山中教授のプレゼンテーション
かねて「パワポのプレゼンはダメ、手描きでいこう」というぼくだから、山中伸弥教授の手描きプレゼンにはハハンとした。だが彼のプレゼンの全貌を知ると、バァン!と打たれた。
まず手描きから。上が「涙を流す胚」で下が「腫瘍ができて涙を流すマウス」。
ES細胞研究で人間への応用を考えると「母胎で赤ちゃんに育つ胚を壊し、作らなければならない」ので人体実験に近い。ではマウスなど動物実験では、といってもマウスだって可哀想だ。だからiPS細胞を研究する予算をくださいと訴えた。審査員を動かし、文科省の役人も動かし、5年分の研究費の3億円をゲットした。
念のため他の科学者のES細胞研究のプレゼン資料も幾つか見てみたけど、みんな胚の形にこだわった画像や精密なイラストばかり。当然のようにパワポで、細かい字が多い。科学者だから仕方ないとはいえ、ねえ。
手描きのプレゼンはわかりやすさだけじゃない。直線じゃない、丸くて震える線が、人の警戒心を解き、書き手の心の輪郭が見えてくる。そこがいい。
だが彼のプレゼンの核心はそれだけじゃない。人間関係の構築力にある。
海 外の論文発表有力誌の編集者とファーストネームで呼び合う関係。そこから他言はできない情報がもたらされ、論文発表レースに負けない。演台でプレゼンをし ても笑いをとって聴衆との距離を縮める。プレゼン後に質問者や挨拶をかわす人との出会いを大切にして、人脈を構築する。この内容の参照記事はこちら。
しかも専門家ネットワークだけじゃない。研究予算が足りない分、彼はマラソンに出場して寄付を募る。ファンドレイジングサイトでは一般の人から、少額の3,000円や5,000円の寄付を得ている。弟を癌で亡くした人もいる。乳がんの人もいる。健康な人もいる。みんなが少しずつ寄付をしている。
プレゼンテーションって何なのだろうか?と考えてしまった。
コミュニケーションと考えると「いかに伝えるか」「説得するか」、壇上で訴えかけるものになる。それは最初から相手との「壁」があって、それを越えようとする活動である。
山中教授のそれはちがう。彼のプレゼンテーションはコネクション=つながりをつくること。理解の環をつくって、つなげて大きくする活動だ。だから壇上に限らない。ウエブもマラソンコースもプレゼンの舞台なのだ。お願いより、共感を盛上げようとしている。
ぼくもずいぶんプレゼンなるものをしてきたけれど、負けたなと思った。ぼくなんかの凡人とはハナっから大儀の大きさも深さも違うけれど、内容はともかく、「どれだけやりたいか」執念のちがいだ。逆に言えば、それだけ賭けるんじゃなきゃ、プレゼンなんかしちゃいけないのかもしれない。
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