが何度もある。仕方ないと自分に言いきかせながら。“フル感動”を探して苦しんできた、とも言えるけれど、それは自分への甘えだ。

【ニュートンの法則】

(林檎が落ちる)その高さを、もっともっと増していって、何千メートル、何万メートル、という高さを越し、とうとう月の高さまでいったと考える。それでも林檎は落ちてくるだろうか。(P78)

万有引力の法則を叔父さんが説明するくだり。「月は落ちてこないだろう」「だから天体の間に働く引力と、地球上の引力は同じ」引力を解説する文は色々読んだが、こういう説明は始めて。どこまでも追っかけて考えると、偉大な発想にぶつかる。これが大事なことと言う。今度はコペル君が叔父さんに手紙を書いた。

僕は今度の発見に、「人間分子の関係、網目の法則」という名をつけました。(P84)

コペル君が気づいたのは粉ミルクができるまで、たくさんの人間が出て来ること。牛を世話する人、乳を絞る人、工場で粉ミルクにする人、運搬する人、汽船に上げる人、下ろす人…小売り店までくる間に、無数に人が関わっていること。自分が食べるものは、網目のような人間のつながりでできていること。

この説明にもがーんときた。サプライチェーンとか西洋語で知ったかぶりして喋ってきた自分が恥ずかしい。そして人間らしくない関係に埋没している自分や、自分の周りを想った。ブチブチ言っていないで、もっと人に尽くすことしかないのだ。

【嘘をあがなう】

あの石段の思い出がなかったら、お母さんは、自分の心の中のよいものやきれいなものを、今ほども生かして来ることが出来なかったでしょう。人間の一生のうちに出会う一つ一つの出来事が、みんな一回限りのもので、二度と繰りかえすことはないのだということも。(P246)

コペル君は仲間が上級生に殴られるのを黙ってみていた。それを悩んで病気になった。コペル君のお母さんは、自分がやろうと思ってできなかったこと(石段を上るお婆さんの荷物を運びましょう、と言えなかった経験)を話す。

つまり、悩むということはありたい姿とのギャップに悩むことありたい姿を持たない人は悩まない。戦争が不幸だと思うのは、ほんらい人間は戦争を好まないからだ。すると、悩みばかりのぼくはまだ救いが残っているのだろうか。嬉しいやら苦しいやら。

本書でいちばん心に残ったのは、このコペル君が嘘をついてしまって後悔するくだりだ。実はぼくにもある覚えがある。もう30年も前、ある約束を破った。それが歯間の小骨のようにしぶとく引っかかっている。そのことにケリをつけるためにも、ある文を書き改めようと思った。もっとホンネ・ホントウのことを書こうと思った。

君たちはどう生きるか』は実に深い自省をいざなう本である。Bookoffで300円で買えるので、アフィリエイトするまでもない。

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