円と縁
生まれるから死がある。始まりがあれば終わりがある。“うふふマーケティング”連載を終えた。2007年9月から2012年12月まで、一度も休まずご苦労様(と自分へ)。
初回はフィリップスのLED照明が
テーマ。ムードに合わせて巧みに色を変える照明。商品のことを書きながら、顧客/ユーザーの心の動きを書いた。「ゲーテは死ぬ間際に「もっと光を」と言っ
たそうだが、未来の人は「わたしの好きな色にして」と言い遺して昇天するのだろうか。」と締めた。なかなかいい(笑)。
お店なら開店日の入り、商品なら発売日の売れ行き、スポーツなら最初の試合の出来、政治なら所信表明でのヤジ、そして恋愛なら初デートのしっくりかげんで行く末が占える。始めがすべて。ぼくの最初の拙文にもすべてがある。
対 象が女性好み商品、語りの切り口は機能や価格ではなくデザインや雰囲気、文章もマッチョではなく女性的。ぼくの思うマーケティングは「売る/PRする/す ぐ儲かる」というものではなかった。「ビジネスメディア誠的」でもなかった。そこを悩んでブレたときもあった。連載の終わりは2回モノで、12月6日「天職について」、同20日「丸く描く仕事」。お時間があればお読みください。
郷好文の“うふふ”マーケティング:“うふふ”マーケティングと天職について考える
今の仕事でお客さまは、あなたの会社にどういう感謝をするだろうか?その仕事であなたはどんな感謝をされるだろうか?それがうれしいなら天職、疑念や偽善があれば、それはまだ天の低い職である
郷好文の“うふふ”マーケティング・最終回:丸を描く仕事をしませんか。
キーワードは「丸」。あなたの仕事は、丸を描けていますか……?自分の仕事を丸にしてみよう。どこがつながっていないだろうか?どうつなげたらいいだろうか?
キーワード「丸」は最近読んで衝撃を受けた吉川英治著『宮本武蔵』から引用した。悩み抜いた武蔵が、和尚が剣豪の周りに描いた円でフッと悩みが軽くなったという逸話だ。
この本にまつわる丸い円、いや「縁」を書いておこう。
そ の本は父の死後8年くらい、ずっと書棚の奥にあった。“時代物”を読む気はおきなかった。まったく忘れていた。だが先々月母が他界したとき、ぼくはふさぎ こんでいたらしい。見かねた長女が「これ読む?」と言って渡したのが『バカボンド』だった。吉川英治原作を漫画家した井上雄彦作品である。
漫 画を読み出して武蔵に惹かれた。こりゃ原典を読もう。待てよ…本棚にあったぞ。父の遺した本の奥付を見ると「昭和25年初版、定價二○○圓」とある。全十 巻なので全冊で2,000円。昭和25年の大卒の公務員初任給を調べると5,000円から6,000円くらい。つまり月給の1/3以上。それが飛ぶように 売れた。敗戦後、国土を造ろう、もう一度戦おうという時代ムードに合ったのだろう。
二十代前半だった父もそれを飛びつくように買った。月給の大半を使った。それから五十年経ち、母が死んだのをきっかけに、自分の娘から「読め」と言われたのだ。
あの世からこの世への縁を感じた。丸くつながっているものだ。この円形の縁を大切にしてもう一度戦いたい。死ぬまでにひとつだけ<作品>を書きたい。
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