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2011年8月14日 (日)

ネタバレは読者を楽しませるー“賭け”ますか?

推理小説を最後から読むヤツがいる。「こいつが犯人」と知らないと落ち着かないというのだ。そんな読み方あるのかアホなと思っていたら、『ネタバレは楽しみを増やす』という研究がある。被験者にネタバレ版とオリジナル版、どちらが楽しかった?と訊いたら、なんと被験者達はほぼ全員ネタバレ版の方を好んだ。

Researchers Nicholas Christenfeld and Jonathan Leavitt, from the University of California at San Diego, provided participants in their study with a variety of "ironic-twist, mystery and literary" short stories. Some readers read the stories, by authors such as John Updike, Roald Dahl, Anton Chekhov, Agatha Christie and Raymond Carver, in their original formats. Others, were given a preface with the spoiler or read a version with the spoiler written into the middle of the story. 引用元=sodahead

カリフォルニア大学サンディエゴ校のNicholas Christenfeld教授と院生のJonathan Leavittは、チェーホフの『賭け』、 ロアルト・ダールの『羊の殺戮』などひねりがある作品、アガサ・クリスティの『チェスの問題』などミステリー、そしてサムセット・モームの『山荘にて』、 レイモンド・カーヴァー『静けさ』など文学の短編を選んだ。ある被験者にはオリジナル版を、他の被験者にはネタバレ付きの序文付きか、真ん中あたりに結末 を挿入した。

研究結果のグラフのhedonic ratingとは「楽しんだレベル」で、黒い棒がネタバレ、白い棒がオリジナル。1つの作品を除きネタバレの方が楽しめたという結果。そのワケは3点推察されている。

1、実はネタバレを嫌うのはごく最近の習慣に過ぎない。
ギリシャ悲劇もシェークスピアもみんな筋書きを知った上で楽しむ。日本人が戦国時代や幕末を楽しむのと同じだ。韓流ドラマのプロットもそもそもネタバレのようなものだし。

2、結末を追うだけではなく、結末に至る展開を楽しむ。
“倒叙物”を広めた刑事コロンボは、逮捕されるまでの駆け引きがおもしろかった。物語は語りの上手さ、展開の妙こそ醍醐味なのである。

3、経験するより計画する方が楽しい。
「裏切られた!」と言わせるプロットの挿入に作者は心血を注ぐ。読者や観客は作者のひねりの努力に賛辞を惜しまない。

いよいよ打ち切りになる『水戸黄門』は「ええぃ!鎮まれえい!」フォーマットが楽しまれた。最近、権威という権威が失墜し、誰も鎮まらなくなったからだろうか。先週公開された『こち亀』の映画版も不入りだ。ワンパターンがハマらなくなっているのかも知れない。

さてサンディエゴ大学の研究で興味深いのが「オリジナルの方が評価が高かった1作品」である。それはチェーホフの『賭け』。この作品はひねりにひねられている。あらすじをまとめよう。

年 老いた銀行家の15年前の回想から始まる。パーティの席上、死刑制度の是非が話題になった。ホストの銀行家は「終身刑よりも死刑のほうがはるかに人道的」 と主張する。だが25歳の法律家がまっこうから反対して激論になった。ではひとつ、200万ルーブルを賭けようとなる。賭けとは銀行家の離れで、厳重な監 視の下で15年間の幽閉生活をする。法律家は誰とも接触できず、手紙も新聞も受け取れない。食事は小窓を通して与えられ、本は読めるが、言葉は交わせな い。これを15年耐えたら200万ルーブルを支払うというものだった。銀行家は賭けを受けた。ここまでが1章。

幽閉された法律家は語学、哲 学、歴史、そして宗教や神学、さらに医学や哲学まで本を通じて学んだ。1年が過ぎ4年が過ぎ10年過ぎ、いよいよ約束の日がやってきた。銀行家は焦った。 200万ルーブル払えば破産だからだ。そこで殺してしまおうと部屋の封印を剥がし踏み込む。するとー40歳になったはずの法律家はやつれて眠りこけてい た。テーブルには手紙があった。
「15年間本を通じてこの世の生活を研究した。叡智を与えてくれた。だが本の知識などははかなく、むなしく、まやかしである。楽園を夢想していた200万ルーブルの受け取りを拒絶する」
ほっとして銀行家は部屋を立ち去る。翌朝、法律家は窓から抜け出し、門を出て行方をくらませた。

さて、この話はこの2章で終わりだが、実は“失われた3章”がある。

銀 行家はその1年後、またパーティを開いた。金持ちばかりが出席した場、よくある「富や財産なんていらない」と否定する意見が出た。その中でひとり「健康で 頭がいい人でお金をいらないという人はいない」と主張する人がいた。銀行家は法律家を思い出して、「理想のためにお金を蹴った人もいる」と論争になった。
そこでまたしても賭けになった。証拠を見せれば賭けに勝つ。そこで銀行家は法律家の手紙を取りに金庫に行くと、突然あの法律家が現れてこう言った。「書物と違って人生は魅力的だった。やっぱり200万ルーブルくれ」銀行家は結局破産してしまう。

チェーホフはこの物語を刊行後、マルクス版全集に収録するときに3章を削除した。なぜか理由は不明。

さて大学のネタバレテストは「2章版」で行われたとしよう。法律家は幽閉に耐え、200万ルーブルは支払われない。銀行家にとっても法律家にとっても、不気味なハッピーエンドである。

実は「3章版」だったとしよう。銀行家は懲りずに賭けをしてほくそ笑む。だが幽霊のように現れた法律家は、俗世に触れて欲が出している。銀行家も破産。悲劇であり、なるべくしてなった現実

いったい誰が幸福なのか?誰が賭けに勝ったのだろうか?

ここには結末がない。読者の中で「ネタ」を作り上げていくしかない。その仕掛けのある物語は、どこから読まれても、いつの時代読まれても、新鮮なのである。

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コメント

ご指摘、ありがとうございました。修正しました。

投稿: 郷 | 2011年8月26日 (金) 07時18分

>サンディエゴ州立大学のNicholas Christenfeld教授…
the University of California at San Diegoは
カリフォルニア大学サンディエゴ校では?

投稿: | 2011年8月25日 (木) 18時33分

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