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2012年7月 6日 (金)

SONYのカセットテープ空想秘話

SONYのオーディオ事業部の会議室での、ある日のお話しです。

オーディオ事業部長がプレゼンを始めました。プレゼンのピッチは、何十インチの有機ELという鮮やかな大画面に映します。立派な装置なのに売れば売るほど赤字なので、社内で使っています。映し出すのは文字やグラフの静止画で、有機ELにはもったいないです。

「エヘン」と事業部長は説明を始めました。

「SONYのデジタルオーディオプレイヤーのシェアは遂にiPodを上回りました」出席者から万雷の拍手が響きま す。「しかしながら全体市場は伸び悩んでおります」一転してしゅんと。「さらにこのシェアにはiPhoneは含まれていません」「入れるとどうなるんだ ね?」と質問がありました。「iPhoneやiPadなどタブレットでの、プレーヤーとしての使用頻度や時間を推測するスベがありません」「では無視する というのかね?」と追求されると、事業部長は肩をすくめました。再び「エヘン」と咳払いをしました。

「さらに気がかりは、CDの売れ行きの下降と音楽ダウンロード市場の縮小です」会議室の息が止まりました。みんなうつむきました。しかし外国人のボスは大きな声で訊きました。

「この経営結果は、オレのサラリーにどんな影響があるんだね?」

ボスの声を聞いて数人が天をあおぎました。数人が顔を凍てつかせました。その他の人々はうつむいたままでした。

ところがひとり、「あーあ」とアクビをする人がいました。みんな、その人の方を一斉に見ました。50をすこし越えた彼は社内で「オールドタイマー」と呼ばれる課長待遇でした。課長待遇というのは念のため、部下無し、仕事無しの役職のことです。

しかもアクビといっしょに何かを床の上に落しました。プラスティックな音です。なんだろう?と思っていると、オールドタイマーはそれを床からつまみあげました。どうやらそれは「コンパクトカセット」でした。

「き、キミ、まだそんなものをつかっているのかね?」事業部長はドモりました。「ええ」と言うとオールドタイマーは、テーブル上にカセットとケース、そして哀話いえAIWAのゴツいカセットプレイヤーをならべました。

「音楽は回るに限ります。しかもラベルに字も書けます。ケースを棚に並べると美しいですよ。しかも3.81ミリのテープ幅にダブルトラックで録再ができるなんて、神業でしょう?早送りも巻き戻しも目で見えるなんて、今では考えられない技術です。さて、テープがゆるんだらどうしますか?

会議室の後ろの方の人が、鉛筆をもった手を上げました。「巻いたよね!これで

「そうです」オールドタイマーは言いました。「ただし最も良く巻けるのはBICのボールペンです」小さな拍手がテーブルの下で広がりました。「さて音楽をどう聴くか、誰が決めてきたのでしょうか?」

「70年代にSONYがウォークマンで“歩きながら聴こう”と決めました」事業部長が言いました。「その30年後、Appleに“何千曲も持ち歩こう”のデジタル化では負けましたが」「ホントに?」「ほんとにほんとに」

するとオールドタイマーはひゅーっとカセットの中に吸い込まれました。ハナっからカセットが喋っていたのかもしれません。「SONYは音楽デバイス企業じゃありません。ライフスタイル企業です。カセットケース2本並べて“このサイズの再生機をつくりなさい”と言ったのは、歩いて聴く生活をつくろうでした」オールドタイマーのテープ音声は、どこか盛田昭夫氏に似ておりました。「しかし、歩いて聴くのが果たして世のためだったのか…ぼくらは人間を“音楽を聴くコクーン”にしたという反省もあります

テープはいったん無声になり、オートリバースでB面になりました。「今、音楽を座ってじっくり聴こうよ。たくさんよりも好きな曲をじっくりと。デジタルからアナログへ変換録音するのもいいじゃないですか」

テープはここで切れてしまいました。何しろ古いですから。そこでSONYは、古くても新しいコンパクトカセット「HFシリーズ」を2012年7月20日より、出すことにしました。

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